
パキスタンがイスラマバード首都圏で学校・施設等における子どもの体罰を禁止
パキスタンで体罰の全面禁止に向けた動きが出ていることを昨年(2020年)2月にFacebookでお知らせしました。投稿内容を再掲しておきます。
★ Dawn: IHC bans corporal punishment for children under the age of 12
https://www.dawn.com/news/1534226
イスラマバード高等裁判所(パキスタン)は、子ども(12歳未満)に対する体罰を認めたパキスタン刑法第89条の効力をイスラマバード首都圏(連邦直轄地域)において一時停止する旨の命令を言い渡しました(2月13日)。シンガーで人権活動家のシェザード・ロイ(Shehzad Roy)氏による申し立てを受けたものです。
パキスタン刑法第89条では、保護者または子どもに法的責任を負うその他の者(教員を含む)が12歳未満の子どもまたは精神障害者等に対して行なう体罰は、それが「(本人の)利益のために誠実に」(in good faith for the benefit of a person)行なわれた場合には犯罪にならない旨、定められています(規定の詳細は Geo TV の記事を参照)。
https://www.geo.tv/latest/272101-ihc-bans-corporal-punishment-in-federal-capital-territory
イスラマバード高裁は今回、「パキスタン刑法(1860年)第89条の規定にかかわらず、体罰は、憲法上保障された尊厳の不可侵に対する権利と一致しない」と指摘し、追って通知するまで同規定の効力を停止すると決定しました。そのうえで、パキスタン人権相に対し、「体罰の禁止との関連における国連・子どもの権利条約上のパキスタンの義務の遵守状況」について、3月5日までに報告するよう命じています。また、私立教育施設規制庁が裁判所の見解を踏まえて私立学校向けのガイドラインを発布するように促すことも、連邦政府に対して指示しました。
(中略)
なお、今回の申し立ては昨年(2019年)9月にラホールの学校で起きた体罰死事件を契機として行なわれたものです。たとえば次の記事を参照。
★ Human Rights Watch: End Corporal Punishment in Pakistan's Schools
https://www.hrw.org/news/2019/09/16/end-corporal-punishment-pakistans-schools
上記の高裁決定から約1年後の今年(2021年)2月23日、パキスタン国民議会(下院)は、イスラマバード首都圏体罰禁止法案(ICT Prohibition of Corporal Punishment Bill)を可決しました。
1)The Guardian: Pakistan passes 'historic' bill banning corporal punishment of children
https://www.theguardian.com/global-development/2021/feb/26/pakistan-passes-historic-bill-banning-corporal-punishment-of-children
2)Dawn: 'Historic': NA passes bill to ban corporal punishment in the capital
https://www.dawn.com/news/1608981
3)Images: A gift to Pakistan's children, says Shehzad Roy on corporal punishment being banned in Islamabad
https://images.dawn.com/news/1186619/a-gift-to-pakistans-children-says-shehzad-roy-on-corporal-punishment-being-banned-in-islamabad
4)Dawn: US welcomes Islamabad ban on corporal punishment
https://www.dawn.com/news/1609873
イスラマバード首都圏に限定された法案ではありますが、体罰禁止キャンペーンに取り組んできた人々は、やがて全国に適用されるようになるのではないかとの希望を表明しています。
法案(PDF)第3条の規定は次のとおりです。なお、「子ども」は18歳未満の者と定義されています(第2条)。
(1)子どもは、その人格および個性に対して敬意を表される権利を有し、体罰または他のいかなる屈辱的なもしくは品位を傷つける取扱いの対象とされない。
(2)パキスタン刑法(1860年)第89条および現在施行されている他のいずれかの法令に掲げられたいかなる規定にもかかわらず、あらゆる形態の子どもの体罰は、職場、学校その他の教育施設(公立か私立かを問わず、フォーマルな教育施設、ノンフォーマルな教育施設および宗教教育施設を含む)、子どもの養護施設(公立か私立かを問わず、里親養育、リハビリテーションセンターおよび他のいずれかの代替的養護現場を含む)および少年司法制度において禁じられる。
(3)子どもに関する規律措置は、子どもの尊厳にしたがってとられる場合に限って認められ、いかなる事情があるときも、体罰、または子どもの身体的および精神的発達に関連する罰もしくは子どもの情緒的状態に影響を及ぼす可能性のある罰は認められない。
第4条(1)では「本法第3条の規定に違反したいかなる者」も刑法にしたがって処罰される旨が規定されており、親によるものも含む体罰が全面的に禁じられたようにも解釈できます。しかし第3条(2)では「家庭」への明示的言及がなく、他に親・養育者に対する具体的言及もないことから、そのように理解することは難しいかもしれません。
とはいえ、学校や施設での体罰が明示的に禁じられ、違反した学校教職員・施設職員等に対する罰則も具体的に規定された(第4条(2))ことが大きな一歩であるのは間違いありません。上院でも可決されたという報道は現時点で見当たらず、法律の成立・施行に至ったかどうかは不明ですが、法律の着実な実施と全国的展開を望みます。
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