鎮丸~怪蛇とをらふ~ ⑤
鎮丸と葉猫はサロンにいた。予約に急にキャンセルが入ったのだ。
事務所に戻るまでもない。雑談をしていた。
鎮丸が「あー、この前の子、なんてったっけ?虹子さんだったかな?」
葉猫が答える。「そうよ。」
「今頃、どうしてるかな?」
その時、サロンのドアが開いた。
「こんにちはー!ごめんなさい。予約してないけど来ちゃった!」
虹子である。
「あら、いらっしゃい。ちょうど今、あなたの噂してたのよ。くしゃみ出なかった?」葉猫が笑顔で迎える。
「その通り。予約のキャンセルがあって、時間が空いたよ。神計らいだ。」鎮丸も笑顔だ。虹子の陽気を浴びると自然に笑顔になる。
葉猫が聞いた。「ところで今日はどうしたの?この前の続き?」
「今日は鎮丸先生に相談があって来たの!」
「おや?どういった風の吹き回しだい?」鎮丸が苦笑いする。
「この前、蓉子の結婚式に行った話したでしょ?あの後しばらくして肘の傷が化膿しちゃったの!」
「ばい菌でも入ったんじゃないか?それは、ここじゃなくて皮膚科に行った方が…。」
「先生。この前は失礼言ってごめんなさい!傷は一旦治ったの。それなのに一晩でひどくなっちゃった!見てくれますか?」虹子が少し困った顔で言う。
鎮丸は「どれ、ちょっと見せてごらん。失礼。」と言い、虹子のシャツの袖をそっと捲くった。
(これは!)鎮丸は鱗のような瘡蓋に、瘴気の残滓を感じた。
顔には出さない。音叉で祓った。そしてハンドで正の気を注入した。
(この瘴気は…蛇?しかしどこで蛇の気に触れた?)鎮丸は後で時間をかけて霊査することにした。
「あっ!すごーい!痛くなくなった!不思議ね!先生ありがとう!」
虹子はいつもの笑顔になり、
「葉猫先生、またねー!」
と言って去って行った。
天真爛漫なのか無遠慮なのか。しかし全く憎めない存在であった。
虹子が去ったのを確認して、鎮丸は霊査を始めた。最近、蛇に関わったのは、蓉子の件だ。しかし、あれは祓うほどのものでもなかった。生まれた時から蓉子に憑いている。
蓉子と虹子は親友だ。接点はある。
蓉子の蛇はきっちり祓うべきものだったのか?狐に気を取られ過ぎて、除霊がおざなりだったのではないか?鎮丸は逡巡した。
その時、あの声がした。
(あなたが考えているとおーり!)女性の声である。続けて聞こえて来る。
(蓉子の除霊は30点!)
「そ…それは余りに厳し過ぎるのではありませんか?」
(まだ、もう一つ、大事なことが抜けてるわよ!)
「な…何ですか?」
(教えてあげない。自分で考えなさい。)
「ちょっと、あなた何を独りでぶつぶつと…」葉猫が鎮丸を見つめて言った。
「大変なことを見過ごしていた!」鎮丸は慌てふためいた。
「どうしたの?」葉猫が冷静に訊く。
「蛇だよ!蓉子さん、実家に一度戻ってるよな?」鎮丸が訊き返す。
「そうね。結納やら結婚のご挨拶やら、なにかしらあるでしょうからね。」
葉猫も蓉子が実家に戻ったか霊査する。
「あっ!なめら筋!?」
少し落ち着きを取り戻した鎮丸が言う。
「蛇がまた力をつけたんだ。だが、もう蓉子さんには憑いていない。虹子さんにも残滓はあったが、憑いていなかった。一からやり直しだ。」肩を落とした。
葉猫は「あなた、まだ前世を思い出したばかりでしょ?これからよ。」葉猫が励ますように言った。
(to be continued)
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