切磋琢磨の場を作る
芦辺拓先生が、とても重要な指摘をされていました。新人が筆を折る理由は、同業者の友人がいないから、という指摘です。
個人的に思うことを、いくつか書き留めたいと思います。
①袖振り合うも多生の縁
いろんな有名作家さんを見ておりますと、「え? その二人が高校生時代からの友人だったんですか?」と驚くことは多いですね。高橋留美子先生と近藤ようこ先生が同じ高校の漫研だったり、上條敦士先生と中津賢也先生とYokoさんが同じ高校の先輩後輩だったり。ちなみに、松本大洋先生も、同じ高校の後輩だそうです。
以前から書いておりますが、どうも才能というのは惹かれ合うようです。江戸時代の資料を漁っていても、遠く離れた遠隔地の人間が、友人だったりして驚きますが。実は、松尾芭蕉の時代に既に、通信添削教育があったそうで。
芭蕉の『奥の細道』の旅も、実際はそういう通信添削教育の弟子のところを、泊まり歩いての旅だったようで。昔から、才能ある人間は、同じレベルの才能がある人間でないと、理解できない部分はありますから。江戸時代も、文通で交流する文人墨客は、多かったようです。
②糟糠の妻は堂より下さず
人間は現金なもので、売れてから近寄ってくる人間は、沢山おります。それはお金目当てだったりすることが多いのですが、稀に才能に惹かれてくる人はいます。でも、詐欺目的が多いようです。
ところが、無名時代に出会った友人は、まだお互いが何者でもなかった時代に出会っていますから、信用が置けるわけです。付き合っても、得になるか損になるかわからない時代の、出会いですから。
「糟糠の妻は堂より下さず」は、中国の前漢時代末期から後漢時代初期にかけての政治家・宋弘の言葉ですが。酒の絞り粕や米の糠を食べるような貧しい時代に、苦楽をともにした奥さんは、粗末に扱わないという意味ですが。
実はこれは、正確には「貧賤の知は忘るべからず、糟糠の妻は堂より下さず」とあり、貧しい時代に出会った友は忘れてはならない、という言葉とセットです。
③嚢中の錐・栴檀は双葉より芳し
世界で一番硬いダイヤモンドを磨くには、ダイヤモンドの粉を使うように。格闘技で強くなるには、自分よりも強い人と練習しないと強くなれないように。
中国戦国時代の趙の公子で政治家であった平原君は、秦軍が趙の首都の邯鄲を包囲したとき、王命で説得に出かけます。このとき、食客の毛遂が同行を願いますが、平原君は難色を示します。
Wikipediaの文をコピペすると、理由は「賢人というものは錐を嚢中(袋の中)に入れておくようなもので、すぐに袋を破って先を出してくるものです。先生が私の所へ来てから3年になるが、評判を聞いていません。お留まり下さい」と。
平原君の言葉はある程度正しく、大器晩成でも若い頃に、才能の一端は示すモノです。ただ、毛遂は自分は袋の中に入れてくれと懇願し、実際にその才能を証明します。ある意味で、袋に入ることが、才能の第一歩。トキワ荘プロジェクトやMANZEMIは、袋を作る場でしょう。
④切するが如く磋するが如く琢するが如く磨するが如し
逆に、竹宮惠子先生と萩尾望都先生が1970年から1972年にかけて2年間同居し交流の場となった大泉サロンは、伝説の場になりましたが。それぞれが活躍するようになると、次第に亀裂が入ります。
ゴッホとゴーギャンの共同生活も、ゴッホが自分の耳を切りという事件の末に破綻したように、既にプロになっておられた二人の場合、なかなか難しい麺があったのかもしれません。ダイヤモンドの粉は磨きもすれば、時に傷つけもするので。
こちらは、竹宮惠子先生側の回想録。
こちらは、萩尾望都先生の側の回想録。
個人的な感想ですが、やはり天才同士の才能のぶつかり合いは、切磋琢磨を生むと同時に、軋轢も産みますから。ただ、大泉サロンは漫画史に残る場であったのは、疑いないですが───。
⑤管鮑の交わり・刎頸の友
藤子不二雄先生たちの、終生の友情というのは、「貧賤の知は忘るべからず」なのでしょう。手塚治虫先生は、藤子不二雄のA先生を天才・F先生をどえらい天才と評しましたが。A先生はその才能を妬むことなく、むしろ藤本くんの一番のファンは自分と、公言されておられましたね。
でも、F先生は極度の人見知りで、社交的なA先生が一緒に上京してくれたから、漫画家としてそのどえらい才能を花開かすことができたのも、疑いないです。
高校卒業後、就職はしたけれどすぐに辞めて1年間、漫画のネタを描き続けたF先生と、順調だった新聞社の仕事を辞めて、未来に賭けたA先生。そして、トキワ荘で幾多の才能と出会い、切磋琢磨し、漫画文化を大きく育てた訳で。
MANZEMIの講座は、そういう出会いを人工的に創る、場でもあります。ささやかながらも、協力していきたいです。
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