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イソップ+キリスト教 『囚人の脱出』

『囚人の脱出』はラテン語の教訓的な動物叙事詩だ。フルタイトルは『ある捕虜の脱出を寓意的に語る』

作者の名は不明。11世紀半ばに書かれたと考えられている。物語の成立は10世紀に遡ると考える向きもあるようだ。
書かれた場所はフランス北東部。現在のヴォージュ県とも、ムルト=エ=モゼル県トゥール(Toul。フランス中部のToursとはべつ)のベネディクト派聖エーヴル修道院とも言われる。いずれにせよ、修道院文学の流れに棹さす作品であることに間違いない。

中世ヨーロッパの動物擬人化の、現存最古の例ということらしい。

語り手は僧院から外の人々の労働を眺めながら、内心の思考をうまく言葉にできないもどかしさを表明しつつ(語りの基底階層)、以下の物語(入れ子となった語りの2階部分)をはじめる。

〈主の生誕から八百十二年後の四月の復活祭の満月のことでした〉(『囚人の脱出』丑田弘忍うしだこうにん『中世ラテン語動物叙事詩 イセングリムス 狼と狐の物語』所収、鳥影社、337頁)。

復活祭イースターの日に、ヴォージュの家畜小屋にたった1頭いた1歳の仔牛が退屈のあまり脱走した。放牧地で草を食んでいる親たちに合流しようとしたのだった。

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