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児童虐待防止推進月間――文科相が子どもたち向けのメッセージを発表(したけれど……)

 11月は「児童虐待防止推進月間」です。今年もさまざまな啓発活動が予定されています(厚生労働省の報道発表資料参照)。今年は子ども向けのポスター等の広報資料も作成されました。

・ポスター

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・パンフレット(全16ページ)の一部

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※厚生労働省の報道発表資料には子ども向け啓発資料としてA4リーフレット(表/裏)の画像も掲載されていますが、リンク先は一般向け普及啓発資料と同じファイルなので、速やかな修正が待たれます(追記:投稿翌日の午後7時過ぎに確認したところ、修正されていました)。また、昨年の「児童虐待防止推進月間」に向けて開設したページはなかなかよくできているので、そこに今回の子ども向けポスターをはじめとする資料も掲載して情報の集約を図るなど、いっそう工夫していただきたいと思います。/追記こちらに新しいページができていました。

 文部科学大臣も、2019年以降、児童虐待防止推進月間にあわせて「児童虐待の根絶に向けて ~地域全体で子供たちを見守り育てるために~」という保護者・学校関係者・地域住民向けのメッセージを発信するようになりましたが(文部科学省〈児童虐待〉のページ参照)、今年は子どもたち向けのメッセージも発表されました(2019年3月19日に「全国児童生徒の皆さんへ~安心して相談してください~」というメッセージが発表されていますが、児童虐待防止推進月間にあわせた子ども向けメッセージはこれが初めてのようです)。

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全国の子供たちへ
大人からたたかれたり、ひどいことを言われたりしていませんか。
これらのことで、あなた自身や、お友達が困っていたら、一人で悩まず、
学校の先生やスクールカウンセラーなど周りの大人に相談してください。
もし、直接相談しにくい、というときは、
「189」(“いちはやく”)に電話してください。24時間つながります。
虐待を専門的に見ている人が、あなたの話を聞いてくれます。
その他にも、文部科学省HPでは虐待をはじめ、様々な悩みや不安を電話やSNSで相談できる窓口を紹介しています。

https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/06112210.htm

令和3年11月
文部科学大臣
末松信介

* 引用者注/ふりがなとQRコードは省略。

 一定の評価を与えたいところですが、いまなおこのようなレベルに留まっているのでは、単に“やってる感”を出そうとしているにすぎないと考えざるをえません。

 第1に、ここで例示されているのは身体的暴力と暴言のみで、児童虐待防止法が定めるそれ以外の虐待(暴言には該当しない心理的虐待、ネグレクト、性的虐待など)には触れられていません。この点は厚生労働省の子ども向け啓発資料も同様ですが、身体的暴力や暴言以外の虐待についても相談してよいことを、「様々な悩みや不安」という抽象的な表現に留めず、具体的に伝えていく必要があります。保護者・学校関係者・地域住民向けのメッセージには、
〈虐待は、殴る、蹴るといった身体的虐待だけではありません。言葉で脅す、無視するなどの心理的虐待、家に閉じ込める、食事を与えない、ひどく不潔にするなどのネグレクトや性的虐待もあります。いずれも子供たちの心身に深い傷を残します〉
 ときちんと書いてあるのですから。

 第2に、学校における身体的・心理的・性的暴力も同様に問題であることを伝えようとする姿勢がありません。児童虐待防止法の適用対象外とはいえ、学校で「大人からたたかれたり、ひどいことを言われたり」している子どももたくさんいるのですから、学校での暴力も許されないということを明確に発信するべきです。何のために、子どもに対する暴力の問題に総合的に取り組んでいくための一歩となるべき子どもに対する暴力撲滅行動計画を策定し、また教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律を制定したのでしょうか。教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律には、次のとおり児童生徒等に対する啓発義務も定められているのです(太字は平野による)。

(児童生徒等に対する啓発)
第14条 国、地方公共団体、学校の設置者及びその設置する学校は、児童生徒等の尊厳を保持するため、児童生徒等に対して、何人からも児童生徒性暴力等により自己の身体を侵害されることはあってはならないことについて周知徹底を図るとともに、特に教育職員等による児童生徒性暴力等が児童生徒等の権利を著しく侵害し、児童生徒等に対し生涯にわたって回復し難い心理的外傷その他の心身に対する重大な影響を与えるものであることに鑑み、児童生徒等に対して、教育職員等による児童生徒性暴力等により自己の身体を侵害されることはあってはならないこと及び被害を受けた児童生徒等に対して第20条第1項(第21条において準用する場合を含む。)の保護及び支援が行われること等について周知徹底を図らなければならない

 第3に、虐待をはじめとする暴力から守られるのは子どもの権利であることにも触れられていません。子どもの権利について子どもたちに伝えたくないのではないかと勘繰ってしまいますが、もはや許されない不作為です。せっかく厚生労働省が子ども向け啓発資料を作成したのですから、省庁の垣根を超えて、子ども向けメッセージのページにも掲載するべきでしょう。学校関係者に対しても、学校におけるポスターの掲示、子どもたちへのリーフレット等の配布を積極的に推奨することが求められます。これはすぐにでもできることですし、やるべきことです。

 ちなみに、保護者・学校関係者・地域住民向けメッセージの2020年版(萩生田光一文相名)2021年版(末松信介文相名)を比較してみたところ、だいたい同じ文言ですが、若干の違いがありました。以下、参考までに2021年版での主な修正点を太字で示します。保護者に対し、
〈心に余裕がない時はストレスの解消など、皆さま自身が休むことも大切です。〉
 と新たに呼びかけているのはよいと思います。

●2020年版
 11月は児童虐待防止推進月間です。
 子供たちへの虐待は、児童相談所の相談対応件数が増加するなど、依然として極めて深刻な状況です。今般の新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響から、生活不安やストレス等に伴い、児童虐待のリスクが高まることも懸念されています。児童虐待により子供たちが傷つき、亡くなるようなことは、何としても無くさなければなりません。
 虐待は、殴る、蹴るといった身体的虐待だけではありません。言葉で脅す、無視するなどの心理的虐待、子供を残して外出する、自動車の中に放置する、食事を与えないなどのネグレクトや性的虐待もあります。いずれも子供たちの心身に深い傷を残します。
 保護者の皆さま、大切なお子さまの健やかな成長のため、「虐待はしない」と誓ってください。子育てに不安や悩みがある時には、身近な人に相談したり、自治体の相談窓口等を頼ってください。
 学校関係者の皆さま、日頃から子供たちと接する中で、児童虐待と疑われる事案に気付いた際は、速やかにチームとして対応し、市町村や児童相談所に通告するとともに、関係機関と連携して対応してください。
 地域で子供たちと接する皆さま、是非、子供たちの様子に関心を持って見守ってください。日々の活動やつながりの中で児童虐待と疑われる事案に気付いた際は、最寄りの児童相談所に繋がる全国共通ダイヤル「189」(“いちはやく”)に相談・通告してください。
 児童虐待の防止には、家庭・学校・地域が一丸となって子供たちを見守り、育てることが重要です。文部科学省としても、関係省庁とともに取組を推進してまいります。皆さまの御理解と御協力を心からお願い申し上げます。

●2021年版
 11月は児童虐待防止推進月間です。
 子供たちへの虐待は、児童相談所の相談対応件数(速報値)が初めて20万件を超えるなど、極めて深刻な状況です。新型コロナウイルス感染症の影響による生活不安やストレス等に伴い、児童虐待のリスクが一層高まっています。児童虐待により子供たちが傷つき、亡くなるようなことは、何としても無くさなければなりません。
 虐待は、殴る、蹴るといった身体的虐待だけではありません。言葉で脅す、無視するなどの心理的虐待、家に閉じ込める、食事を与えない、ひどく不潔にするなどのネグレクトや性的虐待もあります。いずれも子供たちの心身に深い傷を残します。
 保護者の皆さま、大切なお子さまの健やかな成長のため、「虐待はしない」と誓ってください。心に余裕がない時はストレスの解消など、皆さま自身が休むことも大切です。子育てに不安や悩みがある時には、身近な人に相談したり、自治体の相談窓口等を頼ったりしてください。
 学校関係者の皆さま、日頃から子供たちと接する中で、児童虐待と疑われる事案に気付いた際は、速やかにチームとして対応し、市町村や児童相談所に通告するとともに、関係機関と連携して対応してください。
 地域の皆さま、是非、子供や保護者の様子に関心を持って見守ってください。不自然な傷のある子供や子供の養育に無関心な保護者など、虐待が疑われるサインに気付いた際は、最寄りの児童相談所に繋がる全国共通ダイヤル「189」(“いちはやく”)に相談・通告してください。
 児童虐待の防止には、家庭・学校・地域が一丸となって子供たちを見守り、育てることが重要です。文部科学省としても、関係省庁とともに取組を推進してまいります。皆さまの御理解と御協力を心からお願い申し上げます。

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平野裕二
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