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子どもに対する暴力防止のための国内行動計画:フィンランド

 6月10日、子どもに対する暴力根絶に取り組む End Violence Against Children の主催で、GPeVAC(子どもに対する暴力を終わらせるためのグローバル・パートナーシップ)のパスファインディング国(開拓者として取り組みを先導する国)のうち最近国内行動計画を策定した3か国の取り組みを共有するウェビナーが開催されました。

 参加したのはコロンビアフィンランド日本です。日本からは新美 潤・人権担当特命全権大使がプレゼンテーションを行ないました。時差の関係もあってプレゼンテーションもその後のディスカッションもビデオメッセージの形がとられ(ディスカッションについては事前に出された質問に録画で回答)、スライドその他の資料もまったく提示されなかったのは少々残念でしたが、こういう場に日本が積極的に参加することは大事です。日本が子ども版国内行動計画(子どもに対する暴力撲滅行動計画 for Kids)を作成したことについては、コロンビアの代表も「わが国でもすぐやらなきゃ」と評価していました。

 これにあわせて、日本の「子どもに対する暴力撲滅行動計画」の英語版全文要約版、いずれもPDF)も6月14日付で外務省のサイトに掲載されています(End Violence Against Children の国別ページにも掲載されています)。

 フィンランドの国内行動計画は、「暴力のない子ども時代:子どもに対する暴力防止のための行動計画2020-2025」(Non-Violent Childhoods: Action Plan for the Prevention of Violence against Children 2020-2025)と題された、計640ページからなる大部な計画です。14章から構成されており、93の行動が掲げられています。

その構成は次のとおりです(一部の章のみ、節も紹介します)。

1.はじめに
2.子どもに対する暴力――保護要因、リスク要因および影響
3.子どもに対する暴力の統計的検証
4.子どもの権利

 4.1 はじめに
 4.2 すべての子どもは、安全な子ども時代に対する権利を有する
 4.3 子どもの権利条約
 4.4 ランサローテ条約イスタンブール条約
 4.5 子どもの権利に関する教育、訓練および情報の普及
 4.6 子ども・若者が経験する暴力についてのデータ収集
 4.7 子ども・若者に対する暴力と闘うために利用可能な資源の十分さ
5.包摂は安全・安心の促進と暴力の防止につながる
6.多職種の協力と情報交換
7.安全スキル教育
8.子ども・若者の視点から見た家庭におけるドメスティックバイオレンス
9.乳幼児期教育、教育機関および指導つき余暇活動における暴力、いじめおよびハラスメント
10.子ども・若者に対する性暴力の防止と、子どもの性的虐待の有害な影響の最小化
11.デジタルメディアにおけるセクシュアルハラスメント、グルーミングおよび性暴力
12.子どもに対する性犯罪における被害評価
13.脆弱な状況にある子ども

 13.1 はじめに
 13.2 障害のある子ども・若者
 13.3 民族的集団および言語的・文化的マイノリティ
 13.4 児童福祉上の家庭外措置の対象とされている子ども
 13.5 ジェンダー&セクシュアルマイノリティ(LGBTIQ)に属する子ども・若者
14.特別な論点
 14.1 はじめに
 14.2 子どもの人身取引および関連の搾取
 14.3 女性性器切除
 14.4 医療目的ではない男児割礼)

 目次を見ただけでも、相当に包括的な計画であることがわかります。2021年8月に日本の国内行動計画が発表されたとき、
(1)「権利に焦点を当てる」(Rights Focused)という視点から子どもに対する暴力についての取り組みを包括的に発展させていこうという姿勢がうかがえないこと
(2)優先分野のひとつに「性的搾取等・性暴力」を挙げておきながら、性的搾取以外の性暴力についてほとんど取り上げられていないこと
(3)脆弱な状況に置かれた子どもへの目配りがほとんど感じられないこと
 などの課題を指摘しておきましたが(こちらの記事を参照)、今後改善を検討していくにあたり、フィンランドの国内行動計画は参考になるのではないかと思います。

 なおフィンランドでは、「本当の意味で子ども・家族にやさしいフィンランド」を目指すフィンランド国家子ども戦略も2021年2月に採択されています。

 やはりGPeVACのパスファインディング国であるカナダが2019年7月に発表した国内行動計画を以前Facebookで取り上げたので、その投稿もここに再録しておきます。

「子どもに対する暴力を終わらせるためのグローバルパートナーシップ」(GPeVAC)のパスファインディング国(開拓者として取り組みを先導する国)であるカナダが、7月15日、『子どもに対する暴力を終わらせるためのロードマップ』を発表しました。

★ Public Health Agency of Canada: Government of Canada Launches Road Map for Ending Violence Against Children
https://www.newswire.ca/news-releases/government-of-canada-launches-road-map-for-ending-violence-against-children-811647653.html

 ロードマップは全42ページで、次の4部構成をとっています。

1)問題を理解する:カナダにおける子どもに対する暴力
2)舞台を設定する:子どもに対する暴力防止のために現在行なわれている取り組みのハイライト
3)行動を加速する:子どもに対する暴力を終わらせるためのカナダのロードマップ
4)これからの旅路:子どもに対する暴力を終わらせる

 1)では、カナダの子ども・若者が経験している暴力として、とくに (a) 子どものマルトリートメント、(b) ティーン/若者のデートDV、(c) いじめ、(d) 性的人身取引・性的搾取、(e) コミュニティにおける暴力の5つが取り上げられ、現状が分析されています。また、リスクが高い状況に置かれている集団として、▼先住民族(ファーストネイションズ/イヌイット/メティス)の子ども、▼セクシュアルマイノリティ(LGBTQ2+)の若者、▼障害・疾病のある子ども、▼ホームレスの若者、路上とつながりのある若者および薬物を濫用する若者、▼社会経済的地位が低い子ども、▼過去に暴力の被害を受けた子ども、▼移住者や民族的マイノリティの若者が挙げられています。

 3)で「行動のための機会」として取り上げられているのは次の5つです。
(a) 先住民族の子ども・家族のためのサービスの強化
(b) マルチセクター/パートナーの関与の拡大(子どもおよびティーン/若者の参加の強化を含む)
(c) 専門職およびサービス提供機関が子どもに対する暴力を認知して安全に対応できるようにするための体制強化
(d) 効果的プログラムに関するエビデンスの強化と知識の動員
(e) データおよびモニタリングの増進

 ロードマップ全文(英語)は↓から参照・ダウンロードできます。
https://www.canada.ca/en/public-health/services/publications/healthy-living/road-map-end-violence-against-children.html
(後略)

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平野裕二
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