教師の声を大切にするために何をすべきか――世界教師デー
先月の話になりますが、毎年10月5日は。ユネスコ(国連教育科学文化機関)、ILO(国際労働機関)、ユニセフ(国連児童基金)およびEI(教育インターナショナル)が共同で取り組む #世界教師デー (World Teachers' Day、世界教員の日)です(世界教師デーについてはユネスコスクール事務局の解説など参照)。今年のテーマは「教師の声を大切に:教育のための新しい社会契約に向けて」(Valuing teacher voices: towards a new social contract for education)でした。
10月5日付で発表された上記4組織の事務局長らによる共同メッセージでは、教員の声を大切にすることの重要性が次のように強調されています(抜粋)。
「教育のための新たな社会契約において教員を創造的知識人および革新的専門職として認知することにより、私たちは、教員の労働権を守り、効果的な教育実践を形成するためにその知見を活用することができます。教育政策の決定において教員の声を優先的に考慮すれば、協働的アプローチを醸成し、社会的変革およびコミュニティの発展の主体として貢献できるよう教員をエンパワーすることにつながります。教員は、参加型民主主義を促進し、また将来の民主的市民を形成するうえで決定的に重要な、学校における対話と関与の文化を醸成するうえで、きわめて重要な役割を有しているのです」
「変革志向の知識人およびコミュニティのリーダーとしての役割を果たせるよう教員のエンパワーメントを図ることにより、私たちは、公共財に奉仕し、教員が働くコミュニティを向上させる、強靭で公平な教育制度を構築することができます。私たちはともに、教育のための新たな社会契約を、その成功にとって不可欠な人々の声を真に大切にし、そのエンパワーメントにつながるような形で創造していくことができるのです」
ユネスコのバックグラウンドペーパー
今年の世界教師デーにあわせて、ユネスコはテーマと同じタイトルのバックグラウンドペーパーも発表しています。
バックグラウンドペーパーでは、教員の声を大切にすることの重要性をさまざまな側面から強調するとともに、教員の声を阻害する課題として、▽折衝や対話の決裂、不一致または欠如、▽コミュニケーションやメッセージの質の低さまたは信頼の欠如、▽特定の集団の教員が適正に代表されていないことなどを挙げるとともに、こうした状況を打開していくのに役立つ要因や実践についても取り上げています。そのうえで、「新たな社会契約を確立するための勧告」を関係各層に向けて行なっていますので(pp.17-19)、以下、その内容を訳出しておきます。深刻な教員不足が問題になっている日本でも、こうした勧告を考慮していくことが必要です。
政府・政策立案者・雇用者を対象とする勧告
相互の情報交換および協議を中心として構築される、教員組合および教員代表との良好な協働関係を確立する。
カリキュラム、教授法、評価手法をめぐる決定または教員が貴重な知見を提供し得るその他の決定を行なう際に、教員のインプットを求める。
教員と学校職員・地方公務員との意思疎通の回路として機能し得る明確な役割および職位を創設する。
とくに村落部・遠隔地および緊急事態下または危機的状況下で働いている教員を包摂する目的で、十分に代表されていない教員の声のニーズおよび課題に関するインプットを求める。
教員がすでに有している権利(集会の権利、組織化する権利、組合を設立しかつ組合に加入する権利および団体交渉を行なう権利を含む)を自由に行使できることを促進する。
教育目標の範囲内の知識、コンピテンスおよび責任の基盤とする教員の行為主体性(agency)および自律を醸成し、かつ学校当局、コミュニティ、学習者および教員間の信頼および尊重の雰囲気を醸成する、ホリスティックかつ包括的な教員政策を策定する。
開かれた透明な折衝および団体交渉のプロセスを通じ、教育、教授、雇用・労働条件との関連における教職のあり方、専門家としての実践、テクノロジーおよび教育変革に関する政策を策定する目的で、政府、教員団体および関連の雇用者団体の社会的対話を制度化する。
教職者および教員養成・研修機関と対話しながら立案・決定される、教員の学びのニーズに関わる基準および教員への支援(CPD〔継続的職能開発〕への公平なアクセスを含む)を発展させる。
新たな教員政策を策定する際、社会的対話のための具体的定め、指針および予算額を含める。
学校指導者を対象とする勧告
学校改善のための計画または教員に影響を与えるその他の決定を立案・実施する際、常態的に教員の関与を得てインプットを求める。
教員に対し、職能開発、連携および研究の機会が含まれるよう、自分自身の職業人としての学びの旅路を発展させる機会を提供する。
授業用資料、教科書または学級リソースを制作・選択するための、また授業手法の適用における、教員の行為主体性を促進する。
教員組合を対象とする勧告
教員が職業実践との関連でリーダーおよびイノベーターとしての役割を果たせるようにするため、調査研究ならびに教育制度および教員養成・研修機関との対話に関与する。
教員からのインプットを収集し、かつ新たな政策、改革および折衝プロセスについて説明する目的で、コミュニケーションのための複数のプラットフォーム(ソーシャルメディアおよびオンラインの選択肢を含む)を発展させる。
組合指導者を対象として、質の高い対話、折衝および団体交渉に関与するための準備を適切に行なえるようにするための研修を実施する。
すべての教員が――ジェンダー、年齢、民族的アイデンティティ等を問わず――代表される体制を確立するとともに、組合の指導者層および代表者構成に教員の声の多様性が反映されるようにするために取り組む。
市民社会を対象とする勧告
教員の声を増幅させるうえで教員が支援または追加の影響力を必要としている可能性のある課題および論点についての理解を深めるため、教員および組合とのパートナーシップを組織する。
教員の声および進行中の社会的対話の取り組みを増幅させるため、地方教育公務員・自治体職員と議論する。
学術・調査研究コミュニティを対象とする勧告
知識を生み出す存在として、調査研究および学術的事業のために教員と提携する。
研究者および有識者(public intellectuals)としての教員の役割の唱道に助力するとともに、大学および調査研究機関の学術活動への教員参加の余地を設ける。
エビデンスに基づく意思決定の参考に供するため、教員の声が教育、児童生徒の学びの成果、教員のやる気、教職の魅力およびその他の政策・実践領域に及ぼす影響についての調査を実施する。
教員、組合代表および教育提供者を含む社会的パートナーが対話および参加型意思決定に関する最新の知識とスキルを持っているようにするため、ワークショップ、講座および刊行物で、教員の声の役割および影響についての能力構築を図る。