「もらう」と「くれる」

「もらう」と「くれる」の違いを考える。

いろいろ調べて考えても結局わからないことはある。その中の一つに「もらう」と「くれる」の違いがある。

『みんなの日本語』では第7課で授受表現「あげます・もらいます」を扱う。そして第24課で「くれます」を扱う。

「くれる」
・人が自分に、または自分の側の者にものを与える。
「もらう」
1.贈られたり頼んだりして受け取り、自分のものとする。「金をもらう」「賞をもらう」
2.頼んで手に入れる。「許可をもらう」
3.嫁や婿などを迎える。
4.仲裁を引き受ける。
5.勝負ごとに勝つ。「この試合はもらった」
6.金を出して自分のものにする。買う。
7.望まないものを与えられる。「病気をもらう」

goo辞書より

辞書での意味の違いを見る限り、その違いは割とはっきりしている。「もらう」には自分から「頼む」という意味があるので、「くれる」にはそういう意味はないということであろう。人によっては「くれる」を使う場合、「頼んでもいないのに」というニュアンスが感じられるかもしれない。実際に「くれる」には「こんなもの貴様にくれてやる」などのぞんざいな使い方もある。

では、その違いは

「もらう」は自分から頼んだことを他の人から与えられたついて使う。
「くれる」は自分では頼んではいないが、ほかの人に与えられたことについて使う。

と、このような説明でいいのだろうか。

もちろんそれは違う。誕生日に何をもらったか聞かれたときに「~をもらった」と答えたものが、誕生日前に自分からほかの人に頼んでいたものであるということになってしまう。すべてがそんなことはないだろう。上で引用した辞書の意味にもあるように「もらう」には「贈られたり」という意味もあるので、プレゼントの場合は頼んでいたりねだっていたりする場合もあるだろうが、そうでない場合もある。

1.(私は)母にスマホをもらった。
2.母は(私に)スマホをくれた。


ではこの2つの違いはどこにあるのだろうか。少し状況を足してみる。

状況1:私はどうしてもスマホが欲しくて、ずいぶんまえからお母さんにねだっていた。でも全然買ってもらえなかった。誕生日には何も買ってもらえなかったから、クリスマスも期待していなかったんだけど、朝起きたら枕元にスマホが置いてあった。本当にうれしかった。お母さんありがとう。

状況2:私はどうしてもスマホが欲しかった。でも、母にはそのことを言えなかった。うちの家計があまりよくないことを知っていたからだ、でも友達はみんな持っているので、いつも羨ましかった。母はそのことに気づいていたのかもしれない。クリスマスプレゼントはスマホだった。信じられなかった。本当にうれしかった。


ここまで状況がはっきりしていれば「もらう」と「くれる」の使い分けは簡単だが、実際はそうはいかない。よほどの状況ではない限り、使い分けはしていないのではないかと思うがどうであろうか。

ここで視点を変えて考えてみる。

言葉は生きている。一定の規則はあるが、例外も多い。

例えば学校で友達が先生に叱られている状況で、友達に「どうして叱られてたの?」と言えば、友達に寄り添った言い方になるし、「どうして(先生は)叱ってたの?」と言えば中立的で客観的な言い方になる。この言い方をすれば友達は「冷たい」と感じるかもしれない。もちろん意味の解釈は人それぞれである。

このような視点で「もらう」「くれる」を考えてみる。

3・A:そのキーホルダー、どうしたんですか。
  B:これ?娘にもらったんだ。

4.A:そのキーホルダー、どうしたんですか。
  B:これ?娘がくれたんだ。


3と4の文を解釈すると、3のほうが「与えられた」ことに対して、「私」は冷静であるように感じる。言い方によるが、ひねくれた見方をすれば「あまりうれしくない、興味がない」ともとれる。4のほうが「娘(与え手)」との心的距離が近く「うれしさ」も強く感じる。解釈を進めれば、「もらう」の意味である「贈られたり頼んだり」というところから、何かを与えられる「きっかけ」というものがあり、話し手はそれを予測できる可能性が高いという点から「客観性」が感じられるのであろうと思う。対して「くれる」には頼んでいないが与えられたという「意外性」があるので、より感情的に響くのではないかと思う。

簡単にまとめると「くれる」は「もらう」より与え手への心的距離が近いと言える。これは「くれる」を使う場面が「私」以外に「身内」についても言えることからも同じように解釈できると思う。「AはBにくれた」の「B」との心的距離が近いということはくれたものに対して話し手の「気持ち」も強いと言えるし、「もらう」よりもより好意的に感じていると言える。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?