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国連・自由権規約委員会、不同意性交の被害を受けた3人の少女に対する人権侵害についてエクアドルとニカラグアの規約違反を認定
国連・自由権規約委員会は、不同意性交の被害を受けた3人の少女が中絶サービスを受けられなかったことなどをめぐり、エクアドルとニカラグアの規約違反を認定しました(1月20日発表)。
★ OHCHR - Ecuador and Nicaragua: Forced pregnancy and motherhood violated rights of girl victims of rape, UN Human Rights Committee finds
(エクアドルおよびニカラグア:妊娠および母になることの強制は不同意性交の被害を受けた少女の権利侵害であると、国連・自由権規約委員会が認定)
https://www.ohchr.org/en/press-releases/2025/01/ecuador-and-nicaragua-forced-pregnancy-and-motherhood-violated-rights-girl
今回決定が出されたのは次の3件です(申立人の名前はいずれも仮名)。いずれの事案でも、規約6条(生命に対する権利)および7条(拷問または残虐な、非人道的なもしくは品位を傷つける取扱いもしくは処罰の禁止)の違反があったと判断されました。
エクアドル:Norma v Ecuador(CCPR/C/142/D/3628/2019)
ニカラグア:Susana v Nicaragua(CCPR/C/142/D/3626/2019)
ニカラグア:Lucia v Nicaragua(CCPR/C/142/D/3627/2019)
以下、前掲プレスリリースに基づいて概要を紹介します。
申立人ら(いずれも仮名)の状況
ノルマ(Norma、エクアドル)は13歳のとき、父親による近親姦の結果として妊娠した(父親は過去に他の娘に対しても不同意性交を行なっており、当局に通報されていた)。エクアドルでは、妊婦の生命・健康を保護するための治療的中絶は法的に利用可能であるものの、実際にアクセスすることはほぼ不可能である。ノルマは妊娠の継続と出産を余儀なくされた。ノルマは子どもを自ら育てるのではなく家族に育ててほしいという明確な希望を表明したが、養子縁組の選択肢について誤った情報を伝えられて貧困下での子育てを余儀なくされ、教育にもアクセスできなかった。
スサーナ(Susana、ニカラグア)は1歳のころ産みの母親から遺棄され、祖父母と暮らしていた。6歳のときから祖父に性的虐待を受けるようになり、12歳で妊娠した。祖母は孫のために当局から保護と支援を得ようと試みたが、うまくいかなかった。ニカラグアでは中絶は全面的に禁止・犯罪化されている。スサーナは出産の翌日に刑事告訴を行ない、虐待を行なう祖父からの保護を求めた。逮捕状は発付されたものの、祖父が当該地域を支配している武装集団の一員であることから、スサーナは、逮捕状を執行することもその他の安全保証を提供することもできない旨、当局から告げられた。スサーナには子どもを手元に置いておくこと以外の選択肢はなく、子どもの養育は現在スサーナの祖母が行なっている。
ルシーア(Lucia、ニカラグア)は13歳のときから地域の司祭に不同意性交を強いられるようになり、緊急避妊薬を飲むことを強制された。数か月に及ぶ性的虐待の末、ルシーアは妊娠した。両親の支援も得て司祭を刑事告訴したものの、司祭の社会的・宗教的立場を理由に告訴を取り下げるよう脅迫された。ルシーアと家族は屈しなかったが、当局は司祭に対して何の行動もとらなかった。スサーナと同様、ルシーアも中絶にアクセスすることはできず、出産を余儀なくされた。分娩の際には医療関係者から心理的・身体的虐待の対象とされ、二次被害が生じた。ルシーアの子どもは現在、彼女の両親によって育てられている。
自由権規約委員会の判断
エクアドルとニカラグアのいずれもこれらの不同意性交事件を捜査せず、3人の加害者を司直に委ねるための行動をとらなかったことから、自由権規約委員会は、「暴力の被害を受けた子どもの場合にいっそうの保護を提供する義務に関わる締約国の不作為」があったと判断し、両国について自由権規約6条(生命に対する権利)の違反があったと認定しました。この点につき、エレン・ティグルージャ(Hélène TIGROUDJA)委員は、自由権規約6条にいう生命に対する権利を制限的に解釈すれば適正な理解は不可能であるという委員会の見解について、「生命に対する権利」についての委員会の一般的意見36号(2019年、日本弁護士連合会仮訳PDF)を想起しつつ、前掲プレスリリースで次のようにコメントしています。
「生命に対する権利とは、尊厳のある生を享受する権利も指すものです。締約国は、生命に対する権利を脅かしまたは尊厳のある生に対する権利の享受を妨げる可能性のある社会的条件に対処するため、あらゆる措置をとるよう求められます」
「これらのおぞましい事案では、不作為による侵害には、性および生殖に関わる健康に対するこれらの少女の権利の全面的実現を達成するために必要な措置をとらなかったことや、関連の法律を制定・執行しなかったことも含まれます」
委員会はまた、両国とも自由権規約7条(拷問または残虐な、非人道的なもしくは品位を傷つける取扱いもしくは処罰の禁止)の違反も認定しました。ティグルージャ委員のコメントは次にとおりです。
「不同意性交の被害者である少女に対して望まない妊娠に耐えるよう強いることは、単なる選択の否定に留まりません。それは尊厳のある生の侵害であり、拷問に相当する行為であり、もっとも脆弱な状況に置かれた人々の一部を保護しないことです」
「3人の少女はいずれも、性的虐待によって引き起こされた高い水準の苦悩、とくにこの若い年齢での望まない妊娠、コミュニティにおけるスティグマ、そして不同意性交から生まれた子どもを貧困状況下で育てる情緒的・金銭的負担に苦しみました。委員会にとって、強制妊娠は、母になることの強制につながるものであり、3人の若いサバイバーが苦しんだ構造的・交差的差別に根ざすものです」
そのうえで委員会は、▽性暴力と闘うこと、▽性暴力および妊娠を発見するために必要なセクシュアル/リプロダクティブヘルス教育を少女たちに提供すること、▽性暴力の被害を受けたすべての少女が中絶サービスに効果的にアクセスできるようにすることの絶対的必要性を強調しました。また、妊娠および母になることの強制が3人の少女のライフプランに及ぼした損害を是正するための措置をとること、不同意性交から生まれた子どもに教育および心理的ケアへのアクセスを保障することなども、両国に対して求めています。
〈国連・子どもの権利委員会、不同意性交により妊娠した少女に中絶へのアクセスを保障せず、刑事訴追したことについてペルーの条約違反を認定〉で記したとおり、不同意性交の結果である妊娠についても中絶を(実質的に)認めないことについてはペルーも繰り返し規約・条約違反を認定されてきました。南米では同様の法制度を採用している国が少なくありませんが、速やかな改善が求められます。
【追記】(2025年2月19日)
グアテマラの状況についても、ヒューマン・ライツ・ウォッチから報告書が発表されました(2月18日)。
- Guatemala: Failed Response to Sexual Violence Against Girls
https://www.hrw.org/news/2025/02/18/guatemala-failed-response-sexual-violence-against-girls
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