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百日以上紅

 近所の百日紅(さるすべり)の花があまりに長命で驚いた夏だった。

 百日紅は、幹の表面に凹凸が少なく、手触りがなめらかだ。そのために「木登りが得意な猿も滑る」というところから名前が来ていると、いつかどこかで聞いた。

 原産国である中国では、開花日数が100日ほどと長いことから百日紅(ひゃくにちこう)と名付けられたという。(↓出典)

 百日紅という名前を初めて聞き、そのような植物があることを初めて知ったのはちょうど10年前、2014年のことだった。当時、日本テレビの土曜連続ドラマ枠で放送されていた「金田一少年の事件簿N(Neo)」に登場したのである。

 ちなみに、主人公の金田一一(きんだいち はじめ)を演じていたのは山田涼介だった。小学校4年生だった私は、ありえないくらい彼に(厳密に言うと、彼が演じる金田一一に)メロメロであった。私が、山田涼介が4代目金田一一を演じる姿を初めて見たのは、連続ドラマの前に放送された2時間枠の「獄門塾殺人事件」だった。当時の私は、連続ドラマが始まるまでの数ヶ月、録画してある「獄門塾殺人事件」を何度も見直した。それくらい、一目惚れのメロメロであった。冒頭数分はセリフを被せて言えるほどになってしまっていた。
 あの熱量は病的だったと言えるだろう。捨てる直前に開いた当時の日記にも、金田一一の魅力がメロついた文章で長々と記されており、恥ずかしい思いを隠すように紐で縛ったのを憶えている。むしろそういった恥ずかしい書き物を手元から減らすために、日記をも捨てたのだと思う。

 2014年8月2日放送の第3話「鬼火島殺人事件」で、私は百日紅という植物に出会った。実際に植物が出てきたわけではないのだが、合宿に使われた研修所の一室に「百日紅」という名が付いていた。それを見た一が「ひゃく…にち…べに?」みたいなことを言った気がする。そして、幼馴染の美雪(優秀)が即座に「さるすべりって読むの!もう、恥ずかしいからやめてよ」みたいなことを言った気がする。気がするばかりだが、私はわりと記憶力が良い方だ。内容はこんな感じだったはずだ。

 この記事を書くにあたり、公式ホームページを訪れたのだが、どうやら10年前の今日、9月20日が最終話放送日だったらしい。記念のような日を思い出すことができた。ありがとう。


 私と百日紅の出会いはこの時だが、百日紅が実際どんな植物なのか調べようとしたのかしなかったのか…姿を知らないまま時が流れた。
 その後、なめらかな幹をもつ木を見かけて、これが百日紅かと思ったのだが、時期がずれていて花は見ることができなかった。それ以降も何度も百日紅の木に遭遇しているのにもかかわらず、どんな花をつけるのかをはっきりと認識したのは今年だった。
 自宅から近所のバス停までの、ほぼ毎日通るその道で、いつからか、ひらひらふわふわの白い花が降るようになった。
 日傘をさすと、空が広いことを忘れる。地面にあるものがどこから来たのかを辿ることで、日傘の外の、空の広さを思い出せる。そうして私は、百日紅の木と花が一致したのだった。
 それからしばらく、百日紅の花は降り続いた。そうして先日、とうとう花が降り止んだことに気づいた。何週間も降り続いたように感じる。春に散る桜以外で、花が降る様子を見ることができて、出かける私にいってらっしゃいと言ってくれるように感じて、それらがとても嬉しくて、わざと木の下を通っていた。また来年もどうか、百日以上咲いて、長く降り続けてくれますように。

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