鎮丸~妖狐乱舞~ ⑥
また鎮丸は新宿の事務所へと急いでいる。私鉄の階段を下りた。左足に痛みが走る。
「いててて…昨日の火球?ありゃ、夢だろ?」
足を引きずりながらホームへ着くとタイミングよく電車が来た。
「うはぁー、グッドタイミング!足が痛ぇから助かったぜ!」
無意識に左手で刀印を作り、上下に振っていることに自分で気付いた。
(なんだろう。変な癖がついちまったな。こんなの見られると恥かしいよな。)
10分ほど電車に乗り、新宿駅に着く。もう若くない鎮丸は、エレベーターを使う。またもグッドタイミング。待つことなく乗れた。
「お?いいねー。スムースだね!大安吉日?それとも守護霊のお導き?」
上機嫌である。事務所のある雑居ビルに着く。ここでも到着するやいなや図ったようにエレベーターのドアが開く。
「ん?」鎮丸はやっと違和感に気付いた。
ボタンを押していないのだ。乗り慣れたエレベーターだ。ここのエレベーターはいちいち1階には戻らない。呼ばなければ来ないのだ。
「ま、こんな日もなきゃね。」
鎮丸はそれ以上深く考えなかった。
ドアを開ける。社長の葉猫が予約の電話を取っている。
「はい、かしこまりました。11時のご予約ですね。お待ちしております。」
「社長、お客さん?」
「ええ、20代の女性よ。近頃、自分が自分じゃないような感じがするって…。」
「うひひひ…若いお嬢さんね!」
「馬鹿、施術は私がするのよ!」
女性の名前は緑川蓉子。精神的に不安定なのと、最近、男性に振られた心の傷を癒したいとのことだ。
若い女性にはよくある話だ。このサロンにもそういった客が引っ切りなしに来る。
葉猫が事前に霊査をする。はっとした表情で、もう一度霊査し直している。
「大変よ!この子、この前の男性に憑いていた生き霊の本体なの!獣筋よ!」
「なにーっ!ついに本星登場かよ。しかもあっちから来るなんて。」
しかし考えようによってはチャンスでもある。本人をカウンセリングして、生き霊を飛ばさないように説得すればいい訳だ。
鎮丸は昨日の夢を思い出していた。
あれは間違いなく今日来る緑川蓉子の心象風景だろう。
すると「獣筋」とは妖狐使いだったことになるが、術師の命令で動いているようには見えなかった。
しかも3体いた。
鎮丸は左足を擦りながら、葉猫に昨日の夢の内容を語って聞かせた。
「うーん…無表情な女が蛇を使って呪っているのは、分かるわよ。でもどうして狐使いなら、狐を使役しないのかしら。蛇じゃないでしょう?」と鎮丸に聞く。
「そうなんだ。あの妖狐達は自分の意志で動いていた。少なくとも禿は。いや、むしろ女が妖狐に支配されてる感があったんじゃよ。」
葉猫は「慎重に行かなきゃね。私が施術する。邪魔にならないように形だけ音叉治療して。いざと言う時は不動明王の力で助けるのよ。」
鎮丸は不動明王が夢の中で手を貸さなかったことは黙っていた。
(to be continued)