ホームレス妊婦になりかけた話4《タイニーハウスからシェアハウスに逆戻り!?編》
「ナイストゥーミーチュー!!アイラブ、ジャパン!マイブラザーイズロングタイムヲーキング、イン、ジャパン!!」
大家さんからも握手を求められ、ファーストアクションは大成功。
カタコトの英語でしたが、逆にわかりやすくて一安心。
なんだかすごくジャパンを推してくる初対面の大家さん。話をきくと、どうやら兄弟が日本で長年働いているらしい。
大家さんは、わたしの勝手なベトナム人の印象の、優しくておっとり、質素で慎ましい。という感じではなく、なんだかわたしの育った街、大阪のおばちゃん感が否めないかんじ。グイグイきます。
初対面で人を判断してはいけない。とおもいながら、おばちゃんのカタコトの英語に耳を傾けることにしました。
話の途中、おばちゃんの顔つきが真剣モードに。
ここからはきっと、大事な話。聞き逃してはいけない!!
渡米時0状態の英語力だったわたしはこの2年、アメリカ人相手の接客の日々や日本語テレビ・映画からの距離置きなどで耳だけは鍛えてきました。
ので、リスニングは、少しできるように成長していました。
「ソーリィ。ソーリィ。アイレントハウス。アイハブキッズ。エンドシングルマザー。セル、ユアーハウス。ソーリィ。マイハズバンドシェア、ハウス。ソーリィ。ソーリィ。」
おばちゃんは途中、手を握ってソーリィを繰りかえしてきた。
OK、OK、わかった。
5分もしないうちに今置かれている状況が把握でき、その内容にゾッとしました。
つまり、目の前の初対面のベトナム人のおばちゃんは「あなたに貸す予定だった家を売りに出したのでもう貸せない。」と、謝っているようです。
おいおいおい、嘘だろー。
渡米して2年間、いろいろな事態に見舞われ続けてきましたが、今回ばかりはさすがにキツイ。
だってお腹に子どもがいて、1週間後には臨月。いつ産まれてもおかしくない状況…。
頭は真っ白になり、血の気が引きました。
(心の声)おばちゃん、おばちゃん、わたし、もうすぐ赤ちゃんが産まれるんですYO。
わたし今、臨月間際のシェアハウス期限に迫られてるんですYO。
住む家(さらに2件所有)を持ってて、仕事もあって、子供もある程度大きくて、カタコト英語も話せる、コミュニティ人数はんぱないベトナム人のおばちゃんより、遥かにヤバい状態なんですYO。
おばちゃんは、家が貸せないことをあらゆる理由で言い訳しはじめました。
わたしは3人の子どもがいて、シングルマザーだ。日本は弟がいて、わたしは親日だ。別れた旦那との共同名義だからわたしの一存では賃貸をキープできない。などなど。
冷静に考えると、どれも私たちには一切関係のない話。どうなるの、これ。
でも、初対面すぎておばちゃんの素性も、今回の突然の状況も飲み込めないし、おばちゃんを責めたところで賃貸が借りれるわけではなさそう。
そして何より、アメリカの賃貸法律の仕組みがわからなかったので強気にでることもできませんでした。悔しい。
日本だったら日本語で淡々と責め立てたり、事情に詳しい人を呼んで仲介してもらったり、会話を録音して弁護士へ依頼したり、なんらと手段がおもいつくし、簡単に実行できる。けど、ここはアメリカ。
まず全部英語だし(しかもカタコトで正確に聞き取れてるかも謎)、一歩間違えば、個人が個人を訴えられる国。
声を荒げたり、責めたり、相手が悪くても、それに対する対応で、なにが原因で捕まるかもサッパリわからない。
日本の常識や法律は一切通用しない世界。(ちなみにカリフォルニアは立ちション、公共の場でビール飲酒で捕まったりする)
結果、その日は一方的に借りる予定の賃貸が借りれない事実をつきつけられて終わりました。
おばちゃんがすべてを話し終え、シーンとした空気感のなか、わたしは旦那へ目配せをし、「仕方…ないよね?」と。
あと1週間すこしでシェアハウスの期限がきれる・・・。
どう考えてもまた1から賃貸さがしをするのは無謀だ・・・。
モーテルか、Airbnbで第一子を出産して育てるのか・・・。
その時から次の家が確定するまで、わたしは妊婦の状態ながらアメリカでホームレス妊婦になってしまう恐怖に駆られつづけました。
なによりも、一番ストレスのかかって欲しくない臨月まえの時期に、大きなストレスを抱えて過ごしたことが一番の恐怖でした。
泣きそうになりながらも、このまま帰るのはどうも腑におちない!と、「困ります。わたしは妊婦だから。日本人のわたしがベトナムコミュニティですぐに家を見つけるのは難しい。次の家探しを手伝ってくれる?」と咄嗟にいっていました。
するとおばちゃん、「ノープロブレム!」と笑顔でわたしの手を握り、家の中に入れと手招きしてルームツアーをはじめたではありませんか。
「メッシー、メッシー。(散らかっている)」というおばちゃんの家は、本当に散らかりまくっていて物が散乱していました。こんまりメソッドが世界でヒットした理由も納得です。
ん?ここ、おばちゃんの住んでる家だよね?
なんとおばちゃん、一軒家を改築して3つにセパレートされたうちの一角を、さらに壁を仕切ってわたしたちへ貸すといいだしたのです。
その散らかりまくった部屋の壁には、シャネルのカバンが3〜5つディスプレイされていて、ライトでピカーっと照らされていました。その時なぜかおばちゃんのバッチリ決まった紫のネイルにも目がいきました。
おばちゃん、ブランドとか美容とか、ギラギラしたものが好きなんだな…。
初対面の「優しい人」という印象は少しずつ崩れ去り、どんどん進む怪しげな状況に、おばちゃんへの不信感がつのっていきました。
でも、次に住める家がない。
ホームレス妊婦には絶対になりたくない。
もう、期限も限られている。
モーテルもAirbnbも、新生児を育てる環境には120%、適していない。
よくわからなさすぎる状況に、とことん追い込まれていたわたしは「どこでもいいからしばらく住める場所が必要だ。」と、おばちゃんの提案してきたシェアハウスもありかと、家賃を確認していました。
とっさにおばちゃんが提示した金額は、本来借りる予定だった賃貸より4〜5万円も上乗せした金額。
「たっかー。」
壁一枚越しにシェアハウスになる上に、おばちゃんが原因で賃貸契約が白紙になって借りれなくなったのに、家賃たっかー。
さすがに提示金額が非常識すぎて、さらにおばちゃんへの不信感が高まります。
なんなん、この人?ほんまにベトナム人?アメリカにおるベトナム人ってベトナム人の心ないん?
心のなかで思わず大阪弁がでてしまいます。
とりあえず、その場で決断するのは思いとどまり(旦那がとめてくれた)一旦かえって考えることに決めました。
「オーケー。(全然OKじゃないけど)ウィーウィル、ティンキングアバウティッド。テンキュー。」
心の中はパニックになりながらも、最悪おばちゃんとシェアハウスでしのげる…か?と、自身へ言い聞かせて帰りました。
続く