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英国政府、国連・子どもの権利委員会に子どもたちとの協議の結果を報告

子ども参加をめぐる国際動向:こども家庭庁設立準備室の検討委員会に提出された資料〉を書いていたとき、こども政策決定過程におけるこどもの意見反映プロセスの在り方に関する検討委員会の第2回会合(2022年9月16日)の議事要旨(PDF)を流し見していたら、英国の子ども・若者担当大臣が「世界子どもの日」にあたって子どもたちへのメッセージを発表および英教育省、国連・子どもの権利条約に関する子どもの意識調査を開始(2021年11月28日・30日投稿)で紹介した件についてのやりとりが目にとまりました。

・イギリスについての報告で、国連こどもの権利委員会に対して政府報告書を作成する段階でのこどもの意見聴取という事例があったが、総括所見が出た後の受け皿としても機能しているのか。また、その他の国でも同様に国連こどもの権利委員会の審査の時点でこどもの意見表明・参加の事例はあるのか。
⇒ イギリスのこの取組について、詳細は確認できていない。今年政府報告の提出があったと思うが、現時点ではこども政策担当大臣からこどもたちに対する「声を聴かせてくれてありがとう」というレターが公表されている程度。報告書を取りまとめる段階でこどもの参加があったのは確かだが、総括所見はこれから先の話と認識している。網羅的に把握しているわけではないが、こどもの権利委員会では、各国の審査において、あらゆる段階でのこどもの参加を重視している。国によっては審査の場でこどもが話したり、総括所見のこども版を作成するにあたってこどもが参加したりと、いろいろな段階で参加している事例があるということは聞いている。(日本ユニセフ協会)

 昨年11月の投稿(前掲)で取り上げて以降の動きをフォローしていなかったので、ここで紹介しておきます。

 その後、英国政府は2022年6月15日に国連・子どもの権利委員会に対する第6回・第7回統合定期報告書を提出しました。教育省のウィル・クィンス(Will Quince)政務次官(子ども・家族担当大臣、当時)はその翌日(6月16日)に子ども・若者向けの書簡(PDF)を発表し、提出の報告書をしています(日本ユニセフ協会の提出資料(PDF、p.8)で「お礼と報告のレター」として言及されているもの)。短いものなので訳出しておきます(太字は原文で下線が引かれている箇所)。

英国全域の子ども・若者のみなさん

 子ども・家族担当大臣です。英国政府が昨日――6月15日――、私たちが子ども・若者としてのみなさんの権利をどのように保護・促進しているかについての報告書を提出したことを、お伝えしたいと思います。すべての子どもを擁護するという仕事に政府内で携わってきたことは、私の誇りです。みなさんの何人かと会って話ができたのは楽しい経験でしたし、最近の困難な時期を通じてみなさんが示してきた力と粘り強さには感銘を受けています。

 みなさんのような若者が、民族、ジェンダー、宗教、能力その他のあらゆる属性にかかわらず、生活のすべての側面で守られることは、とても大切です。英国政府が国連〔子どもの権利〕条約――子ども・若者としてのみなさんの権利を私たちがきちんと保護・促進していくようにするための国際的取り決め――に調印してから、30年以上が経ちます。私たちがこれにどのように取り組んでいるかを示すため、私たちは5年ごとに国連に報告書を送付します。今年の報告書では、学校・家庭・病院・オンラインで、そしてパンデミック中に、みなさんの権利と経験を保護するために用意された支援の概要を説明しました。

 みなさんはこの国の未来であり、すべての子ども・若者に発言権があること、そしてその発言に耳を傾けられることが大切です。この1年間、報告書のための調査に回答したりフォーカスグループに参加したりすることによって、意見を聴かれ、経験をシェアする機会を活用してくれたすべてのみなさんに、お礼を申し上げたいと思います。

 みなさんに自分の権利について、そしてその保護・促進のために政府が何をしているのかをきちんと知ってもらうために、教育省では、報告書で取り上げられているいくつかの主なトピックについてみなさんにわかってもらえるようにするための短い動画を発表しました。報告書の概要をイラスト入りで説明した資料もありますので、楽しんでいただければと思います。動画や資料はソーシャルメディア・プラットフォームやみなさんの学校でもシェアしますので、みなさんも見てお友達にシェアしてください。

 今後とも、みなさんが引き続き自分たちの声を聴かせられるよう、できるだけ多くのみなさんと会い、お話を聴き、学んでいくことを楽しみにしています。

 英国が国連・子どもの権利委員会に提出した報告書の審査は委員会の第93会期(2023年5月8~26日)に予定されており、報告書その他の資料は同会期のページに掲載されています。子ども・若者からの意見募集や子ども・若者参加については次の添付文書で詳しく説明されています。

-Annex C: Children and Young People(意見募集その他の子ども・若者参加の取り組みの概要)
-Annex C1: Surveys CYP(条約に関する子ども・若者意識調査の結果)
-Annex C2: Everfi CYP(調査会社 Everfi に委嘱して実施した、委員会による報告前質問事項〔List of Issues Prior to Reporting〕を踏まえたフォーカスグループの結果)
-Annex C3: YPB Board CYP(内務省に設けられた若者委員会で行なわれた条約に関する協議の概要)

Annex Cの表紙

 以前の投稿で紹介したオンライン調査に回答した子どもは248人に留まりましたが、その他の取り組みに参加した子どもたちも含めると、委員会への報告プロセスの過程で計5,381人の子ども・若者から意見を聴いたとされます(Annex C, p.7;なお、回答者・参加者の大多数はイングランドの子どものようです)。一連の調査を通じて浮かび上がった主なテーマとしては、(1)子どもの権利と周知度、(2)気候変動と大気汚染、(3)教育、(4)子どもの声の4つが挙げられています(同)。

 子どもの権利条約について子ども・若者がどのぐらい知っているかという点については、次のような結果が出ました(Annex C, p.8)。

-条約について聞いたことがあり、よく知っている:6%
-条約について聞いたことがあり、少し知っている:14%
-条約について聞いたことがあるが、名前しか知らない:14%
-条約について聞いたことがない:66%

 セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンが2019年8月に行なった子ども調査ではそれぞれ8.9%、24.0%、35.5%、31.5%という数字が出ており、英国(とくにイングランド)の子どもたちの間では、日本以上に子どもの権利条約のことが知られていないようです。報告書でも、
「ほとんどの子どもは自分に権利があることを知っていたが、……過半数の子どもは国連・子どもの権利条約について聞いたことがなかった。年長の子どもと子ども向け社会的養護の支援を受けている子どもは、条約について聞いたことのある割合が他の子どもよりも高かった」
 と記述されており(Annex C, p.8)、これは英国政府にとっても課題のひとつとなるでしょう。なお、子どもたちが知っている主な権利としては、▽教育に対する権利、▽健康および保健サービスに対する権利、▽子どもの意見の尊重に対する権利、▽十分な生活水準(食料および水を含む)に対する権利の4つが挙げられています。

 また、委員会の報告前質問事項に掲げられた質問を踏まえて実施された子どもたちとの協議(Annex C2)では、▽大気汚染と気候変動、▽意見を聴かれる権利、▽年齢差別、▽表現・平和的集会の自由に対する権利、▽貧困と十分な住居に関連する権利などのテーマに焦点を当てたフォーカスグループ・ディスカッションが行なわれました。報告書には、それぞれのテーマに関する子どもたちの声と提言がまとめられています。

Annex C2の表紙

 英国政府が委員会への報告プロセスの過程で子どもたちの声を組織的に聴こうと試みたのはこれが初めてであり、日本を含む他の国々にとっても参考になる取り組みと言えるでしょう(子どもオンブズパーソン/コミッショナーなどの機関が子どもたちの声をまとめた報告書を提出することは増えていますが、政府としての取り組みはまだ少ないと思います*)。ウィル・クィンス政務次官の後任であるクレア・クティーニョ(Claire Coutinho)政務次官(子ども・家族・ウェルビーイング担当大臣)も、今年の世界子どもの日(11月20日)に発表した書簡で、引き続き子ども・若者の意見を聴いていくことへの意欲を表明しており、審査後に総括所見を実施/フォローアップする過程でも同様の取り組みが行なわれることを期待します(英国に関するこれまでの総括所見の日本語訳はこちらおよびそこに掲載しているリンクを参照)。

 ウィル・クィンス政務次官の書簡で言及されている動画と資料については、また別稿で紹介します(追記:紹介しました)。

* 私が毎回ジュネーブに行って委員会の審査を傍聴していた時期の話ですが、タイ(第19会期、1998年9~10月)とオーストリア(第20会期、1999年1月)の政府代表団に18歳未満の子どもが正式に参加していたことはあります。それ以前にも、ネパール(第12会期、1996年5~6月)の審査の際に15歳の少女が発言し、「事実上の」代表団メンバーとして遇された例はありましたが、子どもが正式に代表団の一員となったのはこの2か国が初めてです。その後の状況はきちんとフォローしていませんが、他にも例があるかもしれません。ただし、条約の国内的実施や国際的報告手続のなかでどの程度実質的な子ども参加が進められているかは別問題で、代表団に形式的に子どもを含めることを無条件で評価することはできません。なお、報告プロセスへの子ども参加については委員会の〈子どもの権利委員会の報告プロセスへの子ども参加に関する作業手法〉も参照。
【追記】(12月30日)
 なお、委員会の第83会期中に持たれた会合(2020年2月6日)で報告されたところによれば、この10年間で子どもレポートの数は増加しており、その時点までに子どもたちからのレポートが63本、子どもたちの意見が重要な一部となっているNGOレポートが95本、それぞれ提出されたとのことです。委員会がジュネーブで直接子どもたちと会見する機会も増えており、2019年には51人の子どもと会見しています(2018年の5人から急増)。

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平野裕二
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