国連未来サミット「グローバルデジタルコンパクト」と子どもの権利
ニューヨークの国連本部で開催された国連未来サミット(9月22~23日)で9月22日に採択された成果文書「未来のための協定」と、その付属文書のひとつである「将来世代に関する宣言」については、すでにnoteで概要を紹介しました(それぞれのリンクを参照)。
もうひとつの付属文書である「グローバルデジタルコンパクト」(GDC)についても、とくに子どもとの関わりについて簡単に取り上げておきます。GDCの原文(英語)や関連資料は国連事務総長テクノロジー特使のサイトにも掲載されています。
概要
GDCは、「すべての人を対象とする、包摂的で開かれた、持続可能な、公正な、安全で危険のない(safe and secure)デジタル未来」の実現を目標とし(パラ4)、そのために次の5つの目的を追求するとしています(パラ7;太字は平野による)。
すべてのデジタルディバイドを縮小させるとともに、持続可能な開発目標全体を通じて進展を加速させる。
すべての人を対象として、デジタル経済への包摂およびデジタル経済からの利益を拡大する。
人権を尊重し、保護しかつ促進する、包摂的で開かれた、安全で危険のないデジタル空間を涵養する。
責任ある、公平かつ相互運用可能なデータガバナンスを前進させる。
人類の利益のために人工知能の国際的ガバナンスを増進させる。
子どもについては、目的3との関係で、とくに次のコミットメントが表明されています(文末のカッコは関連するSDGsへの言及)。
「子どもの権利条約を含む国際人権法にのっとり、デジタル空間で子どもの権利を保護するための法律上および政策上の枠組みを強化する(全SDGs)」(パラ23(c))
「子どもの権利条約を含む国際人権法にしたがい、オンラインにおける子どもの安全についての国家的な政策および基準の策定および実施に優先的に取り組む(SDGs3、5および10)」(パラ31(b))
「テクノロジーの利用を通じて発生しまたは増幅される子どもの性的搾取・虐待(デジタルプラットフォームにおける子どもの性的虐待・子どもの性的搾取表現物の頒布および子どもに対する性犯罪の遂行を目的とする勧誘またはグルーミングを含む)への対抗に関するデジタルプラットフォームのポリシーおよび実践のモニタリングと検証を進める(SDG3)」(同(f))
さらに、緊急に次の行動をとる意思も表明されています。
「オンラインの安全に関する研修資料および安全確保措置を、ユーザーに対し、かつとくに子ども・若者ユーザーに関連して提供するよう、デジタルテクノロジー企業およびソーシャルメディアプラットフォームに求める(SDG3)」(パラ32(c))
「ユーザーおよびその権利擁護者が潜在的なポリシー違反を通報するための、安全で危険のないアクセシブルな通報のしくみ(子どもおよび障害のある人に合わせた特別な通報のしくみを含む)を設置するよう、ソーシャルメディアプラットフォームに求める(SDG3)」(同(d))
評価と課題
GDCについては、この分野の第一人者であるソニア・リビングストン(Sonia Livingstone)教授とキム・R・シルワンダー(Kim R. Sylwander)博士(いずれも(LSE=London School of Economics and Political Science=メディアコミュニケーション学科)による解説「子どもの権利と国連グローバルデジタルコンパクト」(Children's rights and the UN Global Digital Compact, Academy of Social Sciences: International Advisory Group policy briefings series, 2024)も発表されています。
両氏は、子ども・若者を含む市民社会からの働きかけもあって、国連憲章への言及が追加される(パラ3・8)とともに、「子どもに対する当初の保護主義的アプローチの幅が広げられ、子どもを対象とするものも含むすべての人権の促進がいっそう重視されるようになったこと」などを評価したうえで、
「子どもたちの市民的権利および自由を支えることは重要であり、子どもたちのプライバシーの保護と、子どもたちに影響を与える事柄――これにはいまやデジタル環境も含まれる――に関する子どもたちとの協議についても同様です」
と強調しました。このような認識は、国連総会が2023年12月19日に採択した子どもの権利に関する決議でよりはっきり表明されていますので、そちらもあわせて参照することが必要です。なお、GDCでは必ずしも明確に打ち出されていない子どものエンパワーメントの視点について、デジタル環境における子どもに関するOECD(経済協力開発機構)理事会勧告(2021年)や「デジタル環境における子どもの保護とエンパワーメントのためのG20ハイレベル原則」(同)なども参照。
両氏は上記の引用部に続けて、
「このアジェンダの実現は、子どものインターネットユーザーの年齢、能力および状況にどのように対処するか、競合し合う諸利益に鑑みて子どもたちの最善の利益をどのように確保するかといった、インターネットガバナンスに関わる課題を提起するものです」
とも述べています。こうした課題について実効的な取り組みを進めていくためにも、両氏も実施の必要性を強調している国連・子どもの権利委員会の一般的意見25号(デジタル環境との関連における子どもの権利、2021年)その他の国際的指針を踏まえた取り組みが求められます(noteのマガジン〈デジタル環境と子どもの権利〉も参照)。
さらに、英国の「デジタル未来委員会」が2023年3月に発表した「子どもの権利・バイ・デザイン:子どもが利用するデジタル製品・サービスの革新的開発者のためのガイダンス」(原文PDF;後述)を参照することも促したうえで、次の4つの分野に優先的に取り組んでいくことを提言しています(太字は平野による)。
子どもたちのデジタルアクセス、デジタル利用、デジタルスキル、デジタルの機会およびデジタル保護における国内および国家間の不平等は、デジタルディバイド克服のための努力を加速させることの重要性を浮き彫りにするものである。
市民的・創造的・批判的活動への子どものデジタル参加水準が相対的に低いことは、子どもたちがデジタル世界で生き生きと豊かに成長していくための経路を増進させることによって機会喪失を緩和する必要性を強調するものである。
危害の広範なリスクにさらされる水準が相対的に高いことは、安全で、プライバシーが尊重され、年齢にふさわしい子ども向けデジタルサービスを、効果的な支援、救済およびリハビリテーションとあわせて促進していくための法令および政策にいっそう注意を向けることの必要性を実証するものである。
進展を達成・維持し、デジタルサービスがその製品において子どものすべての権利および自由を保護することを確保するために子どもの権利影響評価を実施することで、子どものための透明な、魅力のある、権利を尊重するデジタル環境に向けた道を拓くことができる。
なお、前掲「子どもの権利・バイ・デザイン」についてはFacebook(2023年6月10日付投稿)で簡単に紹介済みですので、以下に採録しておきます。