平隊士の日々 元治元年卯月二十三
元治元年卯月二十三
起きて掃除をしていたら、井上組長がきた。
まだ、顔色は悪く、声もかすれているが、
稽古をしたら治ると井上組長らしい。
皆で稽古。
朝食、豆の甘露煮、きのこの酢和え、澄し汁、かす漬け、ご飯。
組長は澄し汁にご飯を入れて食べている。
本当に、稽古をしたら治ったのかな。
本日の隊務割。
午前は南巡察、午後は西巡察、夜は当直。
南巡察に出ようとしたら、山南総長が声を掛けてきた。
「源さんは病み上がりだから、休んでいろ、わしが代わりに行くから。」
十番隊の原田組長も、
「源さん今日はやめとけ、明日からで、良いじゃないか。」
無理やり、休むように言い、出かける。
総長が、ちょっと寄ってみたい船宿があるんだ。
良いですよと原田組長。
昨日行った船宿に向かいながら、
肝のふといおなごがいて、浪士たちを逃がす時間稼ぎをしたことを、
原田組長に話している。
「それじゃ、捕らえて、尋問したほうが良いのでは。」
「何でもかんでも、捕らえて尋問では、評判が落ちるよ、
会ってみてからでも遅くはない。」
「そうですか。」
舟屋に着いて女将に楢崎と言う下女はと尋ねると、
今日は、この先の材木問屋で賄をしている母のところにいるとのこと。
向かって訪ねると、すぐに出てきて、
「何か用どすか?」
原田組長が、
「なに、浪士たちに付いて知って入り事があれば話せば良いんだ。」
「そうどすか、何を知りたいのですか。」
山南総長が
「そうだな、昨日は何人、どこの藩の浪士が来たのか。」
「八人ほど来ましたえ、すぐ、四人はかえりましたので、
お帰りになったと申し上げた通りでございます。」
「どこの藩の者かわかるか。」
「十津川とおっしゃってましたが、良くはわかりません。」
「そうか、すまなかったな。」
原田組長、
「十津川と言えば、先の天誅組の暴発の生き残りじゃないのかい。」
「そうかもしれんな、監察方に本格的に調べてもらおうか。」
「屯所に戻ったら、総長から言ってもらいませんか。」
「そうだな、そうするか。」
巡察をしながら屯所に戻る。
昼食、きんぴら、天ぷら、いり卵、長芋昆布、味噌汁、ご飯。
山南総長と二番隊と西巡察。
特に何もなく戻る。
帰り道で、山南総長が、
なんでも有名な菓子だと言って、丸い透明なものを買って帰る。
五穀屋と言う店が始めた羊羹らしい。
夕食、芋煮鍋、なめ味噌、水菜と生麩のお浸し、漬物、ご飯。
井上組長のお膳に総長が買った透明なものがあった。
沖田組長が
「美味しそうですね。」
「良ければ、やるよ。」
総長が、
「総司、君には明日、買ってくるから、源さんに食べさせてやってくれ。」
「良いですよ、場所さえ教えてくれたら、自分で買いますよ。」
「そうか、千本通りの七番町にある五穀屋で売っているよ。」
見ててほほえましい、やり取りをしていると思った。
夜は、当直。
山南総長と稽古、稽古場の隅で、井上組長が寂しそうにみている。
組長、明日は元気になるかな。
監察方が戻り、当直が終わり寝る。
あの羊羹の味を聞き忘れた。
明日聞いてみよう。
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