私は夫に恋をしている
夫と出会って8年が経った。付き合いはじめてからは5年半。結婚して1年半。
夫と一緒に過ごすようになって、私はまるっきり変わった。
一言で言ってしまえば、夫は私に愛を教えてくれた。
夫と付き合い始める前、私はどうしようもなく自己肯定感が低い人間だった。
仮に私が死んでも誰も悲しまない、と本気で思っていた。
ろくな恋愛もしたことがなかった。誰かに愛されるなんて自分とは無縁の話としか思えなかったからだ。
だから誰のことも好きになるまいと思って生きてきた。
いいな、と思う人がいても、仲のいい友達にも打ち明けたことはないし、もちろん気になる人に自分のことをアピールしたことなどなかった。
だからそのうちに、クラスが変わって、卒業して、お互いにただのクラスメイトのままで、ゆっくりと忘れていくだけ。
だから私にとって、夫にお付き合いを申し込まれたのはまったく不覚だった。
好きです、とはっきり伝えてくれた夫に対して、嬉しいという感情より先に、まさかそんな、と思った。
告白が事実となってしまった以上、もう戻れないのだ、とも。
その頃、私たちはまだ学生で、結婚なんて考えられなかった。だからぼんやりと、いつか別れるのだ、と思っていた。この人ともう友達に戻れない。それがたまらなく辛かった。
その頃の私にとって、夫という人は、ちょっと遠い存在だった。
内気で気心の知れた仲間としか仲良くできない私とは対照的に、夫は異性も含め誰とでも仲良くできる活動的な人だ。
私は自分の外見について肯定的に捉えたことがなかったので、誰が見てもかっこいい部類に入る夫に気遅れもしていた。
それでも、もう告白という事実がある以上、お付き合いするかお断りするかしか道がない。
私はかなり悩んで、付き合うことを選んだ。
本当に失礼で申し訳ないことだと思うが、その時は彼に対し恋愛感情として好きだという気持ちはほとんどなかった。
むしろ、この人のことを好きになっても叶わないから好きになってはいけない、と思い込んでいた。
けれど、告白を聞いて、心のどこかで、遠い存在だった彼に好きと思われていることを嬉しく思っている自分がいた。
付き合って最初のころ、私は意識して消極的に振る舞った。
自分から連絡をとることもあまりしなかったし、クリスマスや誕生日のプレゼントには消耗品を選んだ。
形に残したくないと思うほど、私には明るい未来が描けなかった。
私の気持ちが変わるきっかけになったのは、付き合って半年経った頃、私がある悩みを彼に打ち明けたことだ。
数年前からまったく上手くいかなかった兄との関係について、私は彼に泣きながら話した。
頑張っても上手くいかない、つらい、とどうしようもない話を聞いてもらった。
私は話をするのが上手くないので、たぶん1時間か、もっとかかって話したと思う。
彼は、私が泣きじゃくりながら話す間、ただただ私の目を見て、頷いて、そして私の手を握っていてくれた。
私がひととおり話し終えた後、これまでよく頑張ったね、つらいね、これからは俺が側にいるよ、と言葉をかけてくれた。
その時はじめて、私は他人から愛されていることを実感した。
だってこんなにどうしようもない身内の話を真剣に聞いてくれる、私の気持ちに寄り添ってくれる、そしてこの先も自分が一番近くにいると言ってくれる。
この人は私を本当に好きでいてくれるのだ
それから少しずつ、私は彼に心を開いていった。
彼と過ごす時間が心から幸せと思えた時、この人とこの先もずっと一緒にいたいと思った。
幸せなことに、彼も同じように、私と一緒にいたいと考えてくれたようで、私たちは結婚した。
夫は私を笑顔にするために時間や労力を割いてくれる人で、何よりも私の幸せを考えてくれる人で、そして2人の時間を楽しんでくれる人だ。
私は本当に愛されている。
愛されているという実感が私を変えてくれた。
私は私が価値のある人間だと思えるようになった。
そして誰かを愛することができることも、愛することで誰かを幸せにできることも知った。
私は幸せだ。私も夫を幸せにしたい。
私は今日も夫に恋をしている。