命の美しさを映す、あか。
最初に絵を書いたのはいつだろう。記憶に残るのは家族と一緒にキャンプに行ったときの様子を書いた一枚。太陽は迷わず赤で描いた。真紅のようなワインレッドじゃなくて、橙に近いようなパキッとした赤。いびつな丸を塗りつぶす作業が一番楽しかった。
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太陽が赤なこと。これは古い時代から様々な文明で共通しているからおもしろい。まず日本は神話の世界に出てくるアマテラスオオミカミ(天照大御神)の象徴の色とされ、「日出ずる国」を表す国旗として赤が使われた。中韓の陰陽五行でも赤は「陽」の色である。その他、マヤ文明、アステカ文明、古代エジプトでも太陽の色や太陽神の化身として赤は大切にされている。
実際の太陽を見ると昼間は光が強すぎて白く見えるし、夕方はどっちかというとオレンジだし、その光景は古代も変わらなかったはずなのに不思議だ。世界各国で『太陽は赤』。その熱の強さ、抗えない大きさ、それによって植物などに生命が宿ること。昔の人はただ見た目だけではなく、そういう全ての要素を総じて太陽と赤を結びつけたのだろうか。
赤が持つ熱量。これは戦闘や革命の色としても用いられる。ケニアのマサイ族は狩りに望む際に赤い布をまとう。スペインの闘牛士は牛に赤い布を見せて興奮を誘う。これもまた世界各地で共通する。ヨーロッパ各地で軍服として使われ、フランス革命では『革命の色』にもなった。
その後、共産主義・社会主義が出てくる頃には、『労働者の血の色』を表すものとしてテーマカラーにまたもや赤が使われる。極端な資本主義に抗って労働者の権利と平等を主張して革命が各地で起こった。
こんなに離れている国同士で同じように赤は使われる。私は、この歴史を知ったとき、赤は動物や人を興奮させ、鼓舞し、戦いに挑ませる色だと思った。赤は強い。強すぎるくらいに。今でも社会主義を貫き、強くて恐ろしいとしばしば話題になるロシアには『赤の広場』と呼ばれる場所まである。やはり、この色が無意識に人に与えるイメージは暖かい反面、人の心を戦いで支配するぐらい怖いものだとも感じていた。
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けれど、あるとき、ふとした瞬間にこの『赤の広場』という地名は実はロシアが社会主義国になるずっと前から付けられていた名前だと知る。もしかして…と思うままに調べると、赤と同語源の単語を見つけ出した。
それは『美しい』という言葉だった。
『赤の広場』は、革命のための広場でもなく、戦いの広場でもなく、美しい広場という意味だったのだ。
私はそこで、ああ、と思わず声に漏らす。大きな気づきが呼吸と共に全身を巡る。
私は赤を誤解していた。
強くて、興奮と戦いに挑ませる色。そこでながれる血の色。人を支配するような色。赤を調べ始めてずっと、そんなイメージばかりが膨れ上がっていた。でも、違うんだ。
あれは人の命の美しさを叫ぶ色だと
それが人を興奮させ、鼓舞するんだと。
やっと気付けた。
赤を社会主義の色にしたレーニンも、自分の信じたものを貫くことで美しい未来にしたいという願いをこめていたのかもしれない。
人間の血も、赤だ。
私達の身体には美しいが流れている。
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色にまつわるコラム・エッセイ集始めました!
歴史、文化、細かい色の名前などから
色の世界をのぞきます。
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