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大学出版と本の流通

少し前の記事ですが、大学出版という一般的な商業出版社の側とは異なるポジションからの、本の流通に対する興味深いお話です。
個人的に思う駄話を、ツラツラ書きます。

「学術書の価値を伝えていく」大学出版の使命 橋元博樹・大学出版部協会理事長に聞く

 大学と連携をしながら、主に研究や教育に関する書籍を刊行する「大学出版」。北海道から九州まで様々な大学の名前を冠した出版社が存在しています。そんな大学出版は一体どのような経緯で始まり、どのような使命の下に活動がなされてきたのでしょうか。そして出版不況と言われて久しく、電子書籍化が進む昨今、どのような役割を担っているのでしょうか。大学出版部協会理事長と東京大学出版会専務理事を務める、橋元博樹さんに話を聞きました。(文:篠原諄也 写真:北原千恵美)

https://book.asahi.com/jinbun/article/15410892

①商業出版と大学出版

小学館や講談社といった商業出版社は、ただ儲ければ良いというわけではなく、ある種の使命感をもって、出版事業を行っています。文教系の出版社である小学館は、週刊少年サンデーでは、漫画でも句読点を入れるなど、そういう創業の理念の反映でもあります。とはいえ、エンターテイメント系の雑誌や書籍が、商業出版の大きな収入源なのも、事実ですから。その意味では、大学が研究書などを出版する大学出版は、研究機関としての大学の、重要な部分をあらわしていますね。とはいえ、本の流通の仕組みは、大学出版も商業出版の流通に依存しているのは、事実です。

書籍は出版業界の人たちがなんとか頑張って残していこうと動いている。ただ日本の出版業界は、雑誌が落ち込んで、書籍だけが生き残るという風になっていなかった。どちらも同じような仕組みの中で流通されていったので、雑誌の売り上げが落ちてくると、その流通のシステムが維持できなくなっている。書籍だけの出版流通になった時に、どのようにデザインをし直すかということが今の課題です。

これは、日本の出版が、出版社(版元)と取次会社(流通)と書店(小売)という、強固な結びつきの中で、発展してきた歴史が背景にあります。再販制度という、特殊な流通の仕組みが在り、簡単に言えば書店は店頭に置いても売れなかった本は、書店に返却することで、損が出ないシステムです。アメリカなどでは、書店が本を版元から買い取り、もし売れなかったら損をするシステムです。

②取次会社と再販制度

そう聞くと、本屋に有利なシステムに思えますが、リスクが少なくなる分、利益も少なくなります。買い取り方式だと、利益は大きくなりますが、リスクも大きくなる。ローリスク・ローリターンか、ハイリスク・ハイリターンか、どちらかになります。再販制度のお陰で、日本は本の多様性が確保できた面もあります。書店は、確実に売れる本を大量に仕入れたいですから、当然ですね。でも、電子書籍の時代、流通は大きく変わっていきつつあります。

出版業界といっても、エンタメからビジネスまで様々なジャンルがあります。その業界の中で、わたしたちは大学出版や学術出版を守っていくべきだと思うんです。そのためには、学術書の価値を社会にしっかり伝えていかないといけません。研究者コミュニティの中で、どのような価値を提供できるのか。一般社会の中でどんな価値を提供できるのか。それを我々自身が捉え返し、しっかりと世の中に問うていきたいと考えています。

大学出版は、極端な話、大学というフランチャイズを持っていて。東大や法政大学など、学術書を一般書店で発売しているところもありますが。教授が自著を大学出版で出し、それを教科書に指定することで、利益を確保し、回っていく部分があります。ただ、それだけでは学術書を、多くの研究者に提供するという、大学出版の目的的には、閉じられた形になってしまいますね。その意味では、大都市の、学術書が置いてある書店の減少は、大きなダメージに。そもそも、少部数の学術書は、刷り部数も少なく。

③電子書籍の流通革命

ただ、Amazonや楽天ブックスなど、通販による流通は、新しい時代の在り方だと思いますし。電子書籍による、流通革命があります。電子書籍は、取次会社の役割を代替するだけでなく、印刷という行程も、不要ですから。結果、よほど高名な教授でなければできなかった書籍化が、比較的楽に出来る、というメリットが。むしろ、新進気鋭の研究者にとって、大きいと思います。Amazonは、プリント・オン・デマンド(POD)サービスも始め、印刷書籍も手に入りますから。アメリカ本国では、ペーパーバックだけでなく、ハードカバーの製本にも対応。

橋元 大学出版が目指していくこととして、電子化と国際化があります。電子化については、まだまだ大学出版・学術出版社が取り組む余地が大いにあります。
そして電子化といっても、書籍を電子書籍として発行すること以外にも、様々な側面があります。近年は書店店頭に陳列している学術書が少なくなっています。これまでのように書店で、読者が、本と触れて購入に繋がるということが、だんだん学術出版に関しては少なくなってきているんです。その代わりに読者はオンラインで本のことを知って購入する機会が増えている。

こうなると、出版と流通自体が、変わります。東京に住む人間も、離島に住む人間も、同じ本を同じ値段で、同じ発売日に、購入できるのですから。そして、Amazonは個人でアカウントを取り、個人出版するときに、販売する地域を選べます。世界中の国を相手に、自著を販売できるのです。橋元氏が指摘されている、電子化と国際化は、まさにこの点を語っておられます。

④電子化と国際化が鍵

実は、MANZEMI講座の出版部門である春由舎は、ある研究者に相談され、英語で執筆した研究論文を海外で発売する際に、アドバイスをしたことがあります。アドバイスと言っても、Amazonでのアカウントの取り方と登録方法、プロ用のDTPアプリが使えなくてもリフロー型の電子書籍の作り方を、少し。でも、それで簡単に本が作れるのですから。実際、叶精作先生の画集は、アメリカやドイツやイギリスでも、電子書籍やPOD版も、売れています。受講生から何人か、海外での発売に、チャレンジしています。

大学出版も電子書籍を作るというだけではなく、オンラインでの宣伝活動・営業活動を活発にすることが課題です。そうしておけば、オンラインを通して海外でも宣伝・流通・販売させることは難しくないと考えています。

日本国内の流通だけ見ていたら、取次会社と書店の存在は、とても大きく。でも、電子書籍とデジタル出版の時代は、国内どころか世界を相手に、商売できるんですよね。そうなると、今まで以上に、宣伝が大事になってきます。
情報の窓口として、大学出版局が、宣伝も兼ねる必要があり。公式サイトの開設と、内容の充実。宣伝力を考えれば、各種SNSでの宣伝は必須でしょう。こうなると、良い本を作れば、それで充分だった時代から、大きく様変わりするでしょう。

⑤個人出版と編プロと

大学出版は、そういう意味では、新たな出版の極になれるかも、しれませんね。東京大学とか、1学年3000人ほどの学生がおり、大学院など含めれば、1万数千人の学生がいて。それ自体が、出版の生態系たり得ます。
電子書籍を上手く駆使すると、大学出版が流通に乗らない・でも世界中で読まれる本を発信する、可能性があります。そして、大学内に編プロ的な機能(と言っても、片手の数の編集者で充分)を持つことで、地方の大学でも、ちょっとした出版社になれ。地方出版のコアになれる可能性が。

作家個人も、自分自身が個人出版社になって、自分も作品を流通させる。
そのためには、実はどう宣伝するかのノウハウが、大きくなると思うのです。電通とか博報堂のような、大きな仕事ではなく。ほんと、個人商店の仕事ですが。そこで、ノウハウを持つ編集プロダクションが、大手出版社とは違う動きで、本作りを手伝い、宣伝はAIが代行する未来が、あんがい近くやって来るような。
そんなことを思いました。


以下は諸々、個人的なお知らせです。読み飛ばしていただいても構いません。

筆者の小説(電子書籍版)でございます。お買い上げいただければうれしゅうございます。

文章読本……っぽいものです。POD版もあります。

筆者がカバーデザイン(装幀)を担当した、叶精作先生の画集です。POD版もあります。
投げ銭も、お気に入りましたらどうぞ。


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篁千夏
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