渡米は突然に。3《男性恐怖症の壁》
前回の記事はこちら。
はい。
このイメージ最悪だった海老蔵が、わたしをアメリカにひっぱってきてくれた恩人(旦那さまさま)です。
盛り上がっていた会話をみごとに割りこまれ、空気はシーンと静まり返ったが、海老蔵は泥酔状態。うつむいて、ウダウダなっている。
ママも「ごめんな〜、ちょっと色々あってこの子。」と、なぜか海老蔵をカバーしている。なにか訳ありなのか。
あとあと知ったが、当時の海老蔵は離婚後で、酒におぼれていたようだ。
わたしの知人も離婚を経験している。その時わたしは彼女のそばにいた。
彼女は離婚後しばらく、中身がまったくべつの性格になり、これまで働いたことのない職業をはじめ、容姿もどんどん派手になり、最後には「彼氏とアジアに逃避行しまーす♪」と言いだした。
横にいたわたしは見守る姿勢でいたが、さすがに付き合って間もないどこの馬の骨かわからない男と、よくわからない国に移住するなんて。と、驚いた。同時に、わたしのなかの正義のヒーロが目覚めた。
キレ性の人は瞬間湯沸かし器のようにすぐキレる説。
同様に、わたしは数年に1度、目の前の人が【どうやら危険ゾーン】にはいると、勝手に正義のヒーローが目覚め、脇目もふらず行動にでるクセがある。今のところ、それで迷惑だったという人はいないので、そっと続けることにしている。
そのときも正義のヒーローが動き出し、止められなかった。気づいたら無意識に彼女を説得し、馬の骨にも連絡をして逃避行を阻止しようとしていた。
それから数カ月後、スッと憑き物が落ちたように彼女はもとの朗らかな女性に戻っていった。
そして馬の骨とも距離をおき、別れ、次の人生を歩みはじめた。そんな彼女は今、毎日「あー、しあわせだ。」と、インスタグラムに投稿できるほど平凡で幸せそうな環境にいる。あー、よかった。もしあのまま馬の骨とアジアに逃避行していたらと思うと、今でもゾッとする。
そんなこともあって、わたし自身、離婚経験はないものの(結婚のタイミングを逃してきた)そうして間近に離婚をしたひとをみたことがあったので、離婚とは大変衝撃の強いものであることをしっていた。
本人がケロッとしていても、実際は心がくらっている可能性がある。
そりゃそうだと思う。未経験のわたしは想像することしかできないが、離婚とは結婚以上にきっと、体力的にも精神的にも大変なことなのだろう。
だから海老蔵の泥酔理由をあとからしり、彼は一時的にそういう状況で、ほんとうは純粋な人間であるとおもった。人間は、純粋な人ほど、くらう時にくらうから。
ただ、そうした海老蔵の秘められた理由を聞く前から、かれの目の奥に悲しいものを感じていた。
「さみしい…。」
顔は笑っているが、目の奥が黒く、さみしいと言っている。
そんな彼の目を知ったとき、わたしの中の正義のヒーローがまた目覚めた。「この人を助けないと!」。それが運命のビビビ!なのか、ただの偽善なのか、愛なのか…今でもよくわからない。でも、たしかにそう直感で感じたのは事実だった。
そうして、泥酔状態の海老蔵に出会ってから、普通の一般女性が引くであろう彼の行動や発言にも、どんどん魅了されていった。
海老蔵の一言ですっかり冷めた空気の中、リリーと海老蔵は「次の店、行こか。」と動き出した。あっという間のたのしい時間だった。
『もう帰るのか。もう二度と会えないかも知れない。せっかく2人に出会えたのに、なんか悲しいな。』
わたしの住んでいた地域はとても落ち着いていて、ファミリーか、金持ちのおじいおばあ、おっさんおばさんが多い。
だから40代のリリーと海老蔵は、そのBarの中では、若い分類にはいり、この地域にもこんな若い人もいたのかと、嬉しくなったことを覚えている。
そして、まだわたしがこの土地にくるまえの、友人たちとの楽しいひと時を思い出していた。その頃はまだ友人も結婚をせず、仕事を終えたら気ままに集まり、酒を飲み、それぞれの未知の将来について語っていたっけ。
リリーと海老蔵との時間は、そうした懐かしくて楽しい時間をフラッシュバックさせるものだった。
「2件目、いきませんか?」
最初の態度とは打って変わって、目の前に片手を差し出して頭を下げている海老蔵が現れた。シンデレラの王子さまのようだ。
え!!・・・嬉しい。
わたしもわたしで単純である。もうすっかり夜中だったが、30と40のおばさんとおっさんがこんな静まり返った街で、なにをしようが噂話にもならないだろう。そう思い、本当は彼らとまだ関われることが嬉しくて、「はい!」と返事をした。
男性不審に陥っていたわたしは、一応ママに「彼ら、大丈夫ですか?安全な人たちでしょうか?」と、確認もいれた。ママは少し微笑んで「もーあんたら、大人やからなー。」と、良くも悪くもない返事をした。
実はママの店はこれまで3組の人たちが出会い、結婚まで行き着いたそうだ。いつもママは、「あんたらで4組目!」と、誇らしげに笑顔をみせてくれる。知る人ぞ知るこの小さなBarのママは、ベテランキューピットなのである。
その日はゲラゲラと3人で笑い合いながら他のお店を点々とし、、
そのあとは読者さんの想像におまかせする。(誰も聞きたくない)
そうして、海老蔵とリリーとの3人での時間は、わたしにとって貴重な癒やしの時間となった。
その日を機に、わたしは海老蔵とお付き合いをすることになった。
しかし、わたしはすっかり男を信じられなくなっていたので、付き合い始めてすぐにお付き合いを終了させたくなっていた。
LINE1つが怖い…。返事を待つのも吐きそう。
この文章、送っても大丈夫かな?嫌われるかな?
お付き合いってどう進めるんだっけ?
ダメだ…このままでは続かない。しんどい。
想像以上にわたしは男性恐怖症になっていた。
無茶苦茶なことはわかっていたが、付き合ってすぐに無理だと海老蔵に伝えた。
「ごめんなさい。一回、別れてもらえませんか?」
めちゃくちゃな提案である。
「いいよ、無理しないでね。」
海老蔵はとくに理由も聞かず、すんなり了承してくれた。
続く。
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