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国連・子どもの権利委員会、外国籍の子どもに対する就学許可の遅れをめぐってスペインの条約違反を認定

 国連・子どもの権利委員会は、スペイン領メリリャ在住の子ども(モロッコ国籍)に対して公立学校への入学を速やかに認めなかったことについて、個人通報制度に基づいてスペインの条約違反を認定しました(CRC/C/87/D/115/2020、2021年5月31日)。

★ OHCHR: Spain violated the education right of a child living in Melilla, UN committee finds
https://www.ohchr.org/EN/NewsEvents/Pages/DisplayNews.aspx?NewsID=27165&LangID=E

 申立人は、北アフリカにあるスペインの飛び地領メリリャで暮らす8歳の男の子、A.E.A.の母親(モロッコ国籍)です。申立人は、息子が6歳に達した段階で地元の公立小学校への入学を求めましたが、地元の行政機関と裁判所から入学を認められなかったため、2020年3月に委員会に通報を行なったものです。

 その8か月後、A.E.A.とその家族がメリリャ在住であることが警察によって確認されましたが、住民である子どもには教育に対する権利が認められているにもかかわらず、地元当局は、A.E.A.が合法的な在留許可を取得している証拠がないと主張し、入学を拒否し続けました。今年(2021年)3月、スペイン本国の教育大臣が入学を認めるよう命じたことによって問題は解決されましたが、A.E.A.は約2年間を棒に振ったことになります。

 委員会は、A.E.A.がメリリャ在住であることを確認するために速やかに行動せず、メリリャ在住の確認後も直ちに公教育制度に受け入れなかったことなどを理由として、スペインによる、条約第2条(差別の禁止)、第3条(子どもの最善の利益)、第28条(教育に対する権利)などの違反を認定しました。委員会はスペインに対し、A.E.A.に十分な賠償を行なうこと、A.E.A.が学校で遅れを取り戻せるよう支援するために積極的措置をとることなどを命じています。

 ルイス・エルネスト・ペデルネラ-レイナ(Luis Ernesto PEDERNERA REYNA)委員は、前掲プレスリリースで次のようにコメントしています。

「A.E.A.の入学を認める決定は歓迎します。しかし、この決定は遅すぎ、学校に長期間行けなかったことで生じた害を完全に埋め合わせるものではありません」
「子どもたちは全員、自分自身または親の法的地位にかかわらず、教育に対する権利を持っています。A.E.A.は、たとえスペイン国民ではなくとも、教室で学ぶこと、同年齢の他の子どもたちと友達になることができるべきでした」
「たとえスペインの法律で、住民であるすべての子どもに対し、その行政上の地位にかかわらず教育が保障されているとしても、A.E.A.をはじめ、合法的な在留許可を持たずにメリリャで暮らしているほとんどの子どもたちは、就学の妨げとなる事実上の障壁に直面しています。これは、子どもの権利条約に違反する差別に相当するものです」

 前掲プレスリリースの末尾でも触れられているように、スペイン政府は昨年(2020年)、委員会に対して個人通報が行なわれたことをきっかけに、非正規滞在の女の子(12歳、モロッコ国籍)の小学校入学を認めたことがあります。この件については当時Facebookで紹介しましたので、以下、再掲します。

 スペイン政府は、国連・子どもの権利委員会に対して個人通報制度に基づく申立てが行なわれたことを受けて、非正規滞在の女の子(12歳、モロッコ国籍)が小学校に入学することを認めました。委員会はこの迅速な決定を歓迎するとともに、同様の状況にある他の子どもたちについても速やかに就学を認めるよう促しています(5月28日)。

★ OHCHR: UN Committee welcomes Spain's decision to allow Moroccan child to attend public school
https://www.ohchr.org/EN/NewsEvents/Pages/DisplayNews.aspx?NewsID=25908&LangID=E

 これまで就学を認められてこなかったのは、北アフリカにあるスペインの飛び地領メリリャで暮らす12歳の女の子、N.S.さんです。同地はモロッコと国境を接しており、N.S.さんの母親も子どものころにモロッコからメリリャに移住してきました。N.S.さんはメリリャ生まれですが、母子ともにモロッコ国籍で、メリリャでは非正規市民として扱われているため、就学年齢に達しても公立学校への入学を認められてきませんでした。

 N.S.さんは、2018年、同様の状況にある子どもたちとともに就学を求めるキャンペーンを開始し、毎週、教育省前でデモを行なってきたということです。2019年11月にはメリリャの司法行政裁判所に申立てを行ないましたが、教育はモロッコで受けるべきであるとして棄却されました。

 そこでN.S.さんは、今年(2020年)2月、母親とともに子どもの権利委員会に申立てを行ないました。委員会が直ちにスペイン政府に接触したところ、メリリャの教育当局は、3月24日、公立学校への就学を認める旨の通知をN.S.さんのもとに送ってきたとのことです。

 委員会のアン・スケルトン委員は、これは個人通報制度によってもっとも迅速に問題の解決がなされたケースであるとして、スペイン政府の決定を歓迎しました。同時に、同様の通報がまだいくつか委員会に登録されていることに言及し、子どもはどこにいてもその地位にかかわらず教育を受ける権利があるとして、これらの子どもの就学を認めるために緊急の措置をとるよう、スペイン政府に求めています。

 今回の発表には動画も添付されており、N.S.さんとアン・スケルトン委員がコメントしています。N.S.さんは、就学を認められたことの喜びを語りながらも、自分と同様の状況に置かれている他の子どもたちも早く学校に行けるようになってほしいと訴えています。
https://www.youtube.com/watch?v=Evlmgo-9dPw&feature=emb_logo
(後略)

 今回のプレスリリースによれば、委員会に対して同様の通報がこれまでに6件行なわれており、いずれの子どもも現在では就学を認められているとのことです。しかし、在留許可を受けないままメリリャで暮らしている子どものうち、依然として公教育制度から排除されたままの子どもが150人以上いるとも推定されています。委員会は、今回の決定で、再発防止措置として、地方の行政・司法機関が子どもの居住状況を遅滞なく確認して公教育制度に受入れるために効果的かつ迅速な措置をとるようにすることも、あわせて求めました。

 子どもの権利条約に基づく個人通報の処理状況等については私のサイトを参照してください。


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平野裕二
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