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文豪みたいな旅をしよう

今日は箱根温泉へ1人旅をしたことを書こうと思う。

僕はコロナ禍で、本を読み始めた。
ステイホームの期間だ。

元々旅行に行くのが大好きな性格で、
よく、1人で特急列車に乗り、本を読み、
湖を見に行くことがある。

そして、ただベンチに座ってぼーっとしている。

このような行動にでるようになったきっかけが、
今回の箱根温泉へ赴いたのが最初かもしれない。

ではなぜ、
1人で箱根温泉へ向かったのか。

僕が1人で1泊2日の旅に出向いたのは、
友達のある言葉からだった。

「文豪みたいな旅をしようと思ってるねん〜。」

文豪、みたいな、旅?!

僕は最初、何を言っているのか分からなかった。
話を聞いていくうちに、[旅]の全貌が見えてきた。

友達は転職を考えており、
自分と向き合うために温泉旅館に篭り、自己分析をしてやろうという作戦だったのだ。


僕はそれをとても素敵に思い、
僕もそんなことをしてみたい!と、思った。

ただそれだけで、安易にも、
文豪っぽさを演出できるであろう箱根を、
僕は選んだ。


では、僕の思う[文豪みたいな旅]とは、
一体なんだろう。

別に、自己分析をして転職に繋げることや、
旅館に篭って、成し遂げたいことは特になかった。

だが、コロナ禍の中で、読書にハマり、
[文豪]と呼ばれる作家の本を読み漁り、
彼らたちがいかに破天荒な生き方をしていたかに、胸を踊らせていた。

そして、僕は決めた。
酒や女、お金を振り回していた[文豪](偏見)に、僕はなれないが、自分なりに本と向き合おうと思った。


ただ、ひたすらに、1人で本を読み漁ってやる。
今回の[文豪旅]のお供で選んだ本はこちらの2冊。

「箱男」(安部公房)
「月世界へ行く」(ジュール・ヴェルヌ)
僕の好きな作家の1人

なんだよ、たったの2冊だけかよ、
という声は一旦スルーさせてもらおう。

なんとしても、まだ読者素人なのだから。

そして、この2冊をリュックに入れ、
小田急新宿駅へ向かう。

季節は2月。
初めての箱根温泉。
箱根は冬がいいだろう、と謎の持論を唱い、
雪景色に囲まれた、大自然を拝みにいく。

憧れのロマンスカー

特急列車はなぜだか大好きだ。
新幹線を使わない旅行ってのがまたいい。

小田急新宿駅から、箱根湯本駅までまずは向かう。
車内でもちろん、本を読む。


僕の場合、生活の拠点としている東京都から、
物理的な距離を取れば取るほど、
身体と心がリフレッシュする。(気がする)

本に飽きたら、車外を眺めたらいい。
そこには見たことのない景色が広がっている。

そして、また、本と向き合う。
こうして、ゆっくりと本を読める時間を作れるだけで、とても嬉しく感じる。

箱根湯本駅から、電車に乗り込み、
強羅駅に向かう。

最初の目的地は大涌谷である。

関西生まれ育ちの僕からすると、
聞いたことのない知名であったが、
関東の人たちは当たり前に行くところだと思う。


ここの電車はとてもおもしろく、
山を登る途中で、対抗列車に線路を譲るために、
一度止まり、車みたいに譲り合いをする。

そういう時間さえ、切羽詰まらず、
対抗列車に乗っている家族を眺める。

彼らはみな、楽しそうな顔をしている。

そして僕も、微笑んでいる。

僕の乗っている列車もみな、
家族連れや、カップルしかいないことに気付く。

普段は周りの乗客の会話を聞いたりするのも楽しいのだが、今回ばかりは、少しだけ恥ずかしく思い、イヤホンをつけてみる。

何を聴くにしろ、
何を聴いたらいいのか分からない。
無音のまま、山頂を目指す。

その時の僕の顔は、僕が1人だということを、
周りの観光客に悟られないように、
今からアルバイトですけど?という頼りない表情に変わっている。

おそらく文豪はそんなことを気にしない。

雲1つだけの強羅駅
今からアルバイトですけど?電車
ロープウェイにも乗ったよ


そして、お目当ての大涌谷に到着する。

やはり、雪が積もる季節を選んで正解だったな、
と自分を認めてあげる。

関西にいた時には見たことのない、
圧巻される風景に言葉を詰まらせる。

僕に馴染みのない雪景色は、
雪の色は本当に白いんだ、
と再確認させてくれる。


持参してきた2冊の本は、
コンビニのレシートのように、
リュックの奥底に眠っている。

大涌谷では、当たり前のように、
人は誰か、人といる。

僕だけである。
いまだに、1人でうろついているのは。

しかし、問題ではない。
僕はアルバイトで来ているのだから。

あなたたちは観光でここに来ている。
僕は、アルバイトでここに来ている。

あくまで、メンタル的な問題だが。

僕はここに、
(文豪旅という)アルバイトで、来ている。

圧巻、壮大
雪は白い
アルバイトの僕

と、まぁ、大涌谷でのアルバイト(?)も終えたので、本日のメインイベント、芦ノ湖へと向かう。


実は芦ノ湖の真向かいにある、旅館を抑えてある。

これこそが、[文豪みたいな旅]の醍醐味と言っても過言ではない。

移動で疲れた体を旅館で癒し、
大浴場に向かい、熱いお湯に体を預ける。

そして、なにより、畳で寝れる。

僕が予約した旅館は、
少しくすんでいたが、たがそこがまた良い。

何がいいか、旅館のエントランスに向かうと、
人は誰もおらず、呼び鈴をちーんと鳴らす。
すると、奥のスタッフルームからおじいちゃんとおばあちゃんがゆっくりと時間をかけて扉を開ける。

この時点で、とても良い、
僕の好きな旅館の類いだが、
何よりもよかったのは、
奥から僕(24歳)より若い女の子が出てきた。

その女の子は、旅館には削ぐわないスウェットを着ており、イヤホン(有線)を耳にはめ、携帯を触りながら僕に挨拶をしてくれた。


良い。それくらいの対応がとてもいい。
おそらく、誰かのお孫さんだろう。
旅館がイキってなくていい。

こういう宿がとても好きなのだ。
[文豪]という人たちは。

丁寧に接待されるよりも、
家族が経営している方がこちらも安心する。
(知らんけど)


そして、フロントに向かい、僕の名前を告げる。

「山上さんですね〜。あれ?
ご予約の人数は2名様ですか?」

「あ、いや、僕1人です。
そういえば、予約する時に人数変更をするのを忘れていました、すみません。」

「全然大丈夫ですよ〜。
もう布団は2枚敷いちゃってるから、
1枚、片付けるね。1人なのに横に布団があったら寂しいでしょう。」

「あ、いえ、全然大丈夫なんですけど、
お手数をおかけしてすみません。」

「いえいえ、ここで少し待っててくださいね。」


寂しい。
旅館に1人、隣には空の布団。

人が寝るために作られた布団が、空であるとき、
そこに人は寂しさを感じるのだろうか。

2人で泊まると思っていたが、
実際に旅館にやってきたのは、
1人の男だったからなのか。


寂しいでしょう。


僕の耳にへばりつくその言葉は、
頭を振り払ってもこびりついている。



腰掛けると、床までお尻が届きそうなロビーのソファーの色がモノクロに見える。

僕1人しかいないはずのロビーでは、
無数に観光客の声が聞こえる。

ロビーの奥の壁一面から垣間見える芦ノ湖の水平線から、寂しさが押し寄せてくる。

エレベーターが開く音と同時に、
おじいちゃんが支度をできたと声をかけてくれる。


部屋に入ると、そこは立派な和室で、
部屋の端から芦ノ湖を見下ろせる。

確かに、ここで空の布団の隣で1人で寝るのは、
少し寂しいかもしれない。

1人で寝るには部屋が大きすぎると感じるが、
文豪はそんなことを気にしない。

僕は、アルバイト終わりに電車を無くしたんですよ、の顔もチェックイン時には忘れていない。
なんてダサい文豪なんだろう。

旅館のロビー
窓から見える芦ノ湖
まだ、空の布団
見下ろせる芦ノ湖

部屋に入り、畳の匂いを、肺いっぱいに吸い込む。

荷物をおろし、熱いお茶を飲み、
本来の目的である、リュックの奥底に眠っている文庫本を、取り出す。

座椅子に座り、芦ノ湖を眺める。
これから思う存分に、本と向き合える。

1.2時間、本を読んだあと、
せっかくなので、芦ノ湖周りを散歩してみることにした。


太陽はもう半分くらいしか見えない。
芦ノ湖にあったベンチに腰掛ける。

寂しいという波が、
僕の真正面に憚っている。

僕は寂しいのだろうか。

そうかもしれない。


でないと、1人で箱根まで来ないだろう。

友達との予定がないのを、自分で埋め合わせるために、理由を付けて箱根まで逃げてきているのかもしれない。


芦ノ湖に映る、光の反射に目を背けながら、
僕は空の布団の寂しさに埋もれないように、
充実という名前で自分を騙し、
空の布団に潜り込む準備をしている。
そうして、今日も1日を過ごしている。

それでも芦ノ湖は、[文豪みたいな旅]という名前を付けた僕を、見透かしたような、
いや、包み込むような穏やかな顔をしている。

芦ノ湖
穏やかな顔
鴨?

目が覚めるともう、清掃の方々は僕の部屋の前まで来ていた。
部屋中にノックの音が響き渡る。

寝過ぎたな、と思い支度を急ぐ。
だが、文豪はそんなことを気にしない。


この日は、ポーラ美術館に向かった。
常設されている物から、企画展まで、
じっくりと館内を散策した。

移動は基本的にバスを使った。
2日目はあいにくの雨だったが、
それでも雨は、僕を寂しい思いにさせなかった。

この日も感じたことは多々あるが、
ここら辺で、この日記を終えようと思う。

結果的に[文豪みたいな旅]という、
抽象的な名前を付けてみたが、結局は
僕の思う文豪と、あなたの思う文豪のイメージには相違があるので、今回の旅の文豪っぽさは20点くらいしかないかもしれない。


ただ、本をじっくり読む時間を作れ、
ベンチに腰掛け、話し相手は自分しかいないくらいの観光地で1人になる経験はとてもよかった。

そして僕は、新宿駅へ向かう帰りの電車でも、
アルバイト終わりの顔を忘れてはいない。

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