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Kindleインディーズの収益

X(旧Twitter)を見ていると、ぬこー様ちゃんさんの、こんなポストが流れてきました。MANZEMI講座の出版部門である春由舎も、Kindleインディーズに参加していますので、とても参考になる内容でした。貴重な情報公開、ありがとうございます。

気がついたらKindleインディーズの漫画が600万DL超えてました!
2022年春に初めて約1年半。
分配金がもうちょっとで7000万円になります。

だいたい50ページ前後の本で1DLにつき10円くらいの収益です。
無料なのに。
ポートフォリオにもなるし、これ自体が仕事になる。(後略)

https://x.com/nukosama/status/1736561603217350708?s=20

画像も重要なので、転載しますね。

https://x.com/nukosama/status/1736561603217350708?s=20

Kindleインディーズの資金のベースは、Amazon Prime会員の会費のようで。アマプラは面白い映画や漫画を無料で読み放題という、一種のサブスクリプションですから。

Kindleインディーズも、無料本を読むにはウェブ・ブラウザからでも可能なものもありますが、対応していない作品もありますから、そういう電子書籍はスマホやタブレットに、Kindleアプリを入れる必要があります。

そうすると、オススメにある有料の本を読んでみようかとか、いっそプライム会員に入ろうかとか、購買の呼び水になるのは理解できますよね? 一種のAmazonの宣伝になるのです。結果が出ているので、Kindleインディーズに回せる予算が増額しています。

今回の情報はとても貴重な内容ですから、漫画家のKindleインディーズで作品を出すことの可能性について、アレコレと考察してみます。

①新人の初単行本の収入

例えば、週刊少年ジャンプで新人が連載を持って、初単行本が初版3万部だとすると。新書判単行本は値段もばらつきがあるので、最初から大人気で、異例の初版10万部もあるので、以下にまとめて計算を。

480円30000部10%印税=144万円
502円30000部10%印税=150.6万円
480円100000部10%印税=480万円
502円100000部10%印税=502万円

ということで、だいたい印税は144万円から502万円の間ぐらいでしょうか。

またジャンプの新人漫画家の原稿料は、モノクロは1ページ1万8700円以上、カラーは1ページ2万8050円以上とのこと。これは他社に比べて、かなりの厚遇で、普通は1万円以下も珍しくないです。漫画の新書版の単行本は192・200・208ページが基本なんですが、近年は薄めの単行本も増えていますので、180ページ前後で1冊になると考えると、大雑把に原稿料の総計は350万ぐらいでしょうか。人気作なら、カラーページも増えますので、概算です。
原稿料+印税の収入が単純計算で、500万から850万ぐらいでしょうか?

②普通の新人と期待の新人

ぬこー様ちゃんさんの、Kindleインディーズを利用し始めた期間に合わせると、約1年半の連載では単行本4冊か6冊分ですから。いろんなパターンをまとめると、以下のような感じに。

原稿料1冊分180万円4冊=720万円
・原稿料1冊分180万円
6冊=1080万円
・単行本印税144万円
4冊=576万円
・単行本印税144万円
6冊=864万円
・単行本印税150.6万円
4冊=602.4万円
・単行本印税150.6万円
6冊=903.6万円
・単行本印税480万円
4冊=1920万円
・単行本印税502万円
6冊=3012万円

ということで、最少額で原稿料720万円+単行本4冊576万円=1296万円から、原稿料1080万円+単行本6冊印税=4092万円ぐらいでしょうか。もちろん、人気があれば原稿料は上がりますし、グッズの販売とか、重版の印税もあります。専属契約を打診される作家もいるでしょう。しかし、7000万円という数字に、古い出版業界人としては、ちょっとクラクラするでしょう。これは、DMM系FANZAで800円ぐらいの同人誌30万部以上売って印税1億円以上と同じで、出版の在り方が変わりつつあることを示しています。

③準備をしておく必要性

現実には、ぬこー様ちゃんさんのように才能がないと、この数字は難しいのですが……。しかし、まずこういう情報が一般に出て、出版社から原稿料と印税をもらうビジネスモデル以外にも、作家にはこういう選択肢もあるという事例が広まるのが、とても大事かと。そして、こういう大成功事例よりも、雑誌の仕事がなくなって廃業せざるを得なかった人が、ネットで別のマネタイズに気づき、細々とでも好きな仕事で食っていける状況になれる事例が増えることのほうが、もっと重要かと。その意味では、こちらのぬこー様ちゃんさんのポストも、とても重要です。

こちらの件。
甘いことばかり並べるのもずるいので念のため言っておきますが、
誰でも儲かるわけじゃなくていくつか条件があります。

①SNSでバズれ
当たり前だけどまずバズらないと読んでもらえない。ちゃんと読者のこころを揺さぶる漫画描いてね。

②シリーズでだせ
シリーズものとして出さないとバズっても一冊しか読んでもらえないので大した金額にならない。必ずシリーズとして執筆していき、どこから読んでも読者の気を引く構成にしてね。

③再読性のある漫画を心がけろ
一度読んだら2度と読まない系はやめとけ。キャラが魅力的なもの、学びがあるものは時間をおいてからも再度読まれやすいし、それが収益になる。
展開だけを追う系の漫画は2度と読まれん。

この3つ大事。

とくに③が大事。
めちゃ意識してます。(後略)

https://x.com/nukosama/status/1736876780995346914?s=20

魔夜峰央先生が『パタリロ師匠の落語入門』にて、「努力はした、でも運があった」と語っておられましたが。この業界は、ちょっとの運が大きく人生を買えます。昔、お会いした時に「運が来たときの準備はしておいた」とも語っておられました。ひょっとしたら、一生運が向かないこともあります。でも、備えておくしかないのが、作家の心得でしょう。そういう意味では、売れてる作家さんの心構えは、だいたい同じなのでしょうね。

ここでのぬこー様ちゃんさんの指摘で重要なのは、③再読性のある漫画を心がけろ でしょう。こういうお金の話をすると、短期で売り抜ける商売のイメージを持ちがちですが。そうではありません。そういう刹那的な作品作りでは、画力やエロ要素や、安易な作品作りに走りがちです。でも、繰り返し読みたい作品とは何か、作品作りの基本に立ち返ることが大事かと。この件は、また改めて書きたいところです。

④山の頂点と裾野の広さ

中国や韓国のラノベや漫画でも、すごい才能はたくさんいて、トップレベルはそんなに差がないと思います。どの国のプロ野球リーグでも、首位打者の打率は3割から4割の間に収斂して、5割とか6割は出ないように。ただ、日本の漫画・アニメ・ラノベなどの市場は、頂点の高さよりも裾野の広さが大きく、そこが違うと思います。

大きくは売れないけれど、読者の細かなニーズを受け止める、多様性が市場にあるわけで。売れてるトップ作家だけいれば良いという考えには、疑問を持ちます。昔読んだ野球の記事で、「日本代表チームは素晴らしい、メジャー(MLB)の代表チームと互角だ。ただ、メジャーはそのレベルを10チーム作れる」という指摘を読んだ記憶があります。MLBの30チームに、3A・2A・1A・ルーキーリーグと、分厚い下部組織があるのがメジャーの強みです。

日本のマンガ・アニメ・ラノベも、それと同じかと。裾野の広さが頂点の高さと選手層の分厚さを支える構造。でも、そういう大きく売れないジャンルは、やはり不安定な面もありますから。雑誌の休刊や連載打ち切りで、路頭に迷う作家も出やすいです。そういうときに、出版社から原稿料と印税を貰うビジネスモデルとは、別の選択肢があるのは大きいのです。

⑤野茂英雄投手が開いた道

そういう部分が広がるには、まずは牽引役は絶対に必要です。

野茂英雄選手がメジャーに挑戦し、タイトルを獲得するような好成績を残したからこそ、日本人選手にも日本球界以外にメジャーという選択肢が現実的になりました。ぬこー様ちゃんさんの7000万円も同じでしょう。しかし、コレより重要な部分が、もうひとつあると思います。日本球界からオファーがなかった選手が、独立リーグや韓国や台湾のリーグに行くという選択肢も、ずいぶん増えました。ここが大事。

「日本球界だけが仕事場ではない」という意識の変化が、メジャーという頂点も選択肢、独立リーグも選択肢と、意識が変わる。そちらが大事かと。このnoteも、「ぬこー様ちゃんさんのように、一発当てようぜ!」という趣旨ではありません。ご注意を。

うちの講座は、なんとか細々と食えるための方法論を、受講生と一緒に考える側面が強いです。才能ある人は、ほっといても売れるので。境界線ギリギリの才能が、なんとか境界線を超え脱落しないように。たぶん、それは歴史には残らなくても、マンガ文化に貢献すると信じて。

筆者の小説(電子書籍版)でございます。お買い上げいただければうれしゅうございます。投げ銭も、お気に入りましたらどうぞ。

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