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国連・子どもの権利委員会の大谷美紀子委員長が国連総会で報告――子どもの権利の世界的後退を懸念

 国連・子どもの権利委員会の大谷美紀子委員長が、10月7日、国連総会(第77会期)第3委員会で委員会の活動についての報告を行ないました。発言内容はOHCHR(国連人権高等弁務官事務所)のサイトに掲載されています(Wordファイル)。アーカイブ動画はこちらから視聴可能です(動画の冒頭)。

 以下、報告の要旨を紹介します。なお、番号は平野が便宜的に付したものです(昨年の報告要旨も参照)。

1)COVID-19パンデミックの継続、ロシアによるウクライナへの攻撃、空前の気温上昇・火災・暴風雨・洪水などが人間開発に悪影響を及ぼしており、人間開発指数は世界的に2年連続で低下している。これが意味するのは、数億人の子どもたちが紛争状況下で暮らしており、十分な食べ物を得られず、学校に行けずまたは不十分な水準の教育しか受けられず、予防接種を含む保健サービスにほとんどまたはまったくアクセスできず、貧困、暴力および精神保健上の課題による影響をますます受けるようになっているということである。この数十年の間に達成された子どもの権利に関する進展の兆候のほとんどが、いまやますます脅かされるようになっている

2)委員会は、世界のあらゆる地域で、また国連人権理事会のような政府間討議の場で、社会文化的・宗教的多様性や「家族的価値観」のような家父長制的伝統を名目として、権利の保有者としての子どもの地位に疑義が呈されるようになっていることをますます憂慮する。子どもたちの行為主体性(agency)、自律性(autonomy)および参加権は異議申立ての対象となり、縮小され、無視されている。子どもは親または保護者とは独立に全面的に権利を保有する存在であり、その権利、最善の利益および意見は尊重されなければならないことを、すべての国が想起するよう求めたい。委員会は、国際的・国内的双方のレベルで生じている子どもの権利を後退させようとする動きに対抗し、すべての人権問題に関する政策立案者のアジェンダおよび意思決定プロセスにおいて子どもの権利が高く位置づけられ続けるようにするため、引き続き努力していく。〔平野注/1)および2)との関連で、委員会が関連する国連事務総長特別代表および国連機関と共同で発表した10月6日付の声明も参照。〕

3)人権、開発および平和・安全を3本柱とする国連のすべての活動およびプログラムに子どもの権利を統合して主流化していくことが、これまで以上に重要である。私たちは、基本的要素のひとつに子ども参加を含む子どもの権利基盤アプローチを精力的に推進していかなければならない。これとの関連で、委員会は、国連システム全体を対象とした子どもの権利の主流化に関するガイダンスノートを作成する旨の、国連事務総長の決定を歓迎する。委員会はすでに、合同一般的意見/勧告および共同声明の発出やイベントの共催に向けて、他の条約機関、特別手続の任務保持者、子どもと武力紛争/子どもに対する暴力に関する両国連事務総長特別代表と緊密に協力してきた。

4)委員会は、たとえば子どもの権利に関する今年の全日討議(家族再統合)に対してOHCHRを通じて貢献することを通じ、人権理事会の活動への関与も強めてきた。来年の全日討議では子どもの権利とデジタル環境に焦点が当てられる予定であり、委員会は、デジタル環境との関連における子どもの権利についての一般的意見25号(2021年)に基づいて実質的貢献を行なうことになろう。

5)委員会は、ユニセフとの長きにわたる戦略的パートナーシップからも利益を得てきた。これには、子どもの権利に関わる主要な問題についてハイレベルな政策討議を行なう場として機能する、1年おきの会合も含まれる。

6)子どもの権利の主流化が進んでいる最近の例として、南アフリカで2022年5月に開催された第5回児童労働撤廃世界会議に初めて子どもが参加したことをとくに取り上げたい。子どもたちは、政府が、子どもに影響を与えるすべての事柄(児童労働を含む)についての意思決定手続に子どもを優先的に含めていく必要性を強調した。

7)子どもの権利条約については米国を除くすべての国が締約国になっているが、武力紛争への子どもの関与に関する選択議定書(OPAC)、子どもの売買、児童買春および児童ポルノに関する選択議定書(OPSC)および通報手続に関する選択議定書(OPIC)については批准のペースが引き続き鈍化しており、この1年で新たな批准は4件しかなかった。私たちは引き続き、子どもの権利に関心を持つ他の国連機構・機関とともに、子どもの権利条約および3つの選択議定書をすべての国が批准・実施するよう求めていく。これは、18歳未満のすべての人が、すべての場所で、いかなる時にも、子どもとして、そして全面的な権利の保有者として扱われることを確保するために必要なステップである。

8)報告書審査に関しては、第91会期(2022年8月29日~9月23日)中に南スーダンの第1回報告書の審査が行なわれたことをもって、全締約国の第1回報告書審査が終了した。しかし2つの選択議定書に基づく報告のペースは依然として鈍化しており、OPACについては38件、OPSCについては51件の第1回報告書が期限を過ぎても提出されていない。委員会としては、未提出国に対してOHCHRの支援プログラムの活用を引き続き奨励するとともに、簡略報告手続(委員会が作成した事前質問事項への文書回答をもって報告書に代える方式)の適用など、2つの選択議定書に基づく報告書の提出を促進するための方法についても議論したいと考えている。

9)委員会は2022年中に22か国の報告書を審査した。第91会期ではすべての国の報告書審査を対面で行なうことができ、喜ばしい。ただし、例外的に審査がオンラインで行なわれる場合、予算および通訳者が不足していることから、1会合の時間が通常3時間のところ2時間に限定されてしまう。委員会としては、対面審査の原則を強調しつつ、オンライン通訳のための資源を増やすことを国連加盟国に対して求めたい。

10)委員会は第89会期(2022年1月31日~2月11日)に決定15号を採択し、すべての締約国による定期的かつ時宜を得た報告を確保するため、8年ごとの審査サイクルを確立することを決定した(審査から4年後に、総括所見で特定された6つの優先分野を対象とする中間フォローアップを行なうもの)。あわせて、簡略報告手続を標準の手続として採用することも決定した(希望する締約国は従来の報告手続を選択することも可能)。

11)通報手続に関する選択議定書(OPIC)に基づく個人通報の処理状況については、委員会は2021年10月以降、28件について決定を採択した。そのうち、▽シリア北部の難民キャンプからの子どもの帰還、▽子どもの入管収容、▽学校における子どもの体罰についての調査、▽国際的な子どもの奪取、▽初等教育へのアクセス、▽ノンルフールマン関連事案の15件について条約違反を認定している(主な決定の概要は筆者のサイトの〈国連・子どもの権利委員会 個人通報 決定一覧〉参照)。2件については受理不能と判断し、11件について審理を打ち切った。また、これまでに採択した8件の決定についてフォローアップ報告書を採択し、すべての案件についてフォローアップを続けていくことも決定した。委員会は現在、決定を子どもにもわかりやすい(チャイルドフレンドリーな)ものにする可能性についても議論している最中である。
 委員会に寄せられる個人通報の件数も増加を続けており、2021年10月以降に80件の新規通報があり、そのうち38件が登録された。これにより、登録件数は計197件となっている。審理を迅速に進めようとする委員会の努力にもかかわらず、現在87件が決定待ちの状態であり、被害を受けた子どもに迅速な救済を提供するはずの手続としては課題が残っている。OPICの締約国に対し、個人通報手続のすべての段階(フォローアップを含む)で全面的に協力することを求めたい。

12)人権擁護者である子どもに関する2018年の一般的討議以来、人権擁護者である子どもの参加は委員会の活動にとって標準的な実践および要件となっている。現在、人権擁護者である13人の子ども(10~17歳)が、とくに気候変動に焦点を当てた子どもの権利と環境についての一般的意見草案について助言を与えてくれている。一般的意見の第1次草案を作成するため、子どもアドバイザーとともに企画した第1次協議に103か国から7,000人以上の子どもが参加してくれた。これらの協議を通じて浮き彫りになったのは、気候変動が子どもの権利に及ぼす影響に緊急に対処しなければならないということである。協議に応じてくれた子どもたちの90%近くが、気候変動や環境危害は将来世代の子どもたちを脅かしていると考えている。委員会は協議のための草案を採択し、これは2022年11月に公表される予定である。昨年のコンセプトノートにコメントを寄せてくれた19か国に感謝するとともに、各国に対し、一般的意見草案へのコメントを来年2月までに寄せてくれるよう求めたい。

13)条約機関制度は、人権問題に関する客観的かつ非政治的評価と、各国が国際人権法上の義務を実施していくための指針および技術的支援を提供し、もって人権規範を現実化していくものである。専門家と締約国との対話の成果は、普遍的定期審査(UPR)を含む国連人権システム全体を支える柱となっている。条約機関制度が必要としている資源に関して国連総会で検討されるにあたり、国連加盟国が積極的支持を表明することは、これらの努力が将来効を奏するために欠かせない。

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平野裕二
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