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アナログアシスタント時代のハナシ:1「本当に、どこでもいいから、デビューしたい?」編

もはやデジタル作画が主流で、
アナログ作画の先生へのアシスタント

なんてものは、世の中から減りつつあるみたいで…

でも、本当に色々色々とあったので
私の自分の経験やアシスタント仲間たちから聞いた
要注意な作家の事を少ししたためておきたいと思います。

私自身、この業界に入ったのはかなり遅く、
会社経験を経てからなので

23歳くらいから投稿を始めてアシスタント入りしたのですが…

けっこうな確率で何度か別の先生に別々のシチュエーションで

聞かされたんだけど・・・・

「私が漫画家にしてあげる!」という先生の所へは行くな!

レディコミの先生に多いのですが、これを言う作家には要注意するように言われてきました。

投稿し続けてもなかなかデビューできず、
何作も描いているのに結果が出ないで迷走していると、
こういうふうに言われてしまうと

「どこでもいいからデビューしたい!!」と
思ってしまうだろう。

気持ちはわかる。

私はたまたま運が良くて実力ではなく運の問題で、
7作目でデビューできたが、周囲にはかなり若いころから投稿していて
30作も投稿作を描いたのにデビューできない人もいたから(つд⊂)

十分上手いのに・・・・

デビューは運とタイミングとか色々な条件があるので

上手ければできるというものでもないし、逆に下手でも

タイミング的に運よくできてしまうケースもあるのだ(つд⊂)

若い編集さんに聞いたことがあるけど、

「この月は必ずデビューを出す」という編集長の方針で、

本来ならば絶対デビューには至らない実力の子が
他に誰もいなくて、これしか今回はいないか・・・仕方ない!

といってデビューできちゃうケースもあるのだ…

あまりにもレベルが低いので、もちろん掲載雑誌の作家たちは

度肝抜かれるのだが、時々こういう事があるので何とも言えないのだ。

残念ながらこういう人はデビュー作から
次の作品掲載に至らずに辞めていくケースが多い。

じゃあ何でこういう人がデビューできたの?と言われると

友人の付き合いで行った他社の編集さんがポロリとこぼした一言を

私は聞き逃さなかった。

「あんまりレベル高すぎる人ばかりだと投稿者も減りますからね」

…つまりは。こんなレベルでもデビューできるかもしれないという

期待をさせるための生贄的な使い方をしたんだな・・・って。

この時はあまりにもひどいと思って、その編集さんを軽蔑していたけど

でも、こういう生贄的なデビューだったはずなのに、一気に努力して

上手くなって掲載され続けている人もいたので、やっぱり要は

本気で描きたいかどうかなだけなんだな~と大人になってから思った。


ではなぜ「私が漫画家にしてあげる」「私がデビューさせてあげる!」

という作家が要注意なのか・・・なのですが、

わりとスタンダートにいるのが

「ご近所トラブル」「お金トラブル」「嫁姑問題」などを

扱っている出版社にいる作家が多いんだけど、

これらのジャンルは経験値を積んでいて、
このジャンルでも描けるだけの才能があって

人間観察や洞察力に優れていて・・・←ここ大切!

ワイドショーや女性週刊誌も好きな人だったら、描けると思う。

だから年齢的に40代50代になって恋愛にも興味がなくなり

身近な問題をテーマに描ける人なら十分描く実力もあるでしょうし

需要もあるんだと思うけど、投稿作をえがいているような

10代20代の子がこれを描けるかというと首をかしげる。

私が遭遇した人は私と同じ年で、当時はまだ25歳くらいだった。

大手の幼年誌で担当もついていて、ネームを見てもらいながら

投稿作を描いていたので、私はそのまま頑張っていれば

希望はあると思っていた。

でも、本人からするとすでに10作を超える投稿作を描いているのに

デビューできず、自分よりも10歳近く年下の子がデビューして

連載なんか始められると、心が折れてしまうんだと思う。

そんな時に、デビューさせてやるなんて言われたら

どこでもいいから!!という気になってしまうだろう…

でもね・・・「りぼん」「なかよし」「ちゃお」のような

幼年誌で描きたかった人が、いきなり老婆に熱湯を浴びせるような

話が描けるはずないんだよ・・・
だからキラキラおめめのかわいい女の子の絵の口元に、シワだけ描きこんで
老婆…と言われてもそれは説得力にならないし、リアリティがないので

読者からも支持は得てもらえないんだよ・・・・

その先生は「デビューまでは話やネームは私が作ってあげる!」と

息まいていたけど・・・本当にあなたはそれを描けるの?描きたいの?永遠に描き続けられるの?ってカンジだったので私は何も言わずに
その仕事場はスルーした。

案の定その子は、その翌年の年賀状では実家に戻り、地元で就職していたけど・・・・・

私が素人目に見ても画力は高いし、担当のついていた雑誌で

頑張って描き続けていれば希望もあったと思う。

先輩アシスタントにそれを話したら

「あのね…漫画家になりたいっていうからには、
やっぱりかわいいものや、カッコいいのが
描きたくて目指すのであって

老婆に熱湯をかけるような話を描きたくて
目指す人はいないんだよ…?多分、その雑誌は描き手がいなかったから

誰でもよかったんだと思うけど、ああいう雑誌にはああいう雑誌で描く

絵柄とか絵のタイプがあるから、誰でも描けるわけじゃないんだよね。

それが見抜けない時点で、その先生もたかが知れているよ。

でも、その子もそこで諦めて辞めちゃうくらいしか、漫画家になりたいとは

思ってないんじゃない?ちむちゃん(私)ならどうした?」

しばらく考えてみても、私ならその先生から離れるし、描きたいものを

偽ってまでデビューしたいとは思わないし、

辞めたりはしないなって思った。

辞めるのは簡単だし、誰も引き止めたりしないし、

どうぞご自由にってなもんで、私が続けようと続けまいと

誰も困らないのだ。

ただ、私が描きたいだけ。私が続けたいだけ。

それだけなんだよね。

でも、色々な経験をして色々な作家さんのアシスタントに行き

色々なベテランアシスタントさんたちや、お世話になってきた

先生たちの話を総合すると、
やっぱり「どこでもいいからデビューしたい」

なんて考えでは、この世界は通用しないのだ。

描きたいものや描きたい自分の絵を貫き通せるような、頑固で

融通のきかない精神を持ってないと、とてもじゃないけど続けられない。

そう、デビューはいつかは出来んだよ。描き続けていればね。

デビューできない人は、辞めちゃった人で、描いてない人だよ。

上手いのにデビューできないのは、続ける精神力がないだけ。

描いてないだけ。下手でも描いてたほうがデビューできる機会はあるわけだから。

それにね、アシスタントに行ってみて思うけど

雑誌掲載の時に「下手だな~この作家」なんて馬鹿にしてると

おもうけど、原稿見たらあまりの美しさとあまりの上手さに

度肝抜かれる事の方が多いんだよ?

自分より下手な作家なんか皆無なわけです。
自分が一番ひどくて自分が一番下手なの!これは間違いなくそう。

謙遜でも卑屈なわけでもなく、自分が一番ひどいな…と思わないなら

あなたはそれまでの画力でしかないって事。
自分にだけは誰しも甘いわけだから。

つづく

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千村 青 ちむら あお
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