鎮丸~妖狐乱舞~ ⑬
「葉猫がおまえなんぞにやられるものか!わしがそうはさせん!」鎮丸が言うと
「能書きは終わりだ!死ねぇーい!」
禿は口から灼熱の球を吐いた。
鎮丸はかろうじて直撃を避けたが、熱風で吹き飛ばされた。
この威力!夢の世界とは段違いだ。
「言っただろう。我は皇帝だと。」
鎮丸を見下ろす禿。
「奢るな!やられてばかりではないぞ!」
オン アギャナエイ ソワカ
「火天呪!火には火だ!アグニ神よ、御加護を!」
禿の三倍はあろうかという大きな火神が体から炎を出す。炎が禿の全身を包む。
「はーはっは!こんなものか、なんという脆弱なる念!」禿は微動だにしない。
「では、これはどうだ。矜羯羅(こんがら)!制託迦(せいたか)!」
鎮丸が叫ぶと二童子が現れ、「ヴァジュラ!」と声を発し、独鈷杵(とっこしょ)及び三鈷杵(さんこしょ)を投げつける。
光を帯びた独鈷杵、三鈷杵は、禿を貫くかに思えたが、禿はその場所にはもはやいない。神速である。二つとも虚しく地面に突き刺さった。
「化け物め!」
鎮丸がそう言った瞬間、体の自由が効かなくなった。
「ぐっ!なんだこれは?!」
禿の妖術かと思ったが、禿は二童子と交戦中である。
その時、薄緑色の空に邪眼が浮かんだ。
「余計なことをするな、母上!」
制託迦をくわえて投げ飛ばした禿が言った。
どうやら思念はこの世界に飛ばせるらしい。
やにわにヒュンと何かが空を切る音がした。
鎮丸の左肩に激痛が走る。
「痛っ!」
体が動かない鎮丸は眼だけで自分の肩を見た。銀色の針金のような体毛が刺さっている。
もう一度音がした。今度は前回夢の中でやられた左足に銀の体毛が刺さっている。
「な…なるほど、三位一体と言うわけか。」
禿は矜羯羅童子に掛かりきりになっている。気付いた様子はない。
矜羯羅童子は善戦していた。
息もつかせぬ独鈷杵の連続攻撃で禿の動きを封じていた。
制託迦も投げ飛ばされた黒い森から飛んで帰ってきた。矜羯羅に加勢しようとした瞬間、空から大量の銀の体毛が降ってきて、制託迦の動きを封じた。
「おぉ、采女か?」
禿が天を仰いだ。矜羯羅が降って来た体毛を避けて体勢を崩した瞬間、禿は前足で蹴り飛ばした。
「ふはは。我らが3柱揃った暁には人間の世界を意のままにしてやろうぞ。」
「ぐっ…思い通りにはさせん!」
「もうこの前のように俱利伽羅剣で弾くこともできまい!死ねっ!」禿は火球を吐いた。
猫葉は、モニターで様子を窺っていた。
会話だけが文字として表示される。
鎮丸が危ない。
猫葉はキーボードを叩いた。
「前世よ!前世を思い出すのよ!」
その声が鎮丸の頭に響く。今回は葉猫そのものの声だった。
(to be continued)