4月の素麺
去年の夏の素麺を食べた。
具はない。
麺つゆもない。
普段からポン酢をかけている。
そう、そう言えばそんなことは風呂トイレなしのボロアパートで一人暮らしをしていた頃からだ。
あの頃はバブルが崩壊してじわじわとバイトが減っていった頃だったか。
バイトのない日は、部屋に引きこもって一日中バイト先のレンタルビデオで借りてきた映画を見続けたりしていた。
お金もなく親にもらった素麺を湯がいては、唯一冷蔵庫に入っていたポン酢をかけて食べた。
自分がロスジェネ世代だったと言うことに気づいたのは最近だ。
あの頃フリーターの根無し草で明日のご飯はどうするかねぇと考えるような生活をしていたあたしには、バブルの恩恵もなかったが崩壊の煽りもさしてくわなかった。だからロスジェネと言う世代に自分がハマってるなんて考えもしなかった。
少なくともあの頃のあたしは、それを自分で選択して生きていけたのである。
バブル崩壊からどのくらいたったか。
ロスジェネ世代は中年になり、バブルを知らない子たちが大人になる。
這い上がろうにもそれすら許さない社会が出来上がってしまった。
稼ぐことに器用でなければ、油断してしまえば底辺へと押しやられていく社会。
この数ヶ月、あたしの心に重くのしかかっていたものの正体が見えた。
ウイルスのために引きこもっているからじゃない。
ウイルス対策のためと言いながら、経済のためと言いながら、オリンピックのためと言いながら、お国のためと言いながら、自由を削られたからだ。
自粛しろと言いながら、ウイルスから身を守るために引きこもる自由を権力者は与えてはくれない。
家に篭ればできない仕事もある、対ウイルスの物質的なサポートもないから今まで以上のコストが生活にかかってくる。
自粛を乗り越えるために工夫してアイデアを出せば行政が踏みつけにくる。
国は行政は何をしたいのか、が毎日、明確に可視化されていく。
そのあまりにも無惨な結果にイライラとしていたのだ。
家族にあたる人もいるだろう、弱い人にあたる人もいるだろう。だけど本当にあなたをイライラさせているのはそう言う権力者だと言うことを認めてしまおう。
そうして権力者にモノを言うのだ。
もしもそれが叶うかどうかわからなくても、言った自分は可視化されて残るの。
少なくともそうやってあたしの心にもう一本鉄筋を打ち込む。
生きる自由を取り戻すのだ。
死なないためじゃなく、ウイルスと権力から、好きに生きる自由を取り戻そうと決める。
日々更新される権力者たちのニュースに食欲を失いながらも、素麺をすすりながらタイムラインを追う。
まだ時期が早過ぎた素麺は冷たすぎて、お腹が痛くなった。
2020/04/19 ちまこ