渡米は突然に。2《リリーと海老蔵》
前回の記事はこちら。
「もー、あんたらまたどっかで飲んできたんか。しっ、しっ!!そっち座ったあかん!!はしっこ寄りや!!!」
2人はママの顔なじみらしく、ママは驚くわたしから彼らをとおざけた。
「お?だれぇ〜?その子。」一瞬、男たちに絡まれかけたが、「もう恋愛はしない。」と、心に決めていたので、関わらないようにした。
男性たちの顔を一切みず、残りのお酒を必死にあけようと慌てて飲んだ。
『早く帰ろ。もう、男には疲れた。』
そんな私の態度を知ってか、男たちは絡もうとするのをすぐにやめ、2人で静かにはなし始めた。
聞き耳をたててはいけないと思いつつ、小さなBarだったのでどうしても会話が耳につく。
「え?諦めんの?俺は諦めへんで。」
どうやら、2人共にバツイチのようだった。
一方は2度目の結婚をあきらめていて、もう一方は2度目の結婚をあきらめていないらしい。正反対のタイプのようだ。
それまでの人生、恋愛さえ上手くつづかなかったわたしにとって“結婚”なんて程遠いもののように思えた。
先ほどまで軽く嫌悪していたおっさん2人が、なんだかすごく大人に感じる。彼らは恋愛の先の、結婚をすでに経験しているのか…。
2人はそのまま色々な人生話を真剣につづけ、気づけばわたしは2人の姿をみないまま、すっかり2人の話にのめり込んでいた。
「ママ、おかわり。」すぐに帰るつもりが、なんだか2人のおっさんが気になって、残ることにした。
そのままそっと聞き耳を立てて1人飲み続けていると、そのうち1人のおっさんが話しかけてきた。
「キミ、この辺に住んでるの?」
そこで初めておっさん達の顔を見た。
若いリリー・フランキーと、顔に締まりのない海老蔵…。
話しかけてきたおっさん(リリー)は、おもっていたより真面目そうで、はなしてみるとそんな酔ってもない様子だった。
2年間、元カレの束縛によりほぼ自由にうごけなかったにわたしは、人との交流に飢えていた。
ここは顔見知りのママのいる安全な場所。Barのなかで会話を楽しむくらいなら良いだろうと、おっさんたちと話すことにした。
なにやらリリー・フランキーは、デザイナー関係の仕事をしているらしく、アートが大好きだったわたしはすぐに意気投合した。
「バンクシー知ってます?わたし、映画みに行きました。」
『おー!知ってる、知ってる。すごいよな、あの人。俺も画集持ってる。』
「え?そうなんですか!わたしも持ってます。バンクシーってまだ正体がわからないみたいで。やっぱりアートって、背景にアーティストの人生や思いとかも含めてアートだと…」と、
リリーとのアート話が盛り上がっていた途中、リリーの横でそれまでしずかにしていたおっさん(海老蔵)が叫んだ。
そんなん、ええかわるいかやろ!!
(良いか悪いか)
え・・・? なに、この人。
海老蔵は、リリーよりも泥酔状態だった。
わたしの両親は結婚生活のとちゅう、夫婦生活がうまくいかず、2人共にアル中になってしまった。その影響でわたしは中学生の頃からあらゆる苦労を強いられてきた。
そのトラウマもあり、酒に溺れているひとが大の苦手だった。
なによりも、せっかく楽しく話していた会話を、急に持論でぶちこわしてきた海老蔵にイラッとした。
海老蔵の初対面のイメージは最悪だった。
続く。
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