国連・子どもの権利委員会の第95会期が終了:次の一般的意見のテーマは「司法へのアクセス」に
スイスのジュネーブで1月15日から開催されていた国連・子どもの権利委員会の第95会期が、2月2日に終了しました。最終日前日の2月1日には関心のある国との非公式会合も持たれましたので、まずそちらの概要から紹介します。
-Committee on the Rights of the Child Holds Fifteenth Informal Meeting with States
https://www.ohchr.org/en/news/2024/02/committee-rights-child-holds-fifteenth-informal-meeting-states
会合では、この間の委員会の活動について、委員からそれぞれ説明がありました。▽太平洋諸島国へのフォローアップ訪問と地域ワークショップの開催(2023年11月)、▽一般的意見26号(とくに気候変動に焦点を当てた子どもの権利と環境)の正式発表(2023年9月)、▽「違法な国際養子縁組に関する共同声明」に関する国連・強制失踪委員会等との共同声明1周年イベント(同)、▽条約第5条(子どもの発達しつつある能力を踏まえた親の指示・指導)についての声明(2023年10月11日付)などが主な内容ですが、これらについてはそれぞれリンク先をご参照ください。また、委員会とIPU(列国議会同盟)が2022年11月に発表した共同声明を踏まえ、議会/議員の役割をあらためて強調する発言もありました。
注目したいのは、委員会の次の一般的意見(27号となる予定)のテーマとして「司法および効果的救済措置へのアクセス」を通じた子どもの権利の実現が選ばれたことです。ブノワ・バン-ケルスブリク(Benoit Van Keirsbilck)委員(ベルギー)の発言要旨を訳出しておきます(追記:コンセプトノートも発表されましたので別途日本語訳を掲載しました)。
ブノワ・バン-ケルスブリク委員からは、個人通報議定書(通報制度に関する子どもの権利条約の選択議定書)の運用状況についても報告がありました。それによると、委員会はこれまでに238件の通報を登録し、そのうち45件で条約違反を認定した一方、50件については(多くの場合、救済措置が実施されたか、国内での審理が再開された後に)審理が中断されています。審理中の事案は100件以上にのぼっていますが、委員会が処理できるのは年間25件程度であり、資源不足のために処理が追いついていません。
委員会は、権利侵害のおそれがある国に送還されようとする子どもを保護するため、国際法に違反する送還(ルフールマン)の可能性がある事案には介入するのを常としてきました。また、委員会の対応によって各国が就学に関する手続を見直し、数百人以上の子どもが学校に通えるようになった事案も複数あります。
バン-ケルスブリク委員は、こうした成果を挙げつつ、個人通報に関わる委員会の機能を強化する必要性を訴えました。今年は個人通報議定書の発効から10年ということもあり、委員会は、その影響に関する各国との意見交換を5月に行なうとのことです。個人通報議定書の締約国はまだ51か国にすぎず、日本としても速やかに批准することが求められます(現在、少なくとも15か国が批准・加入への関心を示しているとのことです)。
今回の非公式会合には、パキスタン、パレスチナ国、テュルキエ(トルコ)、イスラエル、フィンランドおよび米国の代表が参加しました。意見交換ではやはり、イスラエルーパレスチナ戦争による子どもたちの犠牲について多くの発言があったようです(意見交換の様子についてはフランス語版リリースのほうが具体的です)。
翌2月2日、委員会は閉会会合を開いて第95会期を終了しました。
- Committee on the Rights of the Child Closes Ninety-Fifth Session after Adopting Concluding Observations on the Reports of the Republic of the Congo, Bulgaria, Senegal, the Russian Federation, Lithuania and South Africa
https://www.ohchr.org/en/news/2024/02/committee-rights-child-closes-ninety-fifth-session-after-adopting-concluding
今回報告書審査が行なわれた6か国(コンゴ/ブルガリア/セネガル/ロシア連邦/リトアニア/南アフリカ)についての総括所見(先行未編集版)は、2月8日(木)に第95会期のページで公開される予定です。各国の報告書審査に出されたプレスリリース(英語・フランス語)の見出しはFacebookで訳出済みですので、この記事の後半(有料エリア)に採録しておきます。
個人通報の処理状況については、委員会は今回10件の申立てについて決定を採択し、そのうちパラグアイを相手どった事案(親子関係確立手続における遅延に関するもの)とスペインを相手どった事案(モロッコ国籍の子どもの教育に関するもの)で条約違反を認定しました。このほか、それぞれアルゼンチンとボスニアヘルツェゴビナを相手どった事案2件で申立てを不受理とするとともに、審理中に状況が改善された事案3件(アルゼンチン、フィンランドおよびテュルキエを相手どったもの)と申立人と連絡がとれなくなった事案3件(フィンランドおよびスイスを相手どったもの)について審理を打ち切っています。これらの決定は第95会期のページに順次掲載されます。
委員会の次回の会期(第96会期)は2024年5月6日~24日に開催され、ブータン、エジプト、エストニア、ジョージア、グアテマラ、マリ、ナミビア、パラグアイおよびパナマの報告書が審査される予定です(パナマは子どもの売買・児童買春・児童ポルノに関する選択議定書のみ)。また、5月24日には第20回締約国会議が開かれ、2025年2月28日に任期終了となる委員9人(現在委員を務めている大谷美紀子弁護士を含む)について選挙が行なわれます。
以下、第95会期の開会会合に関するFacebookポストを採録した後、今回の報告書審査に関するプレスリリース(英・仏版)の見出しの日本語訳を再掲しておきます。
【資料】各国の報告書審査のプレスリリース(見出しの日本語訳)
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