鎮丸~怪蛇とをらふ~ ②
岡山県某所、蓉子の実家。
蓉子の両親を目の前にして、龍之介が居住まいを正している。
「これからの長い人生、蓉子さんと過ごして行きたいんです。お願いします。結婚させて下さい。」
龍之介が深々と頭を下げる。合わせて蓉子も頭を下げた。
父親は憮然とした表情で、
「その気持ちに嘘偽りがないなら、君に話しておくことがある…。
まぁ、それはそれとして、遠いところご苦労さん。今夜は泊まっていきなさい。」
それきり何も言わなかった。
対照的に母親は、やや上気した顔で、「いい男ねー。惚れ惚れしちゃうわ。さぁ、一杯どうぞ。」と日本酒をつぐ。
「じゃ、もう数品、肴の支度するわね!」
そう言うと母親は台所に立った。
蓉子も「私も手伝うよ。」と言い席を立つ。
台所で母娘二人並んで小声で会話をする。
「あなた、いい人捕まえたじゃないの!」
蓉子が答える。「うん。色々あったけどね。とっても優しい人なんだ。」
母親は頷きながら、真剣な表情になり、
「あの人、神様よ。龍神様。」と言った。
蓉子は驚く様子もなく、
「おばあちゃんが生きてたら、きっと同じ事を言ったよ。」と返した。
「さ、お手伝いはいいから。居間に戻って。男二人じゃきっと気詰まりよ。」
蓉子が戻ると二人とも案の定、黙って酒を呑んでいる。
蓉子が間を持たせるかのように酒を勧める。
「はい、お父さん、龍之介さん。」
それを飲み干した後、龍之介が思い切って切り出した。「あの、先程、お話があると仰いましたが…。」
蓉子の父親は、一拍置いて語り出した。
「君は神ごとを信ずるたちかね?」
「はぁ、実家が神社をやっておりまして。」龍之介が答える。
「そうか。ならば話は早い。うちは代々拝み屋をやっておってな。私の母、つまり蓉子の祖母の代まで続けておった。」
「はい。そのお話は蓉子さんから伺っています。」
父親が続ける。
「わしの代で拝み屋は辞めたが、氏神様への信仰は捨てておらん。君は気付いていると思うが、蓉子は時々神懸かりになることがある。それは血筋によるものだ。ただ、それによって周りに迷惑をかけることもあるだろう。」
龍之介は真剣な顔で答える。
「蓉子さんは精神的に不安定な部分があるかもしれませんが、それを補って余りある程いい面を持っています。きっと僕が支えます。それに近頃は気持ちも安定しています。」
蓉子の父はちょっと思案した後、こう言った。
「どうだろう。そちらのご両親にお会いする前に、君から当家の血筋や、蓉子の神懸かりについて、きっちり話しておいてはくれまいか。」
元より龍之介はそのつもりであった。
「はい、分かりました。」
父親は安心した表情になった。
「そうか。ありがとう。」
蓉子の方を見て、
「しっかりしたいい青年じゃないか、蓉子。しかも神職の御子息だ。いい所に縁付いたな。」と言い、蓉子がついだ酒をもう一杯、呑み干した。
(to be continued)