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オーストラリア:16歳未満の子どものSNS利用禁止法案に対して国家人権委員会が「重大な留保」を表明
(2024年11月29日追記)法案は連邦議会で可決され、成立する見込みです。末尾に追記しておきました。
いろいろ紹介したい資料もあるのですが、オーストラリア政府が16歳未満のSNS利用を禁止しようとしている件については日本での関心も高いようですから、先にそのことを取り上げておきます。この件についてはとりいそぎFacebook(11月19日投稿)で触れておいたので、まずはその投稿を採録しておきます。
★BBC:豪政府、16歳未満のSNS利用を禁止する法案を提出へ
https://www.bbc.com/japanese/articles/c704rpkg4dlo
オーストラリアで11月7日に発表された上記方針が日本でも注目を集めています。閣議決定を経たアルバニージー首相とローランド通信相の連名による公式発表(英語、11月8日付)は↓から参照できます。
https://www.pm.gov.au/media/minimum-age-social-media-access-protect-australian-kids
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BBCの記事でも紹介されているように、このような一律の禁止に対しては子どもの権利の観点からも疑問の声が出ています。
このような対応を「あまりにも乱暴な手段」(too blunt an instrumen)だと批判し、代わりにSNSプラットフォームに「安全基準」を課すことなどを求めた「オーストラリア子どもの権利タスクフォース」(Australian Child Rights Taskforce)の公開書簡(10月9日付)は、↓に掲載されています。
https://au.reset.tech/news/open-letter-about-social-media-bans/
(BBCの記事で触れられている「国連の助言」とは、「デジタル環境との関連における子どもの権利」についての国連・子どもの権利委員会の一般的意見25号、パラ24後段を指します)
セーブ・ザ・チルドレン・オーストラリアも、〈16歳未満を対象とするオーストラリアのソーシャルメディア禁止は、子どもたちをいっそうのリスクにさらしかねない〉(Australia's social media ban for under 16s could put children at greater risk)という見解を11月18日付で発表しました。
今回の提案に関する若者アドバイザーの意見も紹介したうえで、プラットフォームの安全を高めるSNS企業の責任を確保するための取り組みなどを求めるものです。
法案はまもなく提出されるはずですので、機会を見てそのうちもう少し詳しく取り上げるかもしれません。きちんとした「子どもの権利影響評価」(CRIA)を実施したうえで出された提案とは思えませんが、オーストラリア国家人権委員会もCRIAのためのツールを発表しているのですから(以前のnoteの投稿参照)、こうしたプロセスをていねいに踏んだうえで議論してもらいたいと思います。
「オンライン安全(ソーシャルメディア最低年齢)法案」(Online Safety Amendment (Social Media Minimum Age) Bill 2024)と称される法案は、11月21日に連邦議会に提出されました。2021年オンライン安全法を改正して、ソーシャルメディアプラットフォームに対し、16歳未満の子どもによるアクセスを防止するための合理的措置をとるよう求めるものです。
-CNN:16歳未満のSNS利用禁止、違反の運営会社に多額の罰金 オーストラリアが法案提出
https://www.cnn.co.jp/tech/35226394.html
-朝日新聞:16歳未満のSNS利用禁止へ オーストラリア、世界初の法案提出
https://www.asahi.com/articles/ASSCP22RSSCPUHBI01JM.html
-読売新聞:オーストラリアで「16歳未満」のSNS禁止法が成立へ…違反の企業には最高50億円の罰金
https://www.yomiuri.co.jp/world/20241121-OYT1T50178/
この法案について、オーストラリア国家人権委員会(以下「人権委」)が11月21日付で見解を発表しました。法案が導入しようとしている措置について子どもの権利の観点から詳しく検討されているので、その概要を紹介します。
- Australian Human Rights Commission: Proposed Social Media Ban for Under-16s in Australia
https://humanrights.gov.au/about/news/proposed-social-media-ban-under-16s-australia
法案の影響を受ける主な権利
人権委はまず、今回の法案がどのような人権に影響を及ぼすのか、検討しています。16歳未満の子どもによるソーシャルメディアの利用を禁止する目的は子ども・若者をオンラインの危害やソーシャルメディアの悪影響から守るところにあり、このこと自体は、子どもの権利条約(CRC)の17条(子どものウェルビーイングを害する情報・資料からの保護)や19条(暴力・虐待・マルトリートメントからの保護)の要求に合致するものであることを、人権委は認めています。一方で、次のことも考慮しなければならないと人権委は指摘します。
ただし、このようなソーシャルメディア禁止はまた、子ども・若者に人権上の悪影響も及ぼす可能性が高い。子どもをオンラインの危害から守るために権利が制限される場合、いかなる制限も、合法性、必要性および比例性を備えていなければならない。すなわち、所期の目的を達成するために利用可能な、もっとも制限度の低い選択肢を用いるということである。子どもを危害から守るという目的を達成するためにより制限度の低い選択肢が利用可能なら、それを包括的禁止よりも優先させることが求められる。
この点に関連して、人権委は、コンテンツモデレーションやコンテンツ管理は「デジタル環境における情報への子どもたちのアクセスを制限するために用いられるべきではな」く、「有害な資料が子どもたちに供給されることを防止するためだけに用いられるべきである」という国連・子どもの権利委員会の見解も援用しています(出典が示されていませんが、デジタル環境との関連における子どもの権利についての一般的意見25号、パラ56です)。
また、ソーシャルメディア禁止の影響を受ける主要な権利としては次のものが挙げられています(原文では国際人権規約の関連条項にも言及されていますが、子どもの権利条約の条項のみ示します)。
表現および情報アクセスの自由(13条)
結社および平和的集会の自由(15条)
教育および発達に対する権利(28条・29条)
文化、余暇および遊びに対する権利(31条)
関連の情報にアクセスすることによるものを含む、到達可能な最高水準の健康に対する権利(24条)
プライバシーに対する権利(16条)
人権委は続けて、子どもに適用される特有の人権原則について次のように説明しています。
子どもに適用される特有の人権原則
以上の権利および自由に加えて、CRCは子ども・若者に関連する追加的考慮事項を定めている。
CRCは、子どもの最善の利益が子どもに関わるすべての行動の指針となる第一義的考慮事項とされること(CRC第3条(1))、また自己に影響を与える事柄について声を聴かれる意味のある機会が子どもに与えられることを要求している。
CRC第17条は、マスメディア(ソーシャルメディアを含む)が果たす重要な機能に留意するとともに、政府に対し、子どもが多様な国内的・国際的情報源からの情報(とくに子どもの社会的・精神的・道徳的ウェルビーイングおよび心身の健康の促進を目的とした情報)にアクセスできるようにすることを義務づけている。
CRC第12条は、子どもの発達しつつある能力が考慮されることを要求している。これは、より年齢の高い子どもには意見を表明する能力があることを認めるものである。子どもたちに影響を及ぼす法律は――とくにそれらの法律が子どもによる人権の享受に悪影響を及ぼす可能性がある場合には――、子どもたちの直接のインプットを得ながら策定することが求められる。
CRCはまた、子どもの養育および発達について第一次的責任を負うのは親および法定保護者であることも認めている(CRC第5条および第18条)。
ソーシャルメディア禁止への賛否
人権委は続けて、ソーシャルメディア禁止に対する主な賛成論と反対論を挙げたうえで、包括的禁止に代わる選択肢がないかどうかを考察しています。
主な賛成論
危害からの保護
健康的な発達の促進
オンラインのプライバシーに関わる懸念への対応
親の支援(「アクセス制限は、親・保護者をエンパワーすることにより、親・保護者がよりよく子どものオンライン活動を指導し、子どもが監督を受けながらテクノロジーに関わることを確保する一助となる」)
主な反対論
表現および情報アクセスの自由〔の侵害〕
包摂および参加〔の阻害〕
すべてのオーストラリア人にとってのプライバシーリスク(「ソーシャルメディア禁止は実効的な年齢認証プロセスの採用に依拠している。すなわち、オーストラリア人全員が、ソーシャルメディアにアクセスするために身分証明を要求される可能性があるということである。……」)
包括的禁止は有効ではない
代替的選択肢はあるか?
オンラインにおける子ども・若者の保護を向上させる必要があるのは明らかである。比較衡量の結果、オーストラリア人権委員会は、16歳未満を対象とするソーシャルメディアの包括的禁止が正しい対応であるとは考えない。
子ども・若者をオンラインの危害から守るという目的を他の人権にそれほど重大な悪影響を与えずに達成し得る、より制限度の低い選択肢は存在する。
代替的対応の一例としては、ソーシャルメディア企業に法律上の配慮義務を課すことが挙げられよう。これにより、企業に対しては、自社の製品を子ども・若者にとって安全なものとするための合理的措置をとることが要求される。法定配慮義務の導入は、ソーシャルメディア企業の説明責任を高め、すべての人にとってのオンラインセーフティを向上させる積極的な方法のひとつとなろう。委員会は、このような配慮義務が政府によって検討されているものと理解している。
また、全国カリキュラムでデジタルリテラシーおよびオンラインセーフティについての教育が具体的に取り上げられるようにすることにより、子ども・若者がオンライン空間をよりよく往来できるよう援助する必要もあろう。若者は、オンラインで目にしたものについて、またソーシャルメディアとどのようにつきあうかについて批判的に思考することを教えられるべきである。親や教員にとっても、適切な指針および支援を提供するのに役立つ、よりよいツールや資源が必要となる。
子どもによるソーシャルメディアの利用を一律に禁止するよりも企業の安全配慮責任を強化するべきだという方向性は、前掲Facebookポストで触れた「オーストラリア子どもの権利タスクフォース」(Australian Child Rights Taskforce)やセーブ・ザ・チルドレン・オーストラリアの考え方とも共通するものです。
セーブ・ザ・チルドレン・オーストラリアは、若者アドバイザーから出された次のような意見も紹介しています。
「ソーシャルメディアへのアクセスを遮断することは、肯定的な相互交流を制限するだけじゃなく、悪い方向に飛んでいってもっと有害なことになると思う」
「あの人たちは全体像を見てない、ソーシャルメディアをブロックしても大して役に立つことはないよ。銃創にバンドエイドを貼るようなものさ」
「子ども・若者との話からも、私自身の経験からも間違いなく言えるのは、16歳未満のソーシャルメディア禁止が導入されたとして、みんなそれでもアクセスするでしょう。もっと規制が少なくて、必要なときに助けを求めることがもっと恥ずかしいことにされてしまう環境のなかで」
「重大な留保」の表明とCRIA(子どもの権利影響評価)の推奨
人権委は最後に、私も冒頭のFacebookポストで言及しておいた「子どもの権利影響評価」(CRIA)ツールに言及し、
「CRIA評価を実施することは、今回の禁止提案によって子どもたちの権利とウェルビーイングにどのような影響が生じるかを評価し、子ども・若者のかけがえのないニーズと意見に耳が傾けられるようにするうえで、政府の役に立つでしょう」
としてその活用を促すとともに、16歳未満の子どもによるソーシャルメディアの利用を禁止するという今回の提案について「重大な留保」(serious reservations)を表明しています。
今回の法案はとくに強い反対もなく通過しそうな気配ですが、連邦政府・議会にはこうした指摘をきちんと受けとめ、慎重に審議してもらいたいと思います。
【追記】(2024年11月29日)
法案は11月28日に議会上院で可決されました。下院による再可決を経て成立する見込みです。齋藤長行さん(仙台大学)が法案のポイントを解説してくれています。
可決直前の11月25日、オーストラリア国家人権委員会はあらためて声明(人権コミッショナーと子どもコミッショナーの連名)を発表し、拙速な審議をしないよう議会に求めていました。これについては別途概要を紹介します(追記:紹介しました)。
- Australian parents and kids deserve better
https://humanrights.gov.au/about/news/opinions/australian-parents-and-kids-deserve-better
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