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英国の学校評価機関、学校における性暴力についての報告書を発表し、さらなる対策を勧告
英国の独立機関・Ofsted(オフステッド:教育水準監査院)が、6月10日、学校における性暴力についての報告書(Review of sexual abuse in schools and colleges)を発表しました。
1)AFP:英国の学校でオンラインセクハラ横行、対策求める報告書
https://www.afpbb.com/articles/-/3351247
2)Ofsted: culture change needed to tackle 'normalised' sexual harassment in schools and colleges(学校・カレッジで「当たり前になっている」セクシュアルハラスメントに対処するため、文化的変革が必要)
https://www.gov.uk/government/news/ofsted-culture-change-needed-to-tackle-normalised-sexual-harassment-in-schools-and-colleges
報告書は、Ofstedの監査官が学校・カレッジ32校を訪問し、900人以上の生徒から話を聴いたうえで作成されたものです。前掲1)の記事の見出しではオンラインでのセクシュアルハラスメントが強調されていますが、もちろんオフラインで行なわれているものも取り上げられています。
アマンダ・スピールマン(Amanda Spielman)主任監査官は、2)のプレスリリースで次のようにコメントしています。
「この調査結果にはショックを受けた。多くの子ども・若者、とくに女の子が、成長することの一環としてセクシュアルハラスメントを受け入れなければならないと感じているのは憂慮すべきことである。それが学校で起きるものであれ社会生活のなかで起きるものであれ、子どもたちは単純に、わざわざ報告するようなものではないと感じている」
「これは文化的問題である。当たり前のことになってしまっている態度と行動の問題であり、学校やカレッジが自力で解決できるものではない。政府は、オンラインのいじめ・人権侵害や、子どもたちが容易にポルノグラフィーにアクセスできる状況に目を向けなければならない。ただし、学校やカレッジには果たすべき重要な役割がある。学校やカレッジには、校内で正しい文化を維持することができるし、現実を反映したRSHE〔関係性・性・健康教育〕を提供し、若者に必要な情報を教えることができるのである」
「政策立案者、教員、親および若者がこの報告書を読んで、協働しながら態度を変革し、有害な行動に終止符を打つことを望む。セクシュアルハラスメントが当たり前のことと考えられることはあってはならず、私たちの学校やカレッジで起きることがないようにされるべきである」
調査結果を踏まえ、報告書は学校・カレッジ等に対して次のような勧告を行なっています(前掲プレスリリースより;太字は平野)。
-学校・カレッジの指導者は、あらゆる種類のセクシュアルハラスメントが認知され、適切な場合には制裁を科すことも含めて対処される文化を発展させるべきである。
-RSHE〔関係性・性・健康教育〕カリキュラムは、子ども・若者が困難を覚えるトピック(同意、露骨な画像の共有など)に時間を配分しながら、慎重に組み立てられるべきである。
-学校・カレッジは、RSHEを担当する教員を対象として質の高い研修を行なうべきである。
-複数のセーフガーディング(安全確保)パートナーと学校との協力関係を向上させるべきである。
政府に対する勧告としては次のようなものがあります(同)。
-政府は、オンラインでの子ども・若者のセーフガーディングのための統制を強化するため、オンライン安全法案の策定にあたって本報告書の知見を考慮するべきである。また、学校がセーフガーディングに関する最新のガイダンスに1か所でアクセスできるオンラインハブも開発するべきである。
-セクシュアルハラスメントや性的人権侵害について学校スタッフに相談した後の展開について説明するための、子ども・若者向けのガイドを作成するべきである。
-政府は、態度の変革の一助とするため、セクシュアルハラスメントおよびオンラインの人権侵害に関する広報キャンペーン(親・養育者向けのアドバイスを含む)を開始するべきである。
英国では2002年教育法により子どものセーフガーディングと福祉の促進が義務づけられており、「学校における子どもの安全の維持」(Keeping Children Safe in Education)と題する詳細なガイドラインが策定・改定されてきました(岡本正子ほか編著『イギリスの子ども虐待防止とセーフガーディング――学校と福祉・医療のワーキングトゥギャザー』明石書店・2019年など参照)。2017年には「学校・カレッジにおける子ども間の性暴力とセクシュアルハラスメント」(Sexual violence and sexual harassment between children in schools and colleges)に関するガイドラインも策定されています。
にもかかわらず、依然として学校やオンラインにおける性暴力が蔓延していることが明らかになりました。英国政府としても、今年1月に策定した「子どもの性的虐待への対処戦略」(Tackling Child Sexual Abuse Strategy)なども踏まえつつ、さらに対応を強化していくことが求められるでしょう。
日本でも教職員性暴力防止法(教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律)が6月4日に公布されましたが、ようやく第一歩を踏み出したばかりであり、子ども間の性暴力(セクシュアルハラスメント)への対応、セクシュアリティ教育の充実など、残された課題は少なくありません。英国の取り組みなどにも学びつつ、いっそう包括的な施策を進めていく必要があります。
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