ジェンダーステレオタイプ
25.委員会は、第5次男女共同参画基本計画が、無意識のジェンダーバイアスに関する意識の促進および規範への異議申立てによってジェンダーステレオタイプを解消する必要性について取り上げていることに、評価の意とともに留意する。しかしながら、委員会は以下のことについて依然として懸念するものである。
(a)家庭および社会における女性と男性の役割および責任(教育、雇用および公的生活におけるものを含む)についての家父長制的な態度および抜きがたいジェンダーステレオタイプが根強く残っていること。
(b)国会、テレビ、インターネットおよびソーシャルメディアにおけるものを含むジェンダーステレオタイプ化、性差別的メッセージおよび女性と少女の描写。
(c)ジェンダーステレオタイプが女性に対する性暴力およびジェンダーに基づく暴力の根本的原因であり続けており、かつ、ポルノグラフィー、ビデオゲームおよび漫画等のアニメ作品が女性と少女に対する性暴力およびジェンダーに基づく暴力を促進する可能性があること。
(d)アイヌ、被差別部落出身者および在日コリアンである女性と少女のような民族的マイノリティに対するジェンダーステレオタイプが根強く残っていること。
26.有害慣行に関する女性差別撤廃委員会と子どもの権利委員会の改訂合同一般的勧告/一般的意見(一般的勧告31号/一般的意見18号、2019年)および委員会の前回の勧告(CEDAW/C/JPN/CO/7-8、パラ21)を想起し、委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
(a)家庭および社会における女性と男性の役割および責任についての家父長制的態度および差別的ステレオタイプを解消するため、社会のあらゆるレベルにおける女性、男性、少女および少年を対象とする積極的かつ持続的な措置をともなった包括的戦略を採択し、当該戦略に対して十分な資源を配分し、かつ、その実施のモニタリングおよび評価を確保すること。
(b)公務員およびメディアに対し、家庭および社会における女性と男性の役割および責任についてのジェンダーステレオタイプに(ジェンダーに敏感な言葉遣い等も通じて)対処していけるようにするための能力構築の機会を提供するとともに、メディアにおける、発展の主体的推進力としての女性の肯定的描写を促進すること。
(c)差別的なジェンダーステレオタイプを悪化させ、かつ女性と少女に対する性暴力を強化するポルノグラフィー表現物、ビデオゲームおよびアニメ作品の製造および頒布に対処するため、既存の法的措置およびモニタリングプログラムを効果的に実施すること。
(d)アイヌ、被差別部落出身者および在日コリアンである女性と少女のような民族的マイノリティに対するジェンダーステレオタイプへの対処が締約国のあらゆる部門全体で効果的になされることを確保するため、国家的政策の起草および包括的かつ持続可能な措置の実施を図ること。
教育
37.委員会は、第5次基本計画でSTEM分野における女性のキャリア選択の推進について述べられていること、および、大学入学者選抜実施要項が改訂され、大学がジェンダーに基づく差別的な選抜基準の適用を禁じられたことに、評価の意とともに留意する。しかしながら、委員会は以下のことに懸念をもって留意するものである。
(a)トップランクの大学で、また科学・技術・工学・数学(STEM)およびICT〔情報通信技術〕のような伝統的に男性優位の専攻分野で、大きなジェンダーギャップが存在すること。
(b)教育機関の上級管理職および意思決定を行なう地位における女性の参加度が低く、かつ女性がより低賃金の地位(非常勤講師を含む)に集中していること。また、上級職(とくに、校長や大学理事のような幹部職)における女性教員の割合が低いこと。
(c)性教育で使用される言葉およびその内容に関して一部の政治家および公務員による検閲が行なわれているという報告があり、かつ性教育の期間が不十分であること。
(d)歴史問題をどのように反映させるかについて融通をきかせることができる出版社によって、教科書における「慰安婦」への言及が削除されたとの報告があること。
(e)長時間労働、残業代の不支給、睡眠不足および仕事を自宅に持ち帰らなければならないことを含む困難な教育条件が存在すること。このことは、女性教員に対し、長期の病気休暇および消耗、または追加的な家事責任を理由とする早期退職を含む特有の影響を及ぼしている。
(f)教育アプローチおよび教育機会との関連で、別学の教育機関と共学の教育機関との間にジェンダー格差が生じている可能性があること。このことは、女性にとってのキャリア上の結果に影響を及ぼす可能性があり、また他の分野における男女分離の固定化および正当化につながる。
38.教育に対する少女および女性の権利についての委員会の一般的勧告36号(2017年)に照らし、委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
(a)ジェンダーに敏感な専攻・キャリア相談なども通じ、トップランクの大学への女性のアクセス、ならびに、科学・技術・工学・数学(STEM)およびICTのような、伝統的に少女と女性が少なかった進路選択およびキャリアパスを促進すること。
(b)教育機関の上級管理職および意思決定を行なう地位における女性の代表性を高め、学術研究機関における女性のキャリア向上を促進し、かつ正規教員として雇用される女性の人数を増やすため、暫定的な特別措置を含む焦点化された措置をとること。
(c)年齢にふさわしい包括的セクシュアリティ教育(若年妊娠および性感染症を防止するための責任ある性行動に関する教育を含む)が、正規の授業として、かつその内容および使用される言葉に関して政治家および公務員からの干渉を受けることなく、適切に学校カリキュラムに統合されることを確保すること。
(d)歴史的事実が生徒および一般公衆に対して客観的に提示されるよう、教科書の出版に関する国の指針で、「慰安婦」を含む女性が生きた歴史的経験が教科書に十分に反映されるようにすることを求めるとともに、すべての教育機関における教科書の正確性および標準化を確保するため、出版社がこの指針をどの程度尊重しているかをモニタリングすること。
(e)時短および調整政策を通じたワークライフバランスを優先させながら、ジェンダーに配慮した教員の労働条件を確保するための措置を強化しかつ確実に実施すること。
(f)すべての学校種を通じて教育アプローチを標準化する包括的改革を実行するとともに、ジェンダー包摂的なカリキュラムおよびキャリア指導を促進し、もって女性に対する公平なキャリア上の結果の確保およびより幅広い社会における男女分離の抑制を図ること。
婚姻および家族関係
51.委員会は、以下のことに懸念をもって留意する。
(a)民法の規定が遵守されていないために、資産管理、銀行口座および権利書へのアクセスならびに離婚手続における平等な財産分与に関して女性に困難が生じていること。
(b)現行の協議離婚制度のもと、家庭裁判所が、父親が虐待を行なっている事案および保護命令が出されるべき場合でさえ子どもの面会交流権を優先させることが多いため、子どもと被害親双方の安全が損なわれる可能性があるという報告があること。
(c)子どもの養育に関するシングルマザーの支援を目的とする政策において、シングルマザーが直面している社会経済的課題への対応が十分ではなく、かつ、ひとり親による子育てに関して性差別的なステレオタイプが根強く残っていること。
(d)同性婚および事実上の結合関係が法的に承認されておらず、かつ、同性カップルによる子どもの養子縁組が禁止されていること。
52.婚姻、家族関係およびその解消の経済的影響に関する委員会の一般的勧告29号(2013年)に照らし、委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
(a)離婚手続における平等な財産分与を可能とするため、民法の規定の遵守を確保するための措置をとること。
(b)離婚を求める女性に負担可能な料金による法的助言を提供するとともに、子どもの監護および面会交流権について決定する際、裁判官および児童福祉職員がジェンダーに基づく暴力について十分に考慮することを確保するため、これらの専門家を対象とする能力構築を強化しかつ拡大すること。
(c)負担可能な料金で利用できる十分な数の保育施設および柔軟な就労形態の提供を通じて職業生活と家庭生活の調和を推進するなどの手段により、シングルマザーを支援するための焦点化された措置をとること。
(d)同性間の結合関係、婚姻および国際私法に基づき登録された結合関係を承認するとともに、同性婚または事実上の結合関係のもとにある女性による子どもの養子縁組を認めること。