鎮丸~妖狐乱舞~ ⑮
それから3日ほどして、新宿の事務所に神永龍之介と緑川蓉子が手を繋いで尋ねてきた。
蓉子が「その節はご迷惑をお掛けしました。後から聞いたんですが、彼の方が先にご相談に来てたんですってね。」と明るい表情で言う。
神永が、「先生方に『生き霊を飛ばしてる』と言われて、彼女も反省したんでしょう。」と言った。
鎮丸はにやりと笑って葉猫を見た。
蓉子が「でもどうして龍之介が来てるって教えてくれなかったんですか?」と聞く。
鎮丸は「そりゃねえ…守秘義務ってもんですよ。」と答える。
「あの後、変な夢を見て、家で目が覚めて、そしたら妙に気分がすっきりしていたの。」
と蓉子が言う。
「へぇ、どんな夢?」葉猫が薄笑いで聞く。
「あのね、鎮丸先生が夢に出て来て、妖怪を退治してくれたの。格好よかったわよー。その後、変な子鬼二人に助けられて、そこで目が醒めたの。」
「ちょっと質問していいかね?」鎮丸が聞く。
「蓉子さんの側ににもう一匹、妖怪いなかった?」
「あ、いたいた!でもね、乱暴なこと何もされなかったよ。毛繕いばっかりしてて。自分は旦那さんの妖怪と運命を共にするんだって言ってた。」
葉猫が聞いた。「その後、お仕事はどう?」
蓉子の顔が輝き、「聞いて下さいよ!私達、来月結婚するんですよ。」と言う。
龍之介が「蓉子、あれお渡しして。」と言うと蓉子は手提げ袋の中から、大きなフルーツバスケットを取りだした。
「これ、ほんの気持ちです。」
「いやぁ、先生達、恋愛の神様みたいですねぇ。」龍之介が言う。
「いやいや、達じゃなくて、そりゃこっち!」鎮丸は葉猫を指さす。
「どうもありがとうございました。」二人揃って言うと、また手を繋いで帰っていった。
丁寧に閉めたのかドアが少し空いている。
「扉を閉めよ。」鎮丸が言うとドアがひとりでに閉まった。
葉猫が「よかったわねー!一件落着よ!ところで神永さんの守護神って分かる?」唐突に聞いた。
「んー、女神様かな?」
「ブーッ!名前の通り龍神様でした。」
「プッ!まんまだな。まんま。」
「さぁ、うちの女神様にも神饌を捧げましょう。」葉猫は言うと、神棚に貰ったフルーツバスケットを備えた。
御神体の鏡がさも嬉しそうにキラリと光った。
(end)