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己 ~おのれ~
沈金(ちんきん)とは、江戸時代から日本に伝わる伝統工芸の一つです。塗り終わり完成した漆器に専用のノミを当て、文様を彫ります。
全て彫り終わってから漆を接着剤に、彫った溝に金粉を沈めます。「金」が溝に「沈む」ことから「沈金」と呼ばれる、漆芸の加飾方法の一つです。
彫る加飾技法のため、光の当たる角度によって表情が大きく変わる事が大きな特徴と言えます。
伝統工芸とは、その形状を最低100年保つことが出来なければ「伝統工芸」と呼ぶことは出来ません。
ー作品についてー
ミミズクをモチーフに、20代前半に制作した作品です。本作品には目の部分以外、あえて銀粉を使いました。
銀は年月を経て腐食する素材である事を考え、色入れを終えてからくちばしの部分にのみ漆で薄くカバーをし、羽とくちばしに腐食の差が出来る事を狙いました。
制作からおよそ20年という歳月が経ち、当初の狙い通りに腐食するスピードに差が出来、くちばしは銀に輝き羽が腐食により茶色っぽくなり、本作品に重厚感が出たように自負しています。
そして本作品は未完成のままこの先何年もかけ、モチーフであるミミズクは成長し年老いていくのでしょう。
ほぼ確実に、私の命よりも長く。
・第51回欧美国際公募フィンランド美術賞展入選作品
ー作品制作にあたりー
どの作品においても、私はその作品に「生きて」欲しいと願い祈りながら
ノミを当て彫っています。色入れの際も同様に祈りながら。
動物や人物がモチーフの時は特にその想いは強くなりますが、般若心経のように文字のみの作品であっても風景であっても、想いは同じです。「生きた」作品が、どなたかの心に「生きて」何かを届けたとしたら、それが私の本望です。
また、伝統について語るとすれば、本来ならば伝統工芸という縛りの中で
アクリル板に沈金とは、考えられない事なのかもしれません。
しかし、「伝統」とは、時代時代によってその都度変化し少しずつ形を変えながら「伝統」として後世に残っていく物だと、私は考えます。
今後も、もしかしたら漆でもなくアクリル板でもない何か違う素材に沈金を施すのかも知れません。