きみが聞かなかった全部の話 / 2020年2月
1日
小池真理子『一角獣』を読んだ。小池真理子さんは恋愛小説のひと、というイメージがつよくあり(ミステリやホラーなどでも著名なことをいま知った)、わたしは恋愛小説をそれほど好んで読まないので手に取ったことがなかった。ふだん行かない街の、たまたま寄った古書店で目についたから買っただけだった。
一節読んで、閉じて、胸に抱くほど好きだった。
思わぬところにじぶんのかたちをみつけると、わたしの世界はぜんぜんまだ狭かったんだなと気づく。これまで生きて来たことを肯定されたような気持になる。これからさきもっと、そんなふうに、触れ合えるなら、永く、生きて行ってもいいし 生きて行くことはとてもいいことだと思える。
2日
とつぜん、斜めから来た。
3日
「ちゃんとしている人」が怖い。
4日
春の香水が届いた。ミモザの香り。
5日
昼過ぎに街を歩いていたら女性に道を訊かれた。めったなことで人に道を訊かれたりしないため、訊かれるとものすごく喜んでしまう。社会に認められたような気になる。うまく説明できていたかどうかはいまいち自信がない(まっすぐ行って、左に曲がって、あとはずっと行くだけ)。
6日
あれは偏桃体の恋だったんだなあ。
7日
花を買うのが好きだけどべつに毎日水を変えたりしない。香水買うのが好きだけどべつに毎日つけたりしない。
8日
仏教についての本を読んだ。わたしがやっていることはいちいち自然選択に逆らっている気がして面白い。わたしにとってはわたしがいちばんの謎だけど、わたしがいちばん知っているのがわたしなんだからそれはそうだよなと思う。
異国の料理を食べた。砂漠の方に行ってみたい。
9日
一日中しんどかった。約束があったので外に出ていた。きれいな花を見たりしていっとき、気がまぎれたような気がしたけど、夜になると限界がきて気が狂うかと思った。
10日
今月、いったい何なのだ。星のめぐりがどうかしているのか。
11日
愉しい計画を立てた。ずっとつくりたかったものをつくれるかもしれない。
12日
やればやるほど好きだなって思う。でも、やればやるほど向いてないなって思う。
13日
何を見ても何かを思い出すし、何を書いてもなんか不穏になる。
14日
「悲観主義は気分に属し、楽観主義は意志に属する」らしい(アランの幸福論/読んでいた本に引用されていた)。アイドルは意志だね。
15日
爆発しそうなくらい話したいことがたくさんある、放っておかれたら多分夜が明けるまで延々と話すことができる、でもきみはどこにもいないどこにも、どこにも、だから、書くしかないきみが聞かなかった全部の話、声にしていたらあの瞬間だけに消えてきみとわたしの他にだれも知る人がいなかったのにね!
16日
なんだかもう悔しいことしかなくて憤死しそうです。
17日
「虫の居所が悪い」ってきっとこんな感じ。
18日
気になっていた本を読んだ。『#柚莉愛とかくれんぼ』。
19日
最近文字で夢を見る。明け方の夢は「〜1人の食卓で林檎を5個買って、…」夢の中でも考えごとしてるのかもしれない。
夢をテキストに書き出せたらいいのにな。シュルレアリスムだねえ。
20日
道の途中で、電池が切れたように肉体が停止してついに目的地まで行くことができなかった。いままでなんやかんやでずっと行けていたのに。
21日
熱海に行きたいな。
22日
書き物をするつもりで喫茶店に行ったのに、眠すぎて寝てしまった。
映画『パラサイト』を観た。
面白い映画を観て刺激を入れて続きを書こうと思っていたのにすっかり気が滅入ってしまい、とぼとぼ帰宅した。でも、ずっと映画を観たかったから観れてよかった。
23日
アクタリウムさんのトークイベントに呼んでいただいた。人前に出るのが久しぶりすぎて、久方ぶりに日の光を浴びるもぐらみたいな心境だった。(どういう経緯だったか忘れたが)楽屋でちぃちゃんさんが「あさみさんときぬよさんじゃん」みたいなことを言ったのが面白くて思わず反応したら「わかりますか! エイブルシスターズ!」と笑顔で言ってくれたのがうれしかった(どうぶつの森の話)。
24日
本当はアイドルもロックバンドも漫画も大好きとくに言ってないだけで。
でも最近はそのどれもぜんぜん追えてなくて、胸張って好きですって言えるのなんて漫画くらいかもしれない。
漫画があってよかった。
25日
考えごとが止まらないので誰かにひたすら2時間くらいずっと聴いててほしい! そんなことは叶わないので書き散らしていますが!
26日
「愛しか武器がない」このひと月の何事に対してもそう思う。3月は始まりから末尾までをきれいに包みたい、その進行をたんたんと着実に進めたい、できるならとてもきれいにたたんでおきたい、それを持って、4月からのことは白い砂漠みたいだ、月面とか、やわらかくて重たい砂浜とか、そんなような感じ。
とてもとてもきれいに飛ぶことを考えている。人生の全部に始末をつけたい。
27日
視界がふわふわしていた。
28日
わたしのだめなところをぎゅっと煮詰めて凝縮したような1日だった。
29日
あんまり記憶がない。
2月もあっという間だった。なんだかずっと感情に振り回されていた気がする。
2月の面白かったもの
『一角獣』小池真理子
どこか異国情緒を感じる、ひそやかで湿度の高い掌編集(←そういうの大好き、『絵のない絵本』とか『千夜一夜物語』とか)。
小池真理子さんのほかの作品も読んでみたくなった、恋愛もエッセイもミステリもホラーも。
『パラサイト 半地下の家族』ポン・ジュノ
みんな、善良。ただ自分の家族にしか関心がないだけ。と思った。
裕福なほうの家の子どもが印象的だった。とくに弟。
日記を書くことはごほうびだから全部のやるべきことが終わってから書こうと思っていたらふた月経ってしまったのであきらめて書くことにした。わたしのやるべきことはたぶん一生終わらない。
このひと月ぶんの日記は、わりとひんぱんにつけているメモ書きと、手帳と、つぶやきを見返しながら書いている。これらがないと「あんまり記憶がない」ということになる。メモ書きがわたしにとってはいちばん重要になる、なんにも嘘がないから。でも、こうしてひと月(ふた月)も経ってまた新たに文字に起こした時点で全部は嘘である。それが怖いからメモ書きをしている。
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