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子どものインターネット利用に関する研究の国際的状況
少し前(2021年2月)の話になりますが、ユニセフ(国連児童基金)・イノチェンティ研究所は、『デジタル世界における子どもにとってのリスクと機会の調査:子どもたちのインターネット利用と影響に関するエビデンスの迅速レビュー』(Investigating Risks and Opportunities for Children in a Digital World: A rapid review of the evidence on children's internet use and outcomes)と題するディスカッションペーパーを発表しました。
執筆者は、いずれもロンドン・スクール・オブ・エコノミクスに籍を置く3人の研究者(Mariya Stoilova, Sonia Livingstone and Rana Khazbak)です。とくにソニア・リビングストン教授とマリヤ・ストイロバ博士は、この分野での優れた実績で知られています。
今回のディスカッションペーパーは、次の7つのリサーチテーマに沿って、関連する最近の研究をレビューしたものです。
1)アクセス
2)活動と機会
-活動と機会一般
-デジタルヘルス(健康およびライフスタイルを維持・改善するためのインターネットおよびデジタル技術の利用)
-デジタルシティズンシップ(子どもの政治的関心、市民的アイデンティティおよび政治への関与の発展におけるデジタル技術の役割など)
3)デジタルスキル
4)オンラインのプライバシー
5)オンラインの危害のリスク
-オンラインのリスクとの接触
-否定的コンテンツの閲覧
-苦痛を与える行動といじめ(ネットいじめ/ネット上の第三者/ネット上のヘイト、差別および暴力的過激主義)
6)オンラインの性的活動とリスク
-性的コンテンツの閲覧または共有
-オンラインの性的搾取・虐待(オンラインの性的勧誘/性的強要/オンラインでの親密なパートナー間の暴力)
7)精神的な健康とウェルビーイング
ディスカッションペーパーのp.15に掲載された一覧表を見ると、危害のリスク関連の研究は多数行なわれている一方、デジタルスキルに関する研究はまだまだ数が少ないことなど、研究分野に偏りがあるのが見て取れます。このような研究上の間隙を特定して埋めていけるようにすることが、今回の迅速レビューの主要な目的です。
今回のレビューで得られた知見を網羅的に紹介する余裕はありませんが、保護因子(protective factors)に関する知見の要約(p.9)のみ訳出しておきます。
何がオンラインでの否定的な経験および危害から子どもたちを保護しうるかに関するエビデンスは限定的である。探索的研究のなかには、社会的支援および周囲の人々との子どもの肯定的関係が保護因子として機能しうることを示唆するものがある。このような社会資源を持たない子どもは、二重の不利益に直面する――このような子どもは、オンラインのリスクを経験する可能性がより高く、助けを求める可能性はより低い。
保護因子はオンラインのリスクの種別によって異なる可能性がある(ただし、既存のエビデンスで取り上げてられているのは少数のリスクのみである)。たとえば、親との肯定的関係、親による子どもの活動のモニタリング、教員による配慮、校則の執行、より高い自己効力感、自信およびレジリエンスはいずれも、ネットいじめに関わる保護因子である。ネット上のデートDVに関しては、親によるモニタリングと情緒的結びつきが保護因子となりうる。
親、教員および仲間からの励ましと支援は、子どもがより自信に満ちたインターネットユーザーになるのに役立つ可能性がある。年少の子どもにとってはなおさらである。親は、子どもがオンラインで過ごす時間を限定するなどの制限を課すことにより、リスクを低減させられる。ただし、そのような対応は子どものスキルの発達を妨げ、機会を阻害することにもつながりうる。
自分のプライバシーに関心があり、オンラインのリスクについて理解している子どものほうが、安全な方策をとっている。親・教員とプライバシーについて話し合うことは、プライバシーに関わる子どもの行動に肯定的な影響を与える。
オンラインにおける子どもの保護は、より一般的な(すなわちオフラインでの)支援的子育てを組み合わされた場合に、さらに有効なものとなる。たとえば、ネットいじめに関して蓄積されつつあるエビデンスが示すところによれば、親との全般的関係と、子どもの日常的活動のオフラインにおける一般的モニタリングは――オンラインでの子どもの活動をとくにモニタリングすることよりも――ネットいじめのリスクを低減させる。
今後の研究課題はいくつも挙げられていますが、とくに
「子どものインターネット利用の肯定的影響についてもっと学ぶ必要がある。インターネット利用の機会および利点を探求しているのは、〔今回のレビューのために〕検索によって特定された研究の5分の1(359件中79件)にすぎない。対照的に、特定のオンラインのリスク――とくに過度なインターネット利用、ネットいじめ、ギャンブルおよび問題のあるゲーム行動――との子どもの遭遇は、研究文献で大きな位置を占めている」
「近年のエビデンスを補完するため、子ども中心の調査手法が緊急に必要とされている。私たちはまだ、子どもたちがこれらの問題をどのように考えているかについて十分理解していない。……とくに、研究者は、子どもたちがオンラインの経験を自分たち自身の言葉で話せるような研究をもっと実施するべきである」
などの指摘(pp.10-11)については、今後の研究の進展を期待したいと思います。
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