「未来のための協定」と子ども――積み残された課題

　国連未来サミット（9月22～23日）で9月22日に採択された成果文書「未来のための協定」（Pact for the Future）およびその付属文書「グローバルデジタルコンパクト」（付属文書I）と「将来世代に関する宣言」（付属文書II）については、それぞれnoteで概要を紹介してきました（各リンク先参照）。

　協定で「若者」にしか言及していない箇所が多いことを含め、協定でも「将来世代に関する宣言」でも子どもに対して十分な焦点は当てられていないように思われることを以上の投稿で指摘しておきましたが、この点については国際的にも同様の印象が持たれているようです。CRIN（Child Rights Information Network）のサイトに掲載された〈「未来のための国際協定」は子どもたちにとって何を意味するか？〉（What does the Global Pact for the Future mean for children?）という論考（2024年9月23日付）では、次のように述べられています（原文には関連資料へのリンクもありますので、それらを参照したい方は原文をご覧ください）。

協定は子どもと子どもの権利について何を言っているか？
　子どもの権利コミュニティは、最初期の草案段階から、協定が子どものことをきちんと取り上げていないことに批判的だった。「ゼロドラフト」――公表された最初のテキスト――は、「若者」に相当焦点が当てられていたものの、子どもに言及しているのは5か所のみだった。

　協定の最終版では子どもにかなり焦点が当てられるようになっているものの、子どもと若者を一括りにする傾向は残っている。国際人権法に基づいて各国が子どもに対して負っている具体的義務が十全に反映されていないという問題もある。

　協定の起草が進むにつれて一部の国や市民社会組織から抵抗の声があがり、子どもについて、そしてもっと全般的に、権利および義務に明示的に言及することが求められた。この点ではいくつかのポイントで前進があった――協定の最終版では権利にいっそう焦点が当てられるようになっている――ものの、子どもがすでに権利を有している（そして国はその権利を実現する義務を負っている）状況で、若者のニーズへの対処について言及している箇所がある。

　論考は続けて協定の「IV．若者と将来世代」について検討し、子どもと若者と将来世代がそれぞれ別個の集団であることをいちおう認識しながらも、「協定はしばしば『若者』（young people）という言葉を用いて子どもと若者を一緒くたにし、所々で子どもの具体的権利を無視している」と指摘しています。とくに、若者参加をめぐって表明されているコミットメント（行動36および行動37）に関して表明されている次のような失望感は、私も共有するものです。

　国レベル・国連内双方における「若者参加」の強化にも、相当の焦点が当てられている。協定は、政策立案に意味のある形で若者の関与を得る必要があること、若者に焦点を当てる団体を支援すること、国連に派遣される各国代表団に若者を含めることについては取り上げているものの、協定のこの箇所には子どもに関する明示的言及がまったくない。このことは、とくに国連事務総長が昨年の「子どもの権利の主流化に関するガイダンスノート」で表明した、国連全体で意味のある子ども参加を包摂することへのコミットメントに鑑みれば、残念な展開である。国内的・国際的プロセスに若者の関与を得ることは、一般的に、年長の子どもと若年成人を優先して、より年齢の低い子どもを排除することにつながる。これらのプロセスにすべての子どもを包摂することに対して意味のあるコミットメントが表明されていれば、協定のこの箇所は相当に強化されていただろう。

　他方、「グローバルデジタルコンパクト」については、▼デジタル問題に関する法改正が広く人権およびとくに子どもの権利に基づいて行なわれるようにすることへのコミットメントが明示的に認められたこと（「子どもの権利条約を含む国際人権法にのっとり、デジタル空間で子どもの権利を保護するための法律上および政策上の枠組みを強化する」）、▼プライバシーおよび自由な表現を守りつつオンラインの子どもの性的搾取・虐待に対抗していく意図が表明されたことなどが、市民社会による働きかけの成果として挙げられています。

　いずれにせよ、「未来のための協定」とその付属文書で表明されたコミットメントを各国と国際社会がどのぐらい誠実に実行に移していくか注視し、その過程で子どもの権利に具体的に関わる取り組みを求めていくことが必要です。国連憲章発効記念日である国連デー（10月24日）には、協定のフォローアップを進めていくために役立ちそうなサイト "Pact Decoded"（協定を読み解く）が開設されましたので、英語のみですが、活用できるでしょう。

　このサイトについてはすでにFacebookで紹介しましたので、以下に採録しておきます。「将来世代に関する宣言」と「グローバルデジタルコンパクト」の解説ページも開設済みです（各リンク先参照）。

★ Pact Decoded (by Our Future Agenda - UN Foundation)
https://our-future-agenda.shorthandstories.com/pactdecoded/index.html

　国連未来サミットで9月22日に採択された「未来のための協定」については、とくに「IV．若者と将来世代」に焦点を当てつつ、note↓で概要を紹介しました。
https://note.com/childrights/n/n03e1ffd9646b

　国連憲章発効記念日である国連デー（10月24日）にあたり、米国に本部を置く慈善団体・国連財団が、同協定の内容をわかりやすく示したサイト "Pact Decoded"（協定を読み解く）を開設しましたので、あわせてお知らせしておきます（冒頭のリンクより閲覧してください）。

　たとえば「IV．若者と将来世代」については、世界的変革の4つのテーマとして▽若者の社会的・経済的ウェルビーイングへの投資、▽人権と包摂、▽将来世代のための気候行動、▽意思決定への若者参加を取り上げるとともに、協定に掲げられた4つの「行動」について簡単に解説しています。
https://our-future-agenda.shorthandstories.com/pactdecoded/pact-decoded/chapter-4/index.html

　トップページの下のほうにある "The Road Ahead" の項では、国際社会が今後とっていくべき具体的行動が整理されています。

　今後、協定の付属文書である「将来世代に関する宣言」と「グローバルデジタルコンパクト」についての解説も掲載されることになっています（それぞれ10月30日・11月10日に掲載予定；これについてもnoteで取り上げました）。英語のサイトではありますが、「未来のための協定」の概要を把握するうえで参考になりそうです。あわせて、9月26日にとりまとめられた「薬剤耐性に関するハイレベル会合政治宣言」の解説も掲載予定とのことです。

　また、国際NGOのプラン・インターナショナルは、2024年5月、15～24歳の若者35人が中心となってとりまとめたガールズ版「未来のための協定」（The Girls' Pact for the Future）を発表しています。「私たちの明日への声」（Our Voices for our Tomorrow）と題したレポートとあわせて日本語訳が作成されていますので、以下のリリースからご覧ください。

★プラン・インターナショナル・ジャパン：未来サミットに向けたユースの提言を発表～「私たちの明日への声」～
https://www.plan-international.jp/blog/20240709_blog-4/

「未来のための協定」でも、行動35（私たちは、すべての若者の人権を促進・保護・尊重し、社会的包摂および統合を推進する）で、すべての若年女性および少女が直面している課題（ジェンダーに基づくステレオタイプおよび否定的な社会規範、差別、ハラスメント、あらゆる形態の暴力、女性性器切除や児童婚・早期婚・強制婚を含む有害慣行など）に対処していくというコミットメントが表明されているほか、他の箇所（行動8の（l））でも「ジェンダー平等および女性と少女のエンパワーメントを達成する」と宣言されていますが、その内容は必ずしも十分ではありません。協定の実施状況のフォローアップにあたり、さまざまな層の子ども・若者がこうした要求を突きつけていくのも重要だと思います。