見出し画像

国連総会、デジタル環境における子どもの権利に焦点を当てた決議を採択

 国連総会(第78会期)は、2023年12月19日、恒例の子どもの権利に関する決議A/RES/78/187)を無投票で採択しました。今回の決議は、前文で
「締約国は、子どもの主体性(agency)、尊厳および安全ならびに子どもの権利の行使にとってのプライバシーの重要性を含め、デジタル環境との関連で子どもの権利条約を実施するべきであることに留意し、
 とくに子どもの権利条約に掲げられた権利の実現にとっての、子どもたちの生活におけるデジタル環境の重要性を認識し、」
(第9~10段落)
 などと述べられているとおり、デジタル環境における子どもの権利にとくに焦点を当てたものとなっています。

 この決議は国連総会第3委員会が11月16日に採択した決議案を踏まえたもので、その段階で関連のNGOから歓迎の声明が出されていました。

1)5Rights Foundation: World governments commit at UN to implementing children's rights in the digital environment
(世界の政府、デジタル環境における子どもの権利の実施に対するコミットメントを国連で表明)
https://5rightsfoundation.com/in-action/world-governments-commit-at-un-to-implementing-children-s-rights-in-the-digital-environment.html

2)Child Rights Connect: UN General Assembly groundbreaking resolution with 193 States committed to implementing children's rights in the digital environment!
(国連総会の画期的な決議で、〔国連加盟国である〕193か国がデジタル環境における子どもの権利の実施に対するコミットメントを表明!)
https://childrightsconnect.org/un-general-assembly-groundbreaking-resolution-with-193-states-committed-to-implementing-childrens-rights-in-the-digital-environment/

 いずれの声明でも、この決議が、デジタル環境との関連における子どもの権利についての国連・子どもの権利委員会の一般的意見25号(2021年)に掲げられた諸要件の実施に対する顕著な政治的賛同の表明であることを歓迎するとともに、とくに次の4点を強調しています(主として 2)に依拠しつつ、1)を踏まえて一部文言を修正するとともに、便宜的に番号を付した)。主な関連パラグラフの日本語訳も付しておきます(太字はすべて平野による)。

1)国際人権法上の義務にしたがって自国の国内法を見直す国の責任を明確にしたこと。とくに、各国が企業のデューディリジェンス〔相当の注意・配慮〕についての規制を設け、かつ企業がその責任を履行することを確保する必要性を強調していること。

4.各国に対し、デジタル環境が子どもの権利条約およびその選択議定書ならびに他の関連の人権文書に掲げられた権利と両立することを確保するため、自国の国際人権法上の義務およびコミットメントにのっとって国内法を見直し、採択しかつ更新するよう、促す。

2)データ保護およびプライバシーに関する強力な国内法を求めるとともに、民間セクターには子どもの権利を尊重する責任があり、企業は商業的利益を子どもの最善の利益よりも優先させるべきではないと強調していること。

43.各国に対し、商業的場面および教育・ケアの場面を適正に考慮しながら子どもの不法なデジタル監視を禁止するとともに、関連国際人権文書に基づいて各国が負う義務を遵守した制限以外は課されない技術的解決策を発展させることなどの手段により、セキュリティの確保された通信およびプライバシーに対する恣意的または不法な干渉からの個人ユーザーの保護を可能にすることに向けて取り組むよう、促す。

44.各国に対し、データ保護およびプライバシーに関する国内法が国際人権法上の義務にしたがったものであり、かつ、法執行機関、社会福祉機関および司法機関による、子どもの権利侵害と闘うための効果的かつ適切な調査および訴追を可能にしていることを確保するとともに、民間の関係者(とくにデジタル産業関係者)による、これらの努力を強化するための活動および法律の遵守の重要性に関する意識を高めるよう、求める。

45.各国に対し、子どもを対象とする搾取的なマーケティング慣行に対処し、かつデジタル環境における子どもの権利を操作しまたはそれに干渉する慣行を特定し、定義しかつ禁止する基準を採択しながら、子どもの個人情報の収集、処理および共有に関する適切な措置をとるよう促す。そのための手段としては、企業が子どもの利益よりも商業的利益を優先させるための技術を利用して子どもを標的としないようにさせるための、データ保護、プライバシー・バイ・デザイン、セーフティ・バイ・デザインその他の規制措置を要求すること、企業の操業、製品またはサービスに直接関連する人権面の悪影響を防止しまたは緩和しようとする十分な安全確保措置を設けること、ならびに、子どもによる必須デジタルサービス/インフラへのアクセスおよびその利用が、子どもが意図する目的のために利用可能なもっともプライバシーへの侵襲度の少ない手段に基づいて行なわれるようにするための措置をとることなどが挙げられる。

46.各国および民間の主体に対し、マーケティングおよび商業的通信に子どもがさらされることを少なくすることなどの手段によって子どもが経済的搾取から保護されるようにするとともに、情報フィルタリング、プロファイリング、マーケティングおよび意思決定の自動化プロセスの利用によって、デジタル環境で意見を形成・表明する子どもの能力の剥奪、操作またはそのような能力への干渉が生じないことを確保するよう、求める。

47.各国に対し、子どもたちに、オンラインでの自分のデータの収集および利用に関して、子どもにやさしく、容易にアクセスでき、かつ年齢にふさわしいやり方で情報が提供されるようにするための措置をとるよう促すとともに、テクノロジー部門の民間アクターに対し、子どもの特有のニーズを考慮しながら、バイ・デザインによる安全、プライバシーおよびセキュリティについての最高度の国際基準およびベストプラクティスを遵守するよう、奨励する。

48.各国に対し、すべての子どもが年齢にふさわしい情報および自己の権利に関する情報ならびに質の高いオンラインリソース(デジタルスキル/リテラシーに関するものを含む)に平等かつ効果的にアクセスできるようにするとともに、オンラインのリスクおよび危害ならびにソーシャルメディアにおけるプライバシーへの恣意的または不法な干渉から子どもを保護し、かつ暴力的・性的コンテンツ、ギャンブル、搾取および虐待ならびに生命を危うくする活動の促進または扇動に子どもがさらされることを防止しながら、すべてのデジタル政策および官民の投資において子どものニースを主流化するための努力を行なうよう、奨励する。

3)民間セクターの関係者に対し、自社の製品・サービスの設計およびコンセプト立案から生じる可能性のあるリスクを防止するとともに、自社の行動が子どもの権利に有害な影響を及ぼさないようにすることを要求していること。

35.各国に対し、すべての子どもにとっての開かれた、安全な、安定した、アクセシブルかつ負担可能なデジタルテクノロジー環境を促進する目的で、デジタル環境に関連する子どもの権利の享受に影響を及ぼす企業に、デジタルテクノロジー(人工知能を含む)のコンセプト立案、設計、開発、展開、評価および規制において人権が尊重されることを確保するよう促し、かつ、これらの企業が、企業の操業、製品またはサービスに直接関連する人権への悪影響を防止しまたは緩和しようとする十分な安全確保措置および監督の対象とされることを確保するよう、奨励する。また、各国に対し、子どもの権利、安全およびウェルビーイングを尊重する自社の責任に企業が対処することを確保するための法令または政策の採択を検討するよう、求める。

36.また、各国に対し、デジタル環境に関連する子どもの権利の享受に影響を及ぼす企業に、自社の設計ならびに操業、製品またはサービスに直接関連する子どもの権利への悪影響を防止しまたは緩和することを促すとともに、規制のための枠組みの確立および実施を図り、かつ、自社のテクノロジー製品・サービスの設計、エンジニアリング、開発、運用、頒布およびマーケティングに関連した最高水準の倫理、プライバシーおよび安全を遵守しかつ子どもの権利を尊重・保護・充足する業界規範およびサービス規約を促進することも、奨励する。

37.各国に対し、デジタルテクノロジー産業その他の関連な産業に対して子どもの権利の尊重を要求し、かつ、子どもの権利の保護のための基準の策定に関する規制庁(データプライバシー実務のモニタリング、違反・人権侵害の調査および個人・組織からの通報の受理ならびに適切な救済措置の提供のための権限および資源を有する機関)の責任を強化する明確かつ予測可能な環境を、法的・規制的措置なども通じて確保することをあらためて求める。

4)子どもの権利に対する潜在的リスクを緩和するため、バイ・デザイン/デフォルトによる最高水準のプライバシー、安全およびセキュリティを遵守する必要性とあわせて、子どもの権利デューディリジェンスおよび子どもの権利影響評価を強調していること。

5.各国に対し、関連の法律、基準および政策が子どもの権利に及ぼす影響を評価するための子どもの権利影響評価の決定的重要性を強化することによって、デジタル環境における子どもの権利関連の意思決定に際して子どもの最善の利益が第一次的に考慮されることを確保することも促すとともに、企業による、デジタル環境における子どもの権利影響評価および安全確保原則の実施を奨励する。

39.各国に対し、デジタル環境で操業する企業体に、緩和措置(子どもの身体的・精神的健康の保護およびデジタル環境が子どもに及ぼす影響の緩和のための措置を含む)の指針とする目的で子どもの権利デューディリジェンスおよび子どもの権利影響評価を実施すること、ならびに、この点に関わってジェンダーおよび脆弱性の問題を考慮することおよび自社の製品・サービスが子どもにもたらすいかなるリスクも特定し、防止しかつ緩和することを奨励するよう求めるとともに、この点に関わって、「ビジネスと人権に関する指導原則:国際連合『保護、尊重及び救済』枠組実施のために」に留意する。

40.デジタルテクノロジー(人工知能を含む)の利用が子どものウェルビーイングおよび発達に及ぼす影響を理解し、かつ、デジタル環境における子どもの権利の充足を独立の立場からモニタリングすることへの支援を奨励する目的で、国および企業によるいっそうの透明性を奨励する。

その他の論点

 もちろん、上記の声明でとくにクローズアップされていないさまざまな論点も取り上げられています。

 そのひとつはデジタルディバイドの問題で、とくに、社会権規約(経済的、社会的および文化的権利に関する国際規約)15条1項(b)の規定を踏まえて「科学の進歩およびその利用による利益を享受する子どもの権利を促進しかつ保護することの重要性」が強調されていること(パラ9)が目を引きます。この権利は子どもの権利条約には明記されていませんが、子どもにも当然に保障されるべきものです。デジタルディバイドを解消する必要性については、これに続くパラグラフ(パラ10~11)でも取り上げられています。教育との関連でも、デジタル化が不十分な国が依然として少なくないことに対し、児童生徒・教員・養育者にデジタルリテラシー/スキルが欠けていることとあわせて懸念が表明され(パラ21)、インフラ整備などが要請されています(パラ31)。

 子どもの市民的自由の行使の保障、子ども参加の促進などの重要性が指摘されていることも見過ごせません。たとえば、「子どもたちがデジタル環境で自己の人権(表現、結社および平和的集会の自由に対する人権を含む)を行使することに対し、法律で認められた、必要かつ比例的なもの以外のいかなる制限も課されないようにする」こと(パラ14)や、自由に自己表現する権利や自己に影響を与えるすべての手続で意見を聴かれる機会を提供される権利などをデジタル環境との関連でも尊重・保護・充足すること(パラ19)などが促されています。

 子ども参加についてはたとえば次のような言及もあります。「子どもが自己のコミュニティで変革の主体となるための機会」の必要性が認識されているのも興味深い点です。

18.さらに、各国に対し、子ども(女子および思春期の少女、障害のある子ども、国民的または民族的・宗教的・言語的マイノリティに属する子ども、先住民族の子どもおよび脆弱な状況にある子どもならびに支援等を提供することがもっとも困難な状況にある子どもを含む)が、自己に影響を与えるすべての事柄に関して、その発達しつつある能力にしたがって意思決定プロセスに包摂的かつ意味のある形で参加するための機会、および、子どもの団体および子ども主導の取り組みの関与を得ることの重要性を考慮しながら、子どもが自己のコミュニティで変革の主体となるための機会を創設するよう、促す。そのための手段として、協議のための包摂的なしくみを創設すること、ならびに、政策措置が、子どもの意見および子どもの最善の利益を衡量する、参加型のかつエビデンスに基づいた意思決定プロセスに基づいて策定されるようにすることが求められる。

 オンラインにおける暴力その他の危害も重要な課題として随所で取り上げられており、各国に対し、「オンラインの危害、とくに子どもの性的搾取・虐待からの子どもの保護におけるオンラインサービスプロバイダの役割および責任を強調する」ことが促されている(パラ34)ほか、この点に関わる教育の重要性も指摘されています(パラ30)。次のとおり、子どもの保護および暴力の防止と並んで子どものエンパワーメントの必要性も認識されている点に注意が必要です。

41.各国に対し、子どもの保護・エンパワーメントおよび子どもに対する情報提供ならびにテクノロジーの利用を通じて発生しまたは増幅される暴力の防止に関する政策の立案および実施におけるマルチステークホルダー間の協力を促進する目的で、子どもたち自身および適切なときはその親または法定保護者と協議しながら、政府、市民社会および業界(とくにデジタルテクノロジー部門)の代表の参加を得て、マルチステークホルダー・プラットフォームを構築しかつ強化するよう、奨励する。

 日本では、子どもの個人情報保護やプライバシーに関する認識が依然として十分ではなく、子どものエンパワーメントの視点も希薄な傾向がありますので、今回の国連総会決議も踏まえ、子どもの権利の視点から関連の法律・政策・実務を見直していくことが必要でしょう。

いいなと思ったら応援しよう!

平野裕二
noteやホームページでの翻訳は、ほぼすべてボランティアでやっています。有用だと感じていただけたら、お気持ちで結構ですのでサポートしていただけると、嬉しく思います。