【内蒙古・蒙古縦断鉄道旅#1】中蒙を結ぶ国際基幹路線とは?9時間30分かけて走破する「究極の鈍行列車」とは?
国慶節の休暇を使い、内蒙古・蒙古を縦断した際の記録を数本の記事に分けて公開することとする。第1回は内蒙古の地元民に愛されるローカル列車に乗車した記録をまとめた。ぜひご覧ください。
(Youtubeにも動画をアップロードしています。より伝わりやすいのでYoutubeもご覧ください)
はじめに
国慶節休暇を利用した内蒙古、蒙古旅。この度の一番の目的は呼和浩特(フフホト)と二連(エレンホト)を結ぶ6856列車に乗車することであった。
この列車は、中国とモンゴルを結ぶ国際路線を形成する「集二線」を経由して、中国とモンゴルの国境の町の二連を目指して9時間近くかけて走る列車である。内モンゴルに広がる広大な草原を途中の駅すべてに停車しながら進むという「究極の各駅停車」ともいえる。中国メディアではこの列車を「小慢车」と呼び、現地の農民や遊牧民に重宝されていることが特集されていた。このニュース記事を目にした私は、ぜひとも中国のリアルな姿をこの肌で感じたいと思い、気がつけばチケットサイトから切符を購入してしまっていたのだ。
6856列車とは?
下の表に概要についてまとめた。
基本情報
この列車は呼和浩特を出発後、内蒙古と北京を結ぶ基幹路線である京包線を通り、集寧南駅まで走ったのち、方向転換を行い集二線を一路北へと進む。
総距離は472Kmで、東海道新幹線の東京~京都(476km)とほぼ同じ距離である。道中すべての駅に停車しながら9時間以上かけてゆっくり乗客を運ぶ。このように「ゆっくりと、広大な草原の中を走る客車」というところから「小慢车」という名前が付けられた。
どこがポイント?
この路線が特別な点は「草原の舟」として、広大な草原に散らばった小さな町を結び、地元住民の足となっていることである(中国メディアから引用)。30年間値上げされたことはなく、現在でも1kmあたりの運賃が0,11元(約2円)となっている。そのため、中国の都市部にすむ人々より相対的に貧困度の高い農民や遊牧民にとって、なくてはならない列車となっている。また、地元で収穫できた農作物や動物を大きな市場のある呼和浩特や北京までに売りに行く際に使う列車でもあり、多くの人が夢を託してきた列車ともいえる。
使用車両
一方で、客車の設備は十分なものとは言えない。中国の客車には大きく①硬座(一般的な座席車)②硬臥(6人寝台:日本のB寝台に相当)③軟臥(4人寝台:日本のA寝台に相当)の3つの車両が用意されているが、この6856列車は昼行列車ということで、ほとんどが①の硬座車両である(1両のみ硬臥が併結されている)。この硬座車両は「大量輸送」が念頭に置かれているため、1列5人掛けですべてがボックスシートとなっている。そのため、1人のプライベートスペースは一切なく、4人ないしは6人で1つのボックスを使うこととなっている。しかし、だからこそ偶然隣り合った、また、偶然同じボックスに座ることとなった名前も知らぬ方々と交流を深めることができる。
集二線とは?
中国の”宗谷本線”?
この列車が主に走行することとなる集二線について紹介する。集二線は集寧南駅~二連駅を結ぶ単線非電化の路線である。日本で例えると、この路線は宗谷本線(旭川~稚内)といえるかもしれない。6856列車も、かつての「スーパー宗谷」号と考えるとわかりやすいと考える。札幌と稚内を結ぶこの列車は途中の旭川までは函館本線を走り、複線電化区間となっていたが、旭川以北は単線非電化の宗谷本線を進むこととなる。この列車も呼和浩特を発車後、集寧南駅までは北京と内蒙古自治区を結ぶ基幹路線を通るため、しっかりと線路も整備されており、比較的高速で走行をする一方で、集寧南駅より北側の二連方面は架線がなくなり、一気に田舎の路線の様相を呈するようになる。実際に、集二線を昼間に走る旅客列車は呼和浩特から二連方面を結ぶこの6856列車と、その折り返しである6855列車のみである。
”国際路線”としての集二線
ただし、宗谷本線と異なる点は「二連」より先も線路が続いているということ。集二線は北京方面からウランバートルを結ぶ最短の路線であり、二連より先、ウランバートルを経由して、果てはシベリア鉄道、ロシア、ヨーロッパ方面へとつながっている。新型コロナウイルスで中国がゼロコロナ政策をとり始める前には、モスクワと北京を1週間近くかけて結ぶk3・4次列車が設定されていたこともあるような“重要路線”といえるのだ。
現在でも夜間には呼和浩特発ウランバートル行きの国際列車が運行されていたり、貨物列車が数多く設定されている。とくに、貨物列車は中国の政治面から重要といえ、中国がすすめている一帯一路政策の目玉プロジェクトともいえる「中欧班列」を担っているのだ。この中欧班列は、中国各地と欧州を中央アジアを経由して結ぶ貨物列車群のことであり、複数のルートが使用されている。集二線の終点である二連は「エレンホト口岸」と呼ばれる中国とモンゴルの国境を有しており、中国の「陸の港」として数多くの貨物が輸出入されている場所となっているのだ。このように国際色豊かな路線である一方で、その路線を走る各駅停車は地元の農民や遊牧民に根差しているという二つの顔を持つ面白い路線である。
おわりに
第1回は今回乗車した列車、路線についてお伝えした。次回以降、実際の乗車ルポを公開するのでぜひご覧ください。とくに、中国のローカルな方々との交流を中心に書こうと思います。日本ではなかなか感じられない”ディープな中国”をお伝えしますのでご期待ください。