Eps.3 再会の軌跡
再びこの街を訪れた時、青島はまた冬の空に包まれていた。気がつけば、あの日から1年半という長い時間が過ぎていた。それでも、飛行機の窓から青島の街並みが見え始める頃には、自然と彼女のことを考えている自分がいた。そのたびに、少し呆れながらも胸の奥で微かな期待が膨らむのを感じた。
初日の打ち合わせを終え、ホテルに戻る頃には日が傾き、空が夕焼けに染まり始めていた。部屋に戻っても落ち着かない気分を紛らわすため、散歩に出ることにした。スマホとカードキーだけをポケットに入れ、エレベーターを降りる。エントランスの回転扉をくぐり抜けると、ホテルの隣にある大きな公園に向かった。
6車線もある広い道路を注意深く渡る。ここでは車が優先だということを改めて思い知らされる。僕のすぐ横を、左折してきた車がスレスレの距離で通り過ぎていった。
西側の門から公園に入ると、まず目に飛び込んでくるのは北京オリンピックを記念する大きなモニュメントだ。葉を落とした木々の幹が下半分だけ白く塗られている。その光景が、空気の冷たさを一層際立たせていた。
中国の公園に来ると、いつも驚かされる光景がある。カラオケ機材を持ち込んで一人カラオケを楽しむ人や、大音量で音楽を流しながらダンスに興じるグループ。日本ではなかなか見られない光景だ。土地の広さもあるのだろうが、どこか他者への寛容さを感じさせる。過度に干渉しない文化なのか、それとも人目を気にしない気質なのか。ただ、その自由さには「いいな」と思わせる何かがあった。
暮れ始めた太陽が沈む前に公園を一周しようと、僕は少し早足で池の周りを歩き始めた。冷たい風が頬を撫でるたびに、どこか遠い記憶が甦るような気がした。
今回は少し長めの青島滞在だ。日本での慌ただしい日々から少しだけ距離を置きたくて、有給を絡めた10日間の滞在を計画した。
コロナ禍では先行きが見えず、この仕事がどうなるのかと不安に思った日もあった。しかし、今では驚くほど順調で、以前にも増して忙しい日々を送っている。そのおかげで、こうして再び青島に来られたことを感謝すべきだろう。日が暮れると、街は急に冷たい風を纏い始めた。ホテルへ戻る道すがら、ふと頭に浮かんだのは、あの店のことだった。「行ってみようかな。」そんな考えがよぎった瞬間には、既に足がその方向へ向かっていた。
遠くに、見慣れた大きなガラス扉が見えてくる。薄暗い街の中で、その扉だけが妙に輝いて見えた。気づけば、少し緊張している自分に気づく。
扉を開けた瞬間、時間が止まったかのように感じた。目の前にいた彼女がちょうど顔を上げ、僕と視線を交わした。間違いない、あの瞬間の記憶が鮮明に蘇る。少し伸びた金髪に、緩やかなウェーブがかかった髪型。以前とは少し変わっていたが、それでも彼女の面影はあの頃と何一つ変わらない。ずっと探していた彼女の姿が、目の前にあった。
突然すぎて、言葉が出てこない。喉の奥に詰まった言葉が、どうしても形にならない。戸惑う僕に代わって、彼女の方から微笑みながら声をかけてくれた。その笑顔は、あの日の青空よりも眩しかった。
彼女:欢迎光临!
咦,我们是不是见过?
僕:对啊,我们以前见过一次。
大概是一年前吧,还记得吗?
蔬菜水饺和青岛啤酒。
彼女:(笑)我记得了!好久不见啊!
僕:真的好久不见了,你最近怎么样?
彼女:很好啊!一直都挺好的。你呢?
彼女の声に導かれるように、僕たちは階段を上がった。どこか夢のようなその一瞬が、現実と非現実の境界線を曖昧にしていくようだった。案内されたのは、以前と同じテーブル席だった。懐かしい場所に戻ったという安心感と、彼女と再会したという興奮が交錯し、鼓動が早くなるのを感じた。
僕: 那,今天也给我一样的,
蔬菜水饺和青岛啤酒。
彼女:好的,请稍等。
顔が赤くなっていないか気になり、窓ガラスに映る自分をさりげなく一瞥する。思わず苦笑した。あれほど会いたいと願っていた彼女が目の前にいるのだ。これが平静でいられるはずがない。本当に、会えたんだ。料理が届くまでの間、混乱する気持ちを少しずつ整理しようとする。それでも、「願いは叶うものだ」という甘い考えが頭をよぎり、その度に自分自身を持て余してしまう。彼女が僕の前に食器を並べるため再び現れた。青島ビールとコップを手に、慣れた手つきで栓を開け、丁寧にコップへと注いでくれる。その動作はスムーズで、美しい光景にさえ思えた。
言葉を交わさなくても、彼女の微笑みがその日の彼女の気分を物語っているようだった。優しく、どこか楽しげな笑顔。その雰囲気が消えてしまう前に、僕は意を決して言葉を発した。
<続きはこちら>
↓
中国語の解説はこちらです。
会話例文(Eps.3 再会の軌跡)