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CSAM(子どもの性的虐待表現物)の規制状況:民間団体による国際的概観
アムステルダム(オランダ)に本部を置く団体 INHOPE(インターネットホットライン国際連盟)は、とくにネット上のCSAM(Child Sexual Abuse Material:子どもの性的虐待表現物)の根絶を目指して活動するネットワーク団体です。
その INHOPE が、2024年10月16日、61か国のCSAM規制法について概観した報告書を発表しました。
★ INHOPE Global CSAM Legislative Overview 2024
https://inhope.org/EN/articles/inhope-global-csam-legislative-overview-2024
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調査対象は、INHOPE加盟ホットライン(日本の場合はインターネット・ホットラインセンター)が置かれている49か国と、加盟ホットラインのないランサローテ条約(欧州評議会・性的搾取および性的虐待からの子どもの保護に関する条約)締約国12か国です。分析の結果道びだされた主要な知見(Key Insights)として、次の4点が挙げられています。
1.取り上げた国のほとんど(61か国中46か国)が、性的にあからさまな行動における子どもを表現する資料について、いまなお「児童ポルノ」(child pornography)という言葉またはポルノ的含意のあるその他の用語を使用している。
2.CSAMに関連するさまざまな態様のコンテンツおよび文脈の合法性については、これらの61か国全体で相当の違いがある。
3.デジタル生成CSAMは、取り上げた国のほとんど(61か国中40か国)で違法と見なされている。
4.CSAMの描画/マンガ/芸術的演出(drawings/manga/artistic interpretations of CSAM)はほとんどの国(61か国中44か国)で違法である。6か国では、合法かどうかの判断は厳密に文脈に基づいて行なわれており、コンテンツの写実性(realism)が共通する決定要因とされている。
以下、さまざまな態様のCSAMに関する同報告書の分析結果を報告書の要約版(Executive Summary)に基づいて紹介していきます。ただし、同報告書における「違法/違法ではない/文脈による」という分類は、必ずしも関連法の規定や実際の運用(裁判例を含む)を十分に踏まえたものにはなっていません。また、「違法」か「違法ではない」かの判断は文脈や状況によって異なる場合も少なくありませんが、それでも多くの国はそのどちらかに――全体としては「違法」寄りに――分類される傾向が見られるように思います。したがって、実態を知るためには、「61か国中〇か国」という数字を鵜呑みにせず、報告書の完全版や関連法の規定・運用状況を確認することが必要です。報告書は、そのための手がかりとして活用できるでしょう(以下では、具体的にどの国が「違法/違法ではない/文脈による」に分類されているかについての記述は基本的に省略しますので、詳細は報告書をご参照ください)。
CSAMの描画/マンガ/芸術的演出(drawings/manga/artistic interpretations of CSAM)
⇒ 44か国で違法。そのうち9か国では、このような表現物は違法と見なされるものの、文脈に依存する。6か国では、このような表現物の合法性は厳密に文脈に基づいて判断される。(p.19)
コンテンツの写実性(realism)が、当該表現物の合法性に関する共通の決定要因となっている。たとえばオーストリアでは、このようなコンテンツは、それが現実のものでないことが明らかである限り違法ではない。オランダでは、当該描画がいずれかの子どもの写実的表現(realistic representation)である場合に限って違法である。同様に、スウェーデンでは、高度に写実的な描画を頒布しまたは表示することは違法だが、そのような表現物を個人的使用目的で描きかつ保存することは違法ではない。コロンビアとルーマニアでは、このようなコンテンツは、実在の者または未成年者を描いたものでなければ違法とはならない場合がある。イタリアでは、このような表現物は一般的には違法ではないが、実際の子どもの虐待写真をもとに描かれた場合には違法と判断され得る。
CSAMの描画/マンガ/芸術的演出は、6か国では違法ではない。これらの6か国がヨーロッパに位置していることは注目すべき点である。4か国〔平野注/日本を含む〕ではこのような表現物は違法ではないと見なされるが、その合法性は最終的には文脈に依存する。日本では、このような表現物は法律上は違法とされていないが、2020年の裁判事案で、実在する裸の子どもを描いたコンピューターグラフィック画像は「児童ポルノ」に該当すると判示された〔平野注/令和2年1月27日最高裁決定〕。……
デジタル生成CSAM
⇒ 40か国で違法。そのうち5か国では、このような表現物は違法と見なされるものの、文脈に依存する。4か国では、このような表現物の合法性は厳密に文脈に基づいて判断される。(p.20)
……文脈が役割を果たす国では、実在の子どもが描写されているかどうかに国内法で焦点が当てられるのが一般的である。たとえばコロンビアとメキシコでは、コンテンツ自体は、実在の人物を描写していないため犯罪を構成しない。ただし、その合法性はさらに、補足的解釈または判例を通じ、裁判官の裁量に基づいて決定される。同様に、ルーマニアでは、当該コンテンツで未成年者が描写されていることが確実でなければ違法とはされない。
デジタル生成CSAMは、7か国では違法ではない〔平野注/日本を含む〕。ただし、日本では、当該コンテンツが実在の子どもを描写したものでなければ合法だが、性器があからさまに示されている場合、わいせつ画像に分類されるため違法となる。フィンランドでは、当該表現物が明白にデジタル生成物である場合、合法的と見なされる。
性的にあからさまな行為に従事する未成年者を表現する写実的画像
⇒ 大多数の国(51か国)で違法。そのうち3か国では、このような表現物は違法と見なされるものの、文脈に依存する(とくに当該画像が非常に写実的な子どもを描いたものである場合)。(p.21)
性的にあからさまな行為に従事する、成人のように見える未成年者
⇒ 61か国すべてで違法。そのうち7か国では、このような表現物は違法と見なされるものの、文脈に依存する。(p.22)
……ポーランドでは、当該人物の年齢を確認する信頼できる情報がない場合、このような態様のコンテンツに対しては何らの措置もとられない。アルゼンチンでは、当該個人が成人のように見える場合、当該画像は違法と見なされないことがある。一方でデンマークでは、当該人物が未成年者である可能性が非常に高いとホットラインのスタッフが判断した場合、当該表現物はCSAMとして扱われる。フランスとスロベニアでも、登場している人物が未成年者である証拠があるときは、このような表現物はCSAMとして処理される。
スウェーデンでは、合法かどうかは特定の犯罪行為が行なわれたかどうかによる。このようなコンテンツの製造に関して、登場人物の性的成熟度は、その者が18歳未満である限り無関係である。頒布、販売または所持のような行為については、登場人物が18歳未満であることが画像および文脈から明らかである場合に限り、刑事責任が問われる。
性的にあからさまな行為に従事する、未成年者のように見える成人
⇒ 27か国で違法。そのうち9か国では、このような表現物は違法と見なされるものの、文脈に依存する。(p.23)
……オーストリア、コロンビアおよびメキシコでは、登場人物の法的年齢がコンテンツでは認識不可能であるものの18歳未満であり得ることを示す要素があれば、当該表現物は違法と見なされる。とくにコロンビアとメキシコでは、そのような表現物をCSAMとして扱うことは、未成年者を保護するという法律の意図に合致するものである。同様に、フランスでは、登場人物が18歳以上である証拠がない場合または容易に未成年者と見なせる場合には、この態様のコンテンツはCSAMとして扱われる。
この態様のコンテンツの合法性は、2か国では厳密に文脈に依存する。このようなコンテンツは23か国で違法とされておらず、そのうち3か国〔平野注/日本を含む〕は、違法とは見なしていないものの文脈次第である。
子どものグルーミング:オフラインで(接触による犯罪を目的として)会うことを求めて行なう子どもへの勧誘
⇒ 大多数の国(55か国)で違法。そのうち5か国では、このような行為は違法と見なされるものの、文脈に依存する。(p.24)
子どものグルーミング:オンラインでの性的活動(性的会話、CSAMの製造、性的活動の鑑賞等を含む)を目的として行なう子どもへの勧誘
⇒ 大多数の国(55か国)で違法。そのうち3か国では、このような行為は違法と見なされるものの、文脈に依存する。(p.25)
子どもに対する性的強要(sexual extortion)または性的目的での子どもの勧誘
⇒ 59か国で違法。そのうち4か国では、このような行為は違法と見なされるものの、文脈に依存する。(p.26)
明らかに未成年者の自己製造による性的表現物(Apparent self-generated sexual material)
⇒ 51か国で違法。そのうち17か国では、このような態様のコンテンツは違法と見なされるものの、文脈に依存する。2か国では、このような表現物の合法性は厳密に文脈に基づいて判断される。(p.27)
……このような表現物の合法性は、関連する行為に基づいて決定されることが多い。たとえばハンガリーとウクライナでは、未成年者がこのような表現物を製造することは違法ではないが、それを共有しまたは配布することは違法である。デンマークでは、子どもが自己製造表現物を製造しもしくは配布すること、または15歳以上の者が自分自身のポルノグラフィー的資料を恋人と共有することは、違法ではない。ただし、他の者がこのような表現物を取得し、所持しかつ配布することは、その時点でCSAMと見なされるので、違法である。エストニアでも、子どもが自己製造表現物を製造することは違法ではない。ただし、そのような表現物を共有しまたは配布することは、それが自発的に、18歳未満の者の相互の同意を得て、もっぱら個人的使用のために、かついかなる支払いまたは報酬もなく行なわれた場合であって、これらの者による性的活動への関与が犯罪ではない場合を除き、違法である。同様に、クロアチアでも、自分たち自身が、1人ひとりの同意を得て、かつもっぱら個人的使用のために自分(たち)自身および他の子どもを描写した自己製造表現物を製造しかつ所持した場合には、このような表現物の製造および所持を理由として子どもが処罰されることはない。他方、スロベニアでは、自己製造表現物を製造した子どもが処罰されることは、たとえ当該表現物を配布した場合でも、ない。
性的側面を強調した(sexualised)未成年者のモデリングまたはポージング
⇒ 29か国で違法。そのうち9か国では、このような行為は違法と見なされるものの、文脈に依存する。6か国では、このような表現物の合法性は厳密に文脈に基づいて判断される。(p.28)
……チェコ共和国とイタリアでは、合法かどうかは製造の背後にあった意図次第である。とくにイタリアでは、この態様のコンテンツは、当該画像がもっぱら商業的目的または宣伝目的で製造・使用される場合には重罪とは見なされない。
このようなコンテンツは、12か国では違法ではない。4か国〔平野注/日本を含む〕では、このようなコンテンツは違法とは見なされないが、その合法性は最終的には文脈に依存する。日本では、このような表現物が違法とされるためには、「児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀でん部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの」という基準を満たしていなければならない。
性的側面を強調した子どもの画像
⇒ 40か国で違法。そのうち11か国では、このような行為は一般的に違法と見なされるものの、文脈に依存する。5か国では、このような表現物の合法性は厳密に文脈に基づいて判断される。(p.29)
※「性的側面を強調した」(sexualised)という文言の定義については、p.30でいくつかの国の法令が取り上げられている。
テキストによるCSAMの描写
⇒ 27か国で違法。そのうち9か国では、このような行為は一般的に違法と見なされるものの、文脈に依存する。4か国では、このような表現物の合法性は厳密に文脈に基づいて判断される。(p.31)
……ポルトガルでは、このような表現物は、テキストによるCSAMの描写が未成年者との会話の文脈で行なわれた場合に限って犯罪と見なされる。カンボジアでは、テキストによるCSAMの描写は、医学上の理由によるものである場合は違法の認定から免除される。チェコ共和国では、このような表現物が合法かどうかは当該人物の意図次第であり、個別事案ごとに評価される。フランスでは、CSAMを描写するテキストコンテンツが、フランス刑法で違法とされる、未成年者も利用可能なポルノグラフィー的または暴力的テキストとして捉えられる可能性もあるものの、現在の法的状況を理由として、このような態様のコンテンツを掲載するウェブサイトに対しては何らの行動もとれない。
創作テキスト(fictional text)によるCSAMの描写
⇒ 24か国で違法。そのうち10か国では、このような行為は違法と見なされるものの、文脈に依存する。5か国では、このような表現物の合法性は厳密に文脈に基づいて判断される。(p.32)
……たとえばジョージアでは、当該テキストが実話か創作かは問題とされず、性的内容をともなって子どもに意図的に向けられたものであえば、わいせつ行為(lewd act)と見なされる。
このようなコンテンツは、22か国では違法ではない。コロンビアでは、このような態様のコンテンツはその不適切さのために違法であるが、実在の人物を描写したものではないため犯罪には該当しない。同様に、タイでも、このようなコンテンツは法律上は違法でないが、有害コンテンツと見なされる可能性はある。
ペドフィリアまたはCSA(子どもの性的虐待)の賛美
⇒ 29か国で違法。そのうち12か国では、このような行為は違法と見なされるものの、文脈に依存する。(p.33)
……デンマークとエストニアでは、成人・子ども間の違法な性的接触について肯定的に言及されている場合、そのような行為を実際に行なうよう勧めていると捉え得るため、そのようなコンテンツは違法と評価される可能性がある。ドイツでは、「賛美」がコンテンツの広告に関連している場合、当該コンテンツは違法である。それが具体性を欠いた是認(endorsement)にすぎない場合は必ずしも違法ではないが、具体的な是認である場合、違法と見なされ得る。
1か国(タイ)では、合法かどうかは文脈に依存する。より具体的には、タイではペドフィリアまたはCSAの賛美が法律で明示的に違法とされているわけではなく、コンテンツのひどさ(severity)を分析して、当該行為が法律に違反するかまたは社会にとって有害であるかをさらに判断しなければならない。
CSAに関するマニュアル
⇒ 36か国で違法。そのうち10か国では、このような行為は一般的に違法と見なされるものの、文脈に依存する。(p.34)
CSAを行なうという宣言
⇒ 34か国で違法。そのうち12か国では、このような行為は違法と見なされるものの、文脈に依存する。(p.35)
……デンマークでは、特定の子どもに対してCSAを行なうという宣言はデンマーク法に基づき違法である一方、CSAを行ないたいという一般的宣言は違法ではない。スウェーデンでは、子どもの性的虐待を行なうことについて話すことが一般的に禁止されているわけではないが、15歳未満の子どもに対して性的行為を行なう目的で子どもと会うことを提案しまたは子どもと会うことについて合意した場合、罪(性的目的での子どもとの接触)に問われる可能性がある。
音声CSAM:CSAの録音
⇒ 30か国で違法。そのうち5か国では、このような行為は違法と見なされるものの、文脈に依存する。2か国では、このような表現物の合法性は厳密に文脈に基づいて判断される。(p.36)
音声CSAM:CSAMの場面の語り/再現(story telling/retelling)
⇒ 27か国で違法。そのうち8か国では、このような行為は違法と見なされるものの、文脈に依存する。(p.37)
医学的文脈における画像
⇒ 3か国のみで違法。(p.39)
……ポルトガルでは、このような画像は一般的に違法と見なされるものの、それでも合法かどうかはさらなる文脈に依存し得る。たとえば、当該画像が同意を得てまたは学術的目的で撮られたものではない場合、子どもの性器に焦点を当てたものという基準カテゴリーに分類され、違法と見なされる。
CSAMを含むシリーズ画像のなかの、あからさまではない画像(non-explicit images)
⇒ 15か国で違法。そのうち2か国では、このような行為は一般的に違法と見なされるものの、文脈に依存する。(p.40)
……ドイツでは、全面的または部分的に衣服を身に着けており、かつ性的側面を強調するやり方でポーズをとる子どもが当該画像に含まれている場合、当該画像はCSAMと見なされる。そうでなければ、当該画像は違法ではない。フランスでは、ホットラインがシリーズの一部である画像にアクセスし、またはある画像がシリーズの一部である旨を知らされた場合、当該画像は違法なものとして扱われる。シリーズとは違法な活動を描写する複数の画像のことを指し、一部の画像は、個別に評価したときは違法ではないかもしれないが、シリーズに含まれる他の違法な画像によって用意される文脈を理由として、違法となる。
性的性質のコメントまたはキャプションが付された、あからさまではない画像
⇒ 21か国で違法。そのうち3か国では、このような行為は違法と見なされるものの、文脈に依存する。(p.41)
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