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「国連・人権教育のための世界プログラム」第5段階の行動計画――人権とデジタルテクノロジー/環境・気候変動/ジェンダー平等の各分野で取り組むべきこと

 以前の投稿で紹介したように、国連・人権教育のための世界プログラム第5段階(2025年~2029年)の行動計画は、人権とデジタルテクノロジー環境・気候変動およびジェンダー平等をとくに強調しながら、子どもと若者に焦点を当てています。

 前回の投稿では、とくに強調されている3つの分野については詳しく触れませんでしたが、ちょうど「人権教育・啓発に関する基本計画(第二次)中間試案に係る意見公募」が実施されていることもあり、以下、各分野で子ども・若者が身につけるべきとされている知識・スキル・態度の概要を紹介しておきます。V.構成要素(Components)のB.教授・学習プロセスおよびツールに書かれている内容(パラ22(a)~(c))です(わりと細かく訳していますが逐語訳ではありません)。

 なお、本セクションの主たる参照源としては、国連・子どもの権利委員会の関連一般的意見国連・女性差別撤廃委員会の関連一般的勧告およびユネスコ(国連教育科学文化機関)「平和、人権および持続可能な開発のための教育に関する勧告」(2023年11月)がとくに挙げられていますので(パラ22の脚注32)、あわせてご参照ください。


人権とデジタルテクノロジー

※関連して、とくに「デジタル環境との関連における子どもの権利」についての国連・子どもの権利委員会の一般的意見25号(2021年)参照。

知識

  • デジタル環境における子ども・若者の権利

  • デジタル環境の実態(デジタル環境のインフラ/企業の慣行および説得戦略/自動化されたデータ処理、個人情報および監視技術の使用/(surveilance)/アルゴリズムによる個人化/人工知能/関連する法的契約条件など)

  • 人権・基本的自由の促進および保護におけるデジタルテクノロジーの可能性

  • デジタル化が社会に及ぼす可能性のある悪影響/デジタル製品・サービス・フットプリントに関連する機会とリスク

  • デジタルのコンテンツ・接触・行動・契約(digital content, contact, conduct and contract)に関連するリスクにさらされることから生じ得る悪影響

  • 害を少なくするための対処戦略/自他の個人情報・プライバシー・アイデンティティを守り、かつ社会的・情緒的スキルおよびレジリエンスを高めるための戦略

  • 排除の状況および脆弱な置かれた子ども・若者が直面する、デジタル環境へのアクセスにおけるさまざまな障壁

  • デジタル活動と非デジタル活動の健康的バランス

スキル

  • テクノロジーの社会における位置づけ、自分たちの日常生活への影響、知識構築における役割および社会的参加・包摂のための活用について批判的に分析できる。

  • さまざまなチャンネルおよびテクノロジーを通じ、情報・知識を効果的に検索してアクセスし、批判的に評価し、かつ責任のあるやり方で製造・利用・流布することができる。

  • オンラインの偽情報・誤情報等、ヘイトスピーチならびにその他の有害なコンテンツおよび行動を見つけ出し、これらと効果的に闘うことができる。

  • 子ども・若者にとって関心のある主要な人権問題についての効果的な意識啓発・アドボカシーキャンペーンを、仲間たちなどとともにオンラインで共創・実行できる。

  • 個人および集団として自分たちの権利の効果的な唱道者になれるよう、(必要な場合には匿名で)意見表明・参加を行なうためのデジタルのプラットフォームおよび手段を発見・活用できる。

  • 安全かつ効果的で、分別と敬意のあるやり方(他者の権利と尊厳を尊重することを含む)でデジタル環境に関与できる。

  • 現在・将来のテクノロジーを責任あるやり方で活用することを通じ、さまざまなレベルでの問題解決に関して行動を起こせる。

  • デジタルテクノロジーの利用に際して人権原則に基づくアプローチをとっていないことについて、国その他の関連の主体(企業を含む)の責任を問うことができる。

  • デジタル環境に関連して権利を侵害されたときに、支援(心理的・法的支援を含む)を求め、かつ、子ども・若者にやさしい救済のためのしくみに効果的に関与することができる。

態度

  • デジタル環境における他者の権利・尊厳の尊重

  • デジタルテクノロジーの利用によって生じまたは増幅される、あらゆる形態の差別、暴力および有害な行動に対処する積極的行動

  • デジタルテクノロジーをてこにして人権を促進・保護することに対する意欲

  • デジタルシティズンシップとデジタルエージェンシー(デジタル・メディア・情報リテラシー、コンピテンスおよびアカウンタビリティをもってデジタル世界を統制しかつデジタル世界に適応する能力)

  • 有害なデジタル活動の標的になった際のレジリエンス/標的とされた他者への共感および当該他者との連帯

  • デジタルプラットフォームおよびソーシャルメディアの利用を通じた社会的包摂の評価

  • 問題のあるスクリーンユースやデジタル依存を防止するうえで鍵となる、メディアへの成熟した態度(media maturity)およびデジタルバランスの理解

環境・気候変動

知識

  • 気候変動・生物多様性喪失・汚染その他の環境課題を含む複合的な惑星危機が人権の享受に及ぼす、ますます強まりつつある悪影響

  • 清浄、健康的かつ持続可能な環境に対する権利の内容および他の権利との相互依存性

  • 清浄、健康的かつ持続可能な環境に対する権利および環境関連の手続への市民的参加に関連した国際的・地域的・国内的政策および枠組み

  • 個人・コミュニティ・社会・国・天然資源・生態系の相互依存性と、行動を起こすことまたは起こさないことによって生じる影響

  • 世代間の衡平・正義・連帯の原則と、これらの原則に基づいて気候変動に関する行動をとる国の義務

  • 気候変動に関連する危害が特定の集団の子ども・若者に及ぼす交差的で差異のある効果

  • 不平等の歴史的・継続的パターンと気候変動とのつながり/これらの問題に対処する際の気候正義運動の役割

スキル

  • 正確で信頼に足る気候情報にアクセスする権利を行使できる。

  • 強まりつつある環境課題(災害リスクおよび環境に関連する健康上の影響など)に適応し、かつそのための備えにおいてレジリエンスを構築する方策をとれる。

  • 環境課題について批判的に熟考し、問題解決に貢献し、発達しつつある能力にしたがって責任ある決定を行なうことができる。

  • 環境保護、気候危機の影響への対処および気候正義と環境持続可能性の促進に貢献するため、考えを共有し、他者を奨励し、個人的・集団的に平和的な行動をとることができる。

  • 地方~国際社会の各レベルで行なわれる気候変動・環境関連の意思決定プロセスに意味のある形で関与し、影響を及ぼすことができる。

  • 世界的な環境危害に対応するための緊急かつ断固たる措置を要求するとともに、グリーンウォッシングまたはグリーンシーニング〔greensheening;sheening は「艶出し」などの意味〕の慣行を見つけ出すことができる。

  • 環境危害から子ども・若者を保護しないことおよび子ども・若者のウェルビーイングと発達を確保しないことについて、国その他の関連の主体(企業を含む)の責任を問うことができる。

  • 環境保護の努力に対する脅迫、威嚇その他の深刻な報復を認識し、安全のための措置を適宜とることができる。

  • 環境危害に関連する権利侵害および他の気候関連の損失・損害について公正な裁きを求めかつ救済を得るため、子ども・若者にやさしい司法的・非司法的しくみに効果的に関与することができる。

態度

  • 連帯、つながり、そして人類共同体(a common humanity)および地球という惑星への帰属の感覚

  • 健全な惑星に対する共有された責任の感覚

  • 環境の保全ならびに気候変動およびその影響との闘いにおける伝統的知識・慣行および先住民族の知識・慣行の多面的役割の尊重および認識

  • 持続可能性および人権に関する意識を高め、かつその促進のための行動を奨励する目的で、正確で信頼に足る情報を他者と共有することに対する意欲

  • 清浄、健康的かつ持続可能な環境に対する権利の保護を求める行動を起こしてその最前線に立つこと、および、環境危害への対処と環境危害に関するアカウンタビリティの促進のために気候正義および効果的行動を要求することにおける、行為主体性(agency)

  • 持続可能で豊かな未来に対する楽観的展望と希望

ジェンダー平等

知識

  • あらゆる多様性を持つすべての人の、あらゆる権利を差別なく享受する平等な権利

  • ジェンダーに基づく差別の歴史的ルーツ、表れ方および変遷と、関連する活動および運動

  • 差別的なジェンダー役割およびジェンダーステレオタイプに関連した社会的・文化的規範、態度および期待の意味合い

  • 複数のかつ交差的な形態の差別へとつながる、他の属性とのジェンダーの相互作用と交差性

  • あらゆる多様性を持つすべての人の、自分自身の身体および生殖機能について自律的かつ十分な情報に基づく決定を行なう権利

  • 良質な教育、生涯学習およびエンパワーメントの機会に対するジェンダー関連の障壁

スキル

  • 日常生活でジェンダーに敏感な(gender-responsive)言葉遣いをすることなども通じ、ジェンダーに基づく有害な態度および偏見を発見し、異議を申し立て、変革するとともに、より肯定的な役割および行動形態をとることができる。

  • 自己の人権を自由にかつ全面的に行使・享受することを制限する思想および構造に異議を申し立てるとともに、多様性と包摂を擁護することができる。

  • 包括的セクシュアリティ教育(セクシュアル/リプロダクティブヘルス&ライツおよび関連のサービスに関する正確な情報)にアクセスすることができる。

  • とくに少女・女性について、少年・男性との平等を基礎として、より幅広い社会的・経済的・文化的・市民的・政治的権利を主張しかつ行使することができる。

  • セクシュアル/リプロダクティブヘルスに関することを含め、十分な情報に基づく決定を行なえる。

  • ジェンダー平等および関連の問題についての会話を、批判的にかつ敬意をもって行なうことができる。

  • オンラインかオフラインかを問わずジェンダーに基づく暴力の影響を受けたときに、支援(心理的・法的・医学的支援を含む)を求め、かつ、子ども・若者にやさしい救済のためのしくみに効果的に関与することができる。

態度

  • ジェンダー不平等および差別的なジェンダー規範(それらの固定化における自分自身の役割を含む)に対処しかつ闘う自信

  • とくに少年・男性について、ポジティブな男性らしさ

  • ジェンダー平等および多様性に対する開かれた姿勢と尊重の念

  • ジェンダーに基づく差別を体験した人々の見方および生きられた経験への共感

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平野裕二
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