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子どもオンブズパーソン/コミッショナーのような独立機関の設置は子どもの権利条約に基づく「中核的義務」

 日本総研のサイトに、池本美香・調査部上席主任研究員による子どもの権利保護・促進のための独立機関設置の在り方が掲載されました(2月3日付;全文PDFはこちら)。

 子どもオンブズパーソン/コミッショナーのような独立機関のあり方について、国連・子どもの権利委員会の見解や最近の各国動向を踏まえて詳しくまとめられています。とくに国会議員のみなさんには、きちんとした根拠に基づいて議論するためにしっかり目を通してほしいと思います。

 なお、池本さんが参照している国連・子どもの権利委員会の一般的意見2号(子どもの権利の促進および保護における独立した国内人権機関の役割、2002年)の全文日本語訳は私のサイトに掲載しています(日弁連のサイトPDFも掲載されています)。

注/一般的意見2号の表題はもともと「子どもの権利の保護および促進における~」とされており、日本語訳もそれにしたがっていますが、原文(英語)ではいつのまにか「子どもの権利の促進および保護における~」に修正されていますので、ご注意ください。スペイン語版、アラビア語版およびロシア語版でも同様ですが、フランス語版と中国語版は「保護および促進」のままになっています(原文はこちらを参照)。

 あわせて強調しておく必要があるのは、子どもの権利委員会の一般的意見12号(意見を聴かれる子どもの権利、2009年、PDF)で、このような機関の設置が締約国の「中核的義務」と位置づけられていることです。すなわち、このような機関を設置しない場合、それ自体、条約上の義務を十分に履行していないと判断されます

3.締約国の義務
(a)締約国の中核的義務

48.意見を聴かれる子どもの権利は、適切な情報、必要な場合の十分な支援、意見がどの程度重視されたかに関するフィードバック、および、苦情申立て、救済措置または是正措置の手続へのアクセスを子どもたちに提供する機構を導入するために国内法を再検討しまたは改正する義務を、締約国に対して課すものである。
49.これらの義務を履行するため、締約国は以下の戦略をとるべきである。
-第12条に関する制限的な宣言および留保を再検討しかつ撤回すること。
-子どもの権利に関する幅広い権限を有する子どもオンブズマンまたは子どもコミッショナーのような、独立の人権機関を設置すること。
-子どもとともにおよび子どものために働くすべての専門家を対象として、第12条および実践におけるその適用についての研修を行なうこと。……
-規則および体制を整えることにより、子どもの意見表明を支援および奨励するための適切な条件を確保し、かつ子どもの意見が正当に重視されるのを確実にすること。このような規則および体制は、法律および機関内規則にしっかりと根ざしており、かつその効果に関して定期的評価が行なわれるようなものでなければならない。
-広く蔓延している慣習的子ども観を変革するための公的キャンペーン(オピニオンリーダーおよびメディアによるものも含む)を通じ、意見を聴かれる子どもの権利の全面的実現を妨げる否定的態度と闘うこと。
(太字は小見出しを除き引用者による)

 また、池本さんはこのような独立機関の機能を(1)子どもの権利の実現状況を調査し、必要な改善を促す政策提言、(2)子どもの権利について人びとの理解を促す人権教育、(3)相談・苦情の受付や子どもの施設の訪問などを通じた人権救済の3つに整理していますが、私は「監視」を独立の機能として位置づけて次の4つに分類しています。

(a) 子どもの権利や利益が守られているかどうかを行政から独立した立場で監視すること
(b) 子どもの代弁者として、子どもの権利の保護・促進のために必要な法制度の改善の提案や勧告を行なうこと
(c) 子どもからのものを含む苦情申立てに対応し、必要な救済を提供すること
(d) 子どもの権利に関する教育・意識啓発を行なうこと
(平野裕二「子どもオンブズパーソンの国際的動向――世界で増え続ける子どもオンブズパーソン」喜多明人ほか編『子どもオンブズパーソン 子どものSOSを受けとめて』日本評論社・2001年;同「世界各国の子どもの権利救済制度~国連・子どもの権利委員会の議論から」子どもの権利研究3号・2003年)

 このうち(c)の個別救済機能については、国によっては必ずしも子どもオンブズパーソン/コミッショナーの必須要件とは位置づけられていません。日本の場合はこのような機能を持たせることが必要だと考えますが、既存の相談・救済制度との関係をどのように整理するか、十分な検討が求められます。日本の議論では、このような機関が虐待やいじめについての調査も担うことへの期待も表明されているようですが、これらの事案については第一義的には自治体レベルで(児童相談所や第三者委員会などが)対応することとし、既存の制度が十分に機能しない場合に、制度改善を主眼として国レベルの子どもオンブズパーソン/コミッショナーが介入する余地を設けておくというのが現実的かと思います。

 いずれにしても、こども(家庭)庁のような総合省庁、子どもの権利に関する基本法、子どもオンブズパーソン/コミッショナーのような独立した監視・権利擁護機関の設置を同時並行で進めていくことが重要です(広げよう!子どもの権利条約キャンペーン「今こそ『子どもに関する基本法』の制定を!」提言書補足資料も参照)。池本さんが「おわりに」で次のように述べている点に、強く同意します。

 こども家庭庁創設の際、独立機関があわせて設置されなければ、その効果は限定的なものとなることが強く懸念される。コロナ禍で子どもの権利が侵害されている状況がより一層広がっていることも考えれば、独立機関の設置は急務である。各国の子どもの権利の実施状況について審査し、勧告を出している国連子どもの権利委員会の委員長を、2021年5月からの2年間、わが国の大谷美紀子氏が務めている。委員長を輩出する国として、独立機関が設置されていない状況はあまりに恥ずかしい。

 なお、各国の子どもオンブズパーソン/コミッショナーの動向についてはマガジン〈国内人権機関/オンブズパーソン等〉で随時取り上げていますので、そちらもご参照ください。

 また、このような制度のあり方を考えるにあたっては自治体レベルで取り組まれてきた先行事例を踏まえることも重要ですので、たとえば子ども情報研究センター「都道府県児童福祉審議会を活用した子どもの権利擁護の仕組み」調査研究報告書(2018年3月)なども参照する必要があります。日本弁護士連合会・国内人権機関実現委員会も2021年1月に「子どもの権利救済機関アンケート報告書」(PDF)を発表していますので、あわせてご参照ください。

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平野裕二
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