ニワルドゥス『中世ラテン語動物叙事詩 イセングリムス 狼と狐の物語』
『イセングリムス』(『中世ラテン語動物叙事詩 イセングリムス 狼と狐の物語』所収、丑田弘忍訳、鳥影社)は、1148年ごろにニワルドゥスなる人物によってにラテン語で書かれた模擬叙事詩だ。
『囚人の脱出』同様に、イソップ寓話以来の狐と狼との対立を引き継いでいる。
模擬叙事詩とは、ホメロスなどの英雄叙事詩の荘重な文体で卑俗な題材を物語る、一種のパスティーシュ文芸で、遅くとも紀元前四世紀のギリシア語圏には存在し、一八世紀くらいまでは書かれていたという。二一世紀の日本で言えば、神田桂一+菊池良『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(二〇一七。のち宝島SUGOI文庫)のような試みと考えればいい。
ただし模擬叙事詩は、そのように文体を模写しつつ現実世界を諷刺するという傾向を持つらしい。『イセングリムス』で諷刺の対象となっているのは政治権力者と高位の聖職者だ。
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