
なぜ中小出版社はまだ電子出版に消極的なのか?
以前に書いたまま、アップするのを忘れていました。HON.jpさんによる、オープンカンファレンスの話題です。表題の通り、中小出版社で進まない、電子化について。
取次・書店ルートが先細っていく中、なぜ中小出版社はまだ電子出版に消極的なのか?【HON-CF2024レポート】
HON.jpが9月7日に開催したオープンカンファレンス「HON-CF2024」のセッション3「小規模出版社のデジタル・パブリッシング」の様子を、出版ジャーナリストの成相裕幸氏にレポートいただきました。
①巣ごもり景気と電子書籍
1995年、奇しくも『ドラゴンボール』と『SLAM DUNK』の連載が終了し、650万分あったジャンプの部数が、今では100万部を切るレベルに落ちて。
出版業界はここをピークに、ずっと右肩下がりの斜陽業界と思われていました。

ところが、2020年にコロナ禍で巣ごもり景気が起き、過去代行地を25年ぶりに更新し、以降は右肩上がりに。
いかに、出版業界が印刷書籍にこだわり、ビジネスチャンスを失ってきたか、ひとつの証明ですね。
冒頭、司会のHON.jp 理事長・鷹野凌氏が挙げた出版統計数字は、紙出版市場の縮小を端的に表している。2023年度の書籍新刊点数は6万5000点ほどで最も多いときの7万8000点から大きく減った。出回り部数でみると2000年と比べると現在は約半分の水準まで落ち込んでいる。
紙の本は2005年をピークに、じわじわと下がっていたのですが、現在はほぼ半分ぐらいまで減り。逆に電子書籍は爆発的に伸び、逆に60%ほどを締めていますね。
実業之日本社は、『静かなるドン』を電子書籍化し、配信サイトで待てば無料で公開したら、純利益で6億円のアップがあったとか。
まさに、ビジネスチャンスの喪失です。
②紙と電子は相補的な存在
電子書籍を少しでも褒めると、いかに印刷書籍が素晴らしいかを、力説する人が現れますが。
本が好きで作家になった身ですから、そんなことは百も承知、二百も合点なのですが……。
でも現実問題として、蔵書が数千冊にもなる本好きほど、電子書籍に移行しているという現実があります。
タブレット型にmicroSDXCの1TB版を差すと、1万冊かそれ以上の電子書籍が、収納できるのですから、当然ですよね。
紙の本で残したい本は、普通に買っていますしね。
1990年代前半から電子出版に取り組んでいる先行者ボイジャーは、現在どのような出版形態をとっているのか。まずオフセット印刷+付き物(カバー・スリップ等)を投入する。その後の重版はオフセット印刷(付き物予備利用)→小ロット印刷(付き物予備使い切り)→ペイパーバック、アマゾンPOD(プリントオンデマンド)の流れ。紙製作物の残数を適時把握し、電子版を組み合わせることでコスト面を抑えることができている。
出版社の側も、損が出ないようにいろいろと工夫して、紙の本の出版も継続しています。そこには、地道な努力と工夫があることを、忘れてはなりません。
③デジタル化が遅れる中小
沢辺氏の〔「(2000~3000円の比較的高価な本なら)500部増刷まではオフセットで全然あり。このときPODの選択肢はない。PODで200部つくるならオフセット印刷にした方がいいのでは、というのが僕の原価感覚」〕という指摘は、かなり重要かと。
PODとはプリント・オン・デマンドの略で、オンデマンド印刷とは注文があり次第、迅速に印刷する出版方法のこと。
まとめての印刷なら、単価が下がりますから、200部ぐらいの需要が見込めるなら、500部を高品位なオフセット印刷でするというのは、ひとつの目処になります。
そのような現状を踏まえ「小規模出版社はなぜデジタル・パブリッシングをやらないのか」(鷹野氏)との疑問については、沢辺氏が大手出版社と比較すると人出が足りないことと、「電子書籍をつくることにある程度ノウハウや販売を含めて精通してやるのは個人的なキャラクターにすごく依拠する。組織的な体制がつくれないのが最大の原因で(具体的な製作を)誰に頼めばよいかはその先の問題」と指摘。
残念ながら、出版は少人数でできるため、昔ながらの手法で回していける部分はあります。
昔ながらの手法で版下を作り、印刷所に入稿すれば、良いのですから。
パソコンや専用のアプリケーションを購入し、新たな方法を覚えるのは、億劫です。
デジタル化で、どんなメリットが有るのか、費用対効果も、そもそもよく理解していませんし。
④重要な採算ラインと売上
前述したように、「実業之日本社が『静かなるドン』で6億円の純利益が出た」という情報がないと、中小の出版社は、なかなか動かないでしょう。
デジタルに移行すれば生き残れそうな雑誌も、神の法で発行できなくなったので廃刊、からの編集部解散までありますし。
この記事が有用なのは、そういうお金の情報もオープンに語ってくれていることですね。特に、以下の部分。
本格的に電子書籍に取り組むときに必ず直面する「お金の問題」は、鎌田氏が製作会社として請け負った2社の実例を1円単位で公開。年間点数30点未満のある会社の直近3年間の実績(点数29)は、売上部数6820部、売上金額606万2239円、電子本製作費が64万6100円で差し引きの粗利は541万6139円だった。
さらに、〔3年間に電子書籍15点の別の一人出版社は、電子本製作費に対して売上金は10倍以上になっている。〕という情報こそ、個人出版社を立ち上げたい作家には、喉から手が出るほど欲しい情報ですね。
出版社として運用すると、どうしても人件費の問題が出てきます。でも、これが作家個人の個人出版社で、自分自身やパートナーがDTP作業をする、あるいは編集プロダクションに製作をアウトソーシングできるなら?
⑤そして個人出版社の時代
下記記事のように、年刊10冊なら500万のコストがペイできるかは、創作ペースと売上の兼ね合いですが。
Amazon独占販売で750円の電子書籍と980円のPOD版で、3000部ずつ売れれば売上は225万円と294万円の、519万円。
Amazonなら70%印税ですから、自分のアカウントを作って販売すれば、157.5万円と205.8万円で、合計363.3万円。
もちろん、POD版は紙代や印刷代がかかるので、利益率はもっと低いです。
あくまでも大雑把な計算のためです。
でも、そういう本を2冊以上出せれば、充分にペイできそうです。
おおざっぱな一試算として、書籍編集者一人の雇用コストが年間500万円だとして1年で10点製作なら1冊あたりコストは50万円(営業関連コスト等除く)。これを回収しようとしたときに「電子書籍ファーストでつくりたいという人がいるがそれは無理」。電子書籍の1冊製作製作費の相場の「3万円」を紙出版物製作に追加することで一定の売上が期待できるストックができるのなら、その負担分はマイナスにはならないとの見方を示した。
赤川次郎先生の年24冊や西村京太郎先生の16冊はともかく、年4冊ペースで3000部ペースの電子書籍だけで、個人書店なら充分に、やっていけそうです。
自分自身でDTPをやるなら、さらになんとかなりそう。
作家とパートナーと担当との、三人で回していくとなると、5000部ぐらいあれば、なんとか食べていけそうですが、そう計算通りにはいかないでしょう。
でも、考えるヒントにはなりますね。
以下は諸々、個人的なお知らせです。読み飛ばしていただいても構いません。
筆者の小説(電子書籍版)でございます。お買い上げいただければうれしゅうございます。
文章読本……っぽいものです。POD版もあります。
筆者がカバーデザイン(装幀)を担当した、叶精作先生の画集です。POD版もあります。
投げ銭も、お気に入りましたらどうぞ。
いいなと思ったら応援しよう!
