オーストラリアの連邦子どもコミッショナー、子ども司法改革に関する包括的報告書を発表
オーストラリア人権委員会で連邦子どもコミッショナーを務めるアン・ホロンズ(Anne Hollonds)は、8月20日、連邦政府と州・準州政府に子ども司法改革を求める報告書を発表しました。
★ Australian Human Rights Commission: New report proposes transforming Australia's approach to child justice and wellbeing
https://humanrights.gov.au/about/news/media-releases/new-report-proposes-transforming-australias-approach-child-justice-and
『もっと早く助けを!:安全とウェルビーイングの向上のためにオーストラリアはどのように子ども司法を変革できるか』('Help way earlier!': How Australia can transform child justice to improve safety and wellbeing)と題するこの報告書は、子どもの犯罪に厳罰主義で臨むのは逆効果であるとして、子どもおよびその家族(とくに、先住民族であるアボリジナルやトレス海峡諸島民の子どもと家族)を対象とする基本的サービス(保健・教育・社会サービス)を向上させることによる予防的アプローチの重要性を強調したものです。警察、刑事司法制度または青少年拘禁制度と関わりを持った(または関わりを持つおそれのある)150人の子ども・若者を含む、オーストラリア全土の関係者・専門家数百人との協議を踏まえて作成されました。国連・子どもの権利委員会の一般的意見24号(子ども司法制度における子どもの権利、2019年)を踏まえ、報告書全体を通じて「子ども司法制度」(child justice system)という用語が採用されています(p.4)。
連邦子どもコミッショナーのホロンズ氏は、前掲リリースで次のようにコメントしています。
「私たちはみんな、子どもたちが豊かに成長でき、誰もが、とくに子どもが安全でいられるコミュニティでの暮らしを望んでいます。けれども今回の知見が示すのは、子どもによる犯罪への現在の対応は功を奏しておらず、州・準州の司法制度だけではこれらの問題を解決できないということです。私たちは、根本的原因への対処と、エビデンスに基づいた制度的改革に関する国家的行動を妨げる障壁へと、注意および資源を振り向けていく必要があります」
報告書の要約(Executive Summary)では、現在の問題点が次のようにまとめられています(pp.8-9)
オーストラリアは子どもたちの権利を守っていない。
子ども・若者は、トラブルに巻きこまれないために何が必要かを語ってくれた。
改革に対する国家的な、子どもの権利を基盤とするアプローチが必要とされている。
子どもの権利およびエビデンスに基づく改革の前に、複数の障壁が立ちふさがっている。
報告書の問題意識は、次の1文(p.14)によく表れていると言えるでしょう。
「正義の社会的決定因子」(social determinants of justice)については、p.17に掲載されている次の図もご参照ください。
報告書とは別に用意されているサマリー(PDF)では、今回の調査で得られた主要な知見が次のようにまとめられています(太字は平野による)。
脆弱な状況に置かれている子どもたちとその家族は、「もっと早く助けを」必要としていると語った。保健・教育・社会サービスという基本的サービスのシステムは断片化されており、調整がとれておらず、目的にかなっていない。助けをもっとも必要としている人々が、必要な助けを得ることができない。
オーストラリアの司法制度と接触するに至るのは、貧困、不安定な住居、家族間・家庭内・性的暴力、健康・精神保健に関わる問題、障害、制度的人種主義、そして世代間トラウマとともに生きている子どもたちである。その多くは子ども保護制度の対象となっており、あるいは家庭外養護の下で暮らしている。
現在のところ、私たちは危機または犯罪が起きるまで待っており、私たちの――予防的というよりは懲罰的な――政策対応は根本的原因への対処に失敗している。
脆弱な状況に置かれている子どもたちに――コミュニティで、あるいは身柄拘束中に、あるいは身柄拘束から解放された段階で、より早く――必要な支援が提供されれば、犯罪活動に関与する可能性は低くなり、彼らとコミュニティを安全に保つことにつながる。
「青少年犯罪」に関するメディアのセンセーショナリズムは、脆弱な状況に置かれている子どもたちを悪魔化し、子ども・若者に対するコミュニティの態度を硬化させ、政治家が、子どもたちまたはコミュニティを安全に保つのに役に立たない、ポピュリズム的な「犯罪への毅然とした対応」を解決策として選ぶことを助長する。
報告書では、調査の結果を踏まえて24項目の勧告が行なわれていますので、その内容を紹介します。なお、勧告では「政府」について単数形(Government)と複数形(Governments)が使い分けられており、単数形の場合は連邦政府を、複数形の場合は連邦政府および州・準州政府の両方を指していると理解されますので、日本語訳では単数形の Government を連邦政府、複数形の Governments を「諸政府」と訳しています。
まず、「全国的改革を可能とするための優先課題」について取り上げた4項目です。
勧告1:オーストラリア諸政府として、子ども司法制度改革のための国家的タスクフォースを設立する。このタスクフォースは、法域を問わず、子ども司法および子どものウェルビーイングに責任を負う諸大臣に対して報告するべきである。
勧告2:オーストラリア連邦政府として、オーストラリアの子どもの人権とウェルビーイングに責任を負う子ども大臣を任命する。
勧告3:オーストラリア連邦政府として、子ども大臣を座長とし、国家内閣への報告責任を負う「子どものウェルビーイング大臣協議会」を設置する。
勧告4:オーストラリア連邦政府として、国家子ども法および連邦人権法を通じ、オーストラリア法に子どもの権利条約を編入する。
これに続けて、「子ども司法制度改革のための、エビデンスに基づく主要な行動」について20項目の勧告が行なわれています。以下は有料とさせていただきますが、▼統合された居住地基盤型の保健・教育・社会サービスの提供(勧告5)、▼所得支援給付の引き上げや住宅保証(勧告6・7)、▼関連職員の養成・研修に関する最低要件の策定(勧告15)、▼刑事責任年齢の14歳への引き上げ14歳へ(勧告20)、▼子どもを対象とする拘禁施設のモニタリング基準の策定・実施(勧告21)、▼「子どもの権利影響評価」の実施(勧告23)、▼通報手続に関する子どもの選択議定書の批准(勧告24)など、日本にとっても参考になる多様な勧告が行なわれています。
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