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国連・子どもの権利委員会、ロシアによるウクライナ侵略の即時停止と子どもたちの権利の保護を要求

 先日の投稿でお知らせしたとおり、2月28日には70人近くの国連人権専門家が、ウクライナ侵略の即時停止および人権の保護を求める声明を発表しました。この声明には国連・子どもの権利委員会の大谷美紀子委員長も名前を連ねていますが、委員会が3月4日付であらためて声明を発表しましたので、以下全訳します(原文のリンクは省略;文中のリンクは平野による)。

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ウクライナ:国連委員会、子どもたちの殺害をやめるよう促す

ジュネーブ(2022年3月4日)-ここ数日のロシアによるウクライナ侵攻において少なくとも19人の子どもが殺害され、31人が負傷したことを受けて、国連・子どもの権利委員会は本日、ロシア連邦に対し、侵略および軍事行動を直ちに停止するとともに、身体的・心理的暴力から子どもたちを保護する義務を維持するよう要求した。委員会が発表した声明は次のとおり。

「現在、ウクライナの子どもたちは極度の苦痛とトラウマにさらされている。子どもたちは殺され、傷つけられている。家族と離れ離れにさせられている。住居は破壊されている。教育は中断させられている。学校、孤児のための施設、病院が攻撃されているとの報告もある。子どもたちの日常生活と日課は粉みじんにされてしまった。ウクライナに対する軍事攻撃の結果、子どもたちは極度の暴力にさらされ、耐えられないほどの恐怖と不安を経験している。

 子どもの権利条約には、生命、生存および発達に対する子どもたちの権利と、水、食料、住居、健康、教育およびあらゆる形態の暴力からの自由に対する広範な権利が掲げられている。子どもたちには、どんなときでもケア、援助および保護を受ける資格がある。残念なことに、歴史は、武力紛争の状況にあっては子どもたちがもっとも影響を受ける集団のひとつであることを、何度も何度も示してきた。

 子どもの権利委員会は、ロシア連邦による国連憲章違反のウクライナへの侵略および軍事攻撃により、ウクライナで子どもたちの権利の重大な侵害が行なわれていることを深く憂慮する。人権高等弁務官事務所によれば、2月24日午前4時から3月3日深夜〔24時〕にかけて、少なくとも19人の子どもの死亡と31人の子どもの負傷が記録された。子どもたちは甚大かつ長期的な身体的、心理的、情緒的およびトラウマ性の影響に苦しむことになろう。

 武力紛争への子どもの関与に関する子どもの権利条約の選択議定書前文で強調されているように、国連憲章に掲げられた目的および原則の全面的尊重ならびに適用可能な人権文書の遵守に基礎を置く平和および安全な状態は、とくに武力紛争の際の子どもの全面的保護のために不可欠である。

 子どもの権利委員会は、ロシア連邦が、ウクライナに対する侵略および軍事行動を直ちに停止するとともに、子どもたちの権利を最大限にかつ何よりも優先して保護するために国連憲章を執行するよう国連事務総長が唱道したとおり、条約に基づく自国の義務を維持するよう要求する。
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 また、3月3日~4日には国連・自由権規約委員会によるロシアの報告書審査が行なわれる予定でしたが、ロシア政府代表団によるジュネーブへの渡航が不可能になったとの理由で延期になりました。委員会は3月3日付で声明(Word)を発表してそのことに遺憾の意を表明するとともに、ロシアに対し、規約上の義務を遵守するようあらためて促しています。

1.自由権規約委員会は、国際連合の基本原則(武力による威嚇または武力の行使の禁止を含む)に違反して行なわれている、ロシア連邦によるウクライナへの継続的軍事侵攻に対して著しい懸念を表明する。委員会は、市民的および政治的権利に関する国際規約(自由権規約)前文において、国連憲章で宣明された原則が世界における自由、正義および平和の基礎をなすものであるとされていることを想起するものである。
〔中略〕
3.委員会は、締約国〔ロシア連邦〕には、規約第2条により、その領域内および管轄下にあるすべての個人ならびにその実効支配下にある個人に対し、規約で認められた権利を尊重しかつ確保する義務があることを想起するよう求める。委員会は、締約国に対し、とくに武力紛争事態下にあってさえいかなる逸脱(derogation)も許されない至高の権利である生命に対する権利との関連で、自国の義務を遵守するために必要なあらゆる措置をとるよう促すものである。
4.委員会は、締約国が、第135会期(2022年7月)には審査のために出席することを期待する。

 他の国連人権機構からも次々と声明が発表されています。

Ukraine: UN expert condemns racist threats, xenophobia at border〔ウクライナ:国連専門家、国境での人種主義的脅迫と排外主義を非難〕(3月3日付)
Ukraine: UN experts concerned by reports of discrimination against people of African descent at border〔国連専門家、国境におけるアフリカ系の人々への差別の報告を懸念〕(3月3日付)
Ukraine: Protection and participation of women is essential, say UN human rights experts〔ウクライナ:女性の保護と参加が不可欠である、と国連人権専門家〕(3月4日付)
Ukraine: Aged and those with disabilities face heightened risks, say UN experts〔ウクライナ:高齢者と障害のある人々はいっそうのリスクに直面している、と国連専門家〕(3月4日付)

 国連人権理事会第49会期でミチェル・バチェレ国連人権高等弁務官が行なったスピーチ(3月3日)なども参照してください。

 国連人権理事会は4日、ロシアによるウクライナ侵略を背景とする人権侵害についての独立調査委員会の設置を、日本を含む32か国の賛成で決定しました(朝日新聞の記事など参照)。反対はエリトリアとロシアの2か国、棄権は13か国(アルメニア、ボリビア、カメルーン、中国、キューバ、ガボン、インド、カザフスタン、ナミビア、パキスタン、スーダン、ウズベキスタン、ベネズエラ)です(国連のリリースを参照)。国際社会によるこのようなさまざまな取り組みにより、一刻も早く平和が回復されることを祈ります。


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平野裕二
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