国連・子どもの権利委員会、抗議デモに参加する子ども/抗議デモの影響を受ける子どもの権利を保護するようペルーに要求
以前の投稿で紹介したように、国連・子どもの権利委員会は、10月17日付の声明で、抗議デモの弾圧を背景とする子どもの権利侵害をやめるようイランに要求しました。ユニセフ(国連児童基金)も、10月10日にキャサリン・ラッセル事務局長が子どもの保護を求める声明を発表したほか、11月27日にも、子どもに対するあらゆる形態の暴力と虐待に終止符を打つよう求める声明を発表しています。
南米のペルーでも、前大統領のペドロ・カスティジョ氏が今月7日に議会によって罷免され、同日、反逆罪容疑で逮捕されたことへの抗議が全土に広がっています。治安部隊との衝突などですでにデモ参加者の20人以上が死亡し、500人以上の負傷者が出ているとのことです(たとえば東京新聞〈混乱が収まらないペルーでデモ参加者20人以上死亡 前大統領罷免 新大統領も2閣僚辞任、外交摩擦で窮地〉〔12月18日配信〕など参照)。14日には政府が全土に30日間の緊急事態宣言を発令しました。主要な道路が封鎖されたことの影響で、手術を受けるために搬送されていた子どもが病院にたどり着けずに亡くなる事案も起きたと報道されています(テレ朝ニュース〈ペルーのデモで14人死亡 前大統領の勾留18カ月延長〉12月16日配信)。
デモに参加した子どもの死傷事件も発生しており、国連・子どもの権利委員会は、12月16日、事態を憂慮する声明を発表してペルー政府に対応を促しました(プレスリリースも参照)。
★ PERU: UN Committee urges guaranteeing children's right to expression and investigating violence that has led to the deaths and injuries of children during protests
https://www.ohchr.org/en/statements/2022/12/peru-el-comite-de-la-onu-insta-garantizar-el-derecho-de-expresion-de-ninos-ninas
委員会は、「同国における制度的危機の結果として生じ、子どもと青少年にも影響を及ぼしている出来事に関して受領した情報」をめぐり、とくに次の点に関して「深い懸念」を表明しています。
● 実力行使の結果として、デモの際に複数の子どもが死亡し、また1人の少女が目を負傷したこと。
● 示威行動に参加した子どもたちが恣意的に拘禁され、報告によれば法的援助も提供されていないとされること。
● 抗議の際、子どもたちが保護されている施設に警察の対抗措置が向けられたと報告されていること。
● 高速道路における道路封鎖および暴力行為により、州際交通が途絶させられてること。このような状況によってどのぐらいの子どもが影響を受けるかは未知数であり、子どもは、食料・保健・教育をはじめとする一部の経済的・社会的権利にアクセスできなくなる可能性にさらされている。
● イカ、クスコ、リマ、ラ・リベルタ、アレキパおよびアプリマックの各州で学校の授業が停止されたほか、サービス停止により子どもが保健サービスにアクセスできなくなるおそれが生じていること。
このような状況を踏まえ、委員会はペルーに対して次の措置をとるよう促しました。
1.単独でまたは付添いとともにデモに参加する子どもの、表現、結社および平和的集会の自由に対する権利を尊重・確保すること。
2.とくに参加者に子どもが含まれる平和的集会の場合に、いかなる実力行使も、法律適合性、必要性、比例性および予防措置に関する基本的原則を遵守して行なわれることを確保すること。
3.2人の子どもの死亡および子どもたちの負傷に関して徹底的な、迅速なかつ独立の立場からの調査を実施すること。
4.児童生徒の心身の安全が脅かされる現実的リスクが存在する紛争激化地域を除いて教育サービスが中断されないことを確保するとともに、たとえばリモート教育を通じて教育を継続できるようにするための道を模索すること。
5.子どもを対象とする基礎的保健サービスを、とくに緊急介入に関しておよびすでに診察または介入の予定が入っている子どもに対して保障すること。
6.封鎖のために路上で立ち往生している人々を優先対象としながら、速やかに人道援助を提供すること。
7.苦情申立てのためのしくみを強化し、子どもにやさしく、かつ、公的デモの際にあらゆる形態の暴力、過度な実力行使または恣意的拘禁の被害を受けた子どもにとってアクセスしやすいものにすること。
8.事実関係の調査を行ない、子どもの権利を侵害する行為に関与した官公吏に関する責任の認定および制裁の決定に努めること。
そのうえで、委員会は、引き続き状況の緊密なモニタリングおよびフォローアップを行なっていく意向を表明するとともに、ペルーに対し、暴力をやめ、速やかに対話を開始し、もってあらゆる状況において子どもの権利を保護するように求めています。
ちょうど3年前(2019年12月18日)にも、ユニセフのヘンリエッタ・フォア事務局長(当時)が声明を発表し、
〈平和的な抗議活動を含む、平和的な集会および表現の自由に対する子どもの権利は、世界で最も広く批准された人権条約である「子どもの権利条約」に定められています。子どもたちがこの権利を安全かつ平和的に行使できるようにすることは、加盟国の義務です〉
と強調しました。しかし、世界の多くの国で市民的空間(civic space)の縮小が懸念されるなか、事態はますます悪化しているように思われます。
たとえばミャンマーに関して、国連・子どもの権利委員会は昨年(2021年)7月16日付に発表した声明(英語)で、約1,000人の子どもが警察・刑事施設・軍収容所などで恣意的に拘禁されていることについて強い懸念を表明しました(Facebookへの投稿も参照)。その後も事態は改善しておらず、委員会は今年6月29日にあらためて声明(英語)を発表し、
・恣意的拘禁の対象とされる子どもが1,400人以上存在すること
・2022年5月27日現在、少なくとも274人の子どもの政治犯が軍部による拘禁下にあること
・軍部が人権擁護活動家に圧力をかける目的で活動家らの子ども(少なくとも61人)を人質にとっていること
・ロヒンギャの子どもが出入国管理関連の罪を犯したとして逮捕・拘禁されていること
・拘禁下の子どもに対し、性的虐待を含む拷問および不当な取扱いが行なわれていること(ミャンマーの人権状況に関する国連特別報告者を務めるトーマス・アンドリュース氏の報告によれば、被害を受けた子どもは142人にのぼる)
などを指摘して国際社会に対応を促しています。
また、アムネスティ・インターナショナルが11月18日に発表したところによれば、タイでは、2020年以降、18歳未満のデモ参加者283人(推定)がさまざまな容疑で訴追され、このうち200件近くが現在も係争中とのことです。
平和的に抗議する権利を含む子どもたちの市民的権利を擁護するため、国際社会が積極的に声をあげていくことが必要です。
【追記】(2023年5月27日)
ペルーの状況に関するアムネスティ・インターナショナルの報告書も発表されました(5月25日)。
-CNN:ペルー治安部隊がデモ参加者や通行人を「処刑」、若者や子ども犠牲に アムネスティ報告
https://www.cnn.co.jp/world/35204369.html
-Amnesty International: Peru: Senior officials should face investigation over widespread lethal attacks by security forces
https://www.amnesty.org/en/latest/news/2023/05/peru-senior-officials-should-face-investigation/