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国連事務総長、武力紛争における子どもの人権侵害当事者リストにイスラエル軍とパレスチナ武装勢力を追加

 国連は、6月13日、事務総長が総会と安全保障理事会(安保理)に毎年提出している「子どもと武力紛争」についての報告書(A/78/842-S/2024/384)を公表しました。子どもと武力紛争に関する国連事務総長特別代表事務所がリリースを出しています(リリース本文の冒頭には "New York, 11 June 2024 " とありますが、リリースの掲載日は13日です)。

★ 2023: Alarming levels of violence inflicted on children in situations of armed conflict
https://childrenandarmedconflict.un.org/2024/06/2023-alarming-levels-of-violence-inflicted-on-children-in-situation-of-armed-conflict/

 報告書の概要は、たとえばAFP〈子どもの権利侵害、23年急増 ガザとスーダン危機背景 国連報告書〉で比較的よくまとめられています。

 今回の報告書では、「安全保障理事会の議題とされている武力紛争状況下で子どもに影響を及ぼす重大な侵害を行なっている当事者」リストにイスラエル(軍)などが新たに追加されています。そのことは報告書の公開以前に明らかになっていたので(東京新聞時事通信の記事など参照)、Facebookでとりいそぎ取り上げておきました。

 次の画像のとおり、「イスラエルおよび被占領パレスチナ地域における当事者」としてイスラエル軍および治安部隊が追加されています(報告書p.46)。右肩に付されているアルファベットの b は「子どもの殺害/子どもに障害を負わせる行為を行なっている当事者」、d は「学校または病院への攻撃を行なっている当事者」であることを意味します

 あわせて、パレスチナ・イスラム聖戦のアルクッズ旅団(Palestinian Islamic Jihad’s Al-Quds Brigades)とハマスのイッザルディン・アル・カッサム旅団(Izz al-Din al-Qassam Brigades)および提携勢力も、非国家武装集団(Non-state armed groups)としてリストに追加されました(p.47)。右肩のアルファベットの e は「子どもを拉致している当事者」を意味します。

 リストへの追加について説明したパラグラフを訳出しておきます(「私」は国連事務総長を指します)。

351.イスラエルおよび被占領パレスチナ地域では、イスラエル軍および治安部隊が、子どもの殺害および子どもに障害を負わせる行為ならびに学校・病院への攻撃を理由として、リストに掲載されている。2023年の最初の9か月間における子どもに対する人権侵害の減少(これは、子どもがガザ地区外で治療を受けることの速やかな承認をめぐる私の特別代表との直接の交渉によるものである)には留意しつつも、2023年の最後の四半期には、とくにガザ地区の子どもに対する人権侵害、とくに広域効果を有する爆発性武器の使用(人口密集地における使用を含む)が極度に増えし、多数の子どもの死傷および学校・病院への攻撃の増加が生じた。私は、子どもの殺害および子どもに障害を負わせる行為ならびに学校・病院への攻撃を終わらせかつ防止するための国連との行動計画にただちに調印することを、イスラエルに促す。さらに、子どもに対する人道アクセスの否定はリスト化対象の人権侵害ではないものの〔後掲の注参照〕、私は、国際人道法・人権法に基づく義務を遵守すること、そして人道援助物資および人道援助ワーカーに対し、ガザ地区全域で安全・迅速かつ妨害のないアクセスを確保することを、イスラエル軍および治安部隊に促す。私は、イスラエルに対し、子どもの保護を向上させるための措置を整備できるよう、私の特別代表との協働を加速させることを要請するものである。
(中略)
355.イスラエルおよび被占領パレスチナ地域では、ハマスのイッザルディン・アル・カッサム旅団および提携勢力とパレスチナ・イスラム聖戦のアルクッズ旅団が、2023年10月7日のイスラエルに対する残忍なテロ行為を受けて、子どもの殺害および子どもに障害を負わせる行為ならびに子ども拉致を理由として、リストに掲載されている。私は、子どもに対する重大な人権侵害を緊急に終わらせかつ防止することを、武装集団であるハマスのイッザルディン・アル・カッサム旅団および提携勢力ならびにパレスチナ・イスラム聖戦のアルクッズ旅団に促す。

平野注/武力紛争状況下で子どもに対して行なわれる重大な人権侵害は、(a)子どもを殺害する行為/子どもに障害を負わせる行為、(b)子どもの徴募/兵士としての使用、(c)子どもに対する不同意性交その他の形態の性暴力、(d)子どもの拉致、(e)学校または病院への攻撃、(f)子どもを対象とする人道アクセスの否定の6つに類型化されて国際的なモニタリングの対象とされていますが、パラ351の記述によると、(f)人道アクセスの否定はリスト掲載の基準としては用いられていないようです。

 なお、イスラエルおよび被占領パレスチナ地域の状況については、報告書のパラ94~117で詳細に説明されています(追記:日本経済新聞=ニューヨーク共同〈国連、イスラエルを「子どもの人権侵害国」に初指定〉なども参照)。

 今回の報告書の公開と時期を同じくして、被占領パレスチナ地域(東エルサレムを含む)とイスラエルに関する独立国際調査委員会の報告書も発表されました(6月12日)。

★ Israeli authorities, Palestinian armed groups are responsible for war crimes, other grave violations of international law, UN Inquiry finds
https://www.ohchr.org/en/press-releases/2024/06/israeli-authorities-palestinian-armed-groups-are-responsible-war-crimes

 こちらの報告書のプレゼンテーションは、6月18日からジュネーブで開催される国連人権理事会第56会期で行なわれます。報告書の概要についてはたとえば次の報道も参照。

-AFP:イスラエルとハマス双方の戦争犯罪を報告 国連調査委員会
https://www.afpbb.com/articles/-/3523972

-ANN:独立調査委「イスラエルとハマス双方が戦争犯罪」
https://www.youtube.com/watch?v=3QXvpU52FPc

 6月10日には、ガザ地区における即時停戦、人質の全面解放、ガザ地区の復興に向けた取り組みなどを段階的に進めていくことを求めた国連安保理決議2735(2024)が、理事国15か国中14か国の賛成で採択されました(ロシアのみ棄権;毎日新聞NHKの報道も参照)。これをきっかけとして速やかな停戦が実現されることを切に希望します。

【参考】
 昨年の報告書ではロシア軍および提携武装集団がリストに新たに追加され、Facebookでも取り上げたので、参考までに以下に採録しておきます。ロシア軍および提携武装集団は、今年の報告書でも引き続きリストに掲載されています(p.49)。

1)ロイター:ロシア軍を犯罪者リストに、ウクライナで昨年子供136人殺害=国連(6月23日配信)
https://jp.reuters.com/article/ukraine-crisis-children-un-idJPKBN2Y900Y

2)産経新聞:ロシアを「子供の権利侵害国」に 国連が報告書公表へ(6月25日配信)
https://www.iza.ne.jp/article/20230625-TTY47HKKMRITZFOE3D6QZCRXJY/

3)(追記)毎日新聞:ロシアを子どもの人権侵害「恥ずべきリスト」に追加 国連報告書
https://mainichi.jp/articles/20230628/k00/00m/030/024000c

 グテーレス国連事務総長が国連安全保障理事会に提出した報告書(6月5日付/6月27日公表)は↓から参照できます。
https://childrenandarmedconflict.un.org/document/secretary-general-annual-report-on-children-and-armed-conflict-2/
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 ロシア軍および提携武装集団については、添付文書II〈安全保障理解の議題事項とされていない武力紛争状況またはその他の状況において子どもに影響を及ぼす重大な侵害を行なっている当事者〉のB(報告対象期間中に子どもの保護を向上させるための措置を導入した当事者リスト)に、ウクライナにおける当事者として掲載されました(p.48;添付画像参照)。b は「子どもの殺害/子どもに障害を負わせる行為」を行なった当事者、d は「学校または病院への攻撃」を行なった当事者であることを意味します。

 ロシア軍および提携武装集団がリストに追加されたことについては、報告書のパラ340で説明されています。A(報告対象期間中に子どもの保護を向上させるための措置を導入しなかった当事者リスト)ではなくBに掲載されたのは、子どもと武力紛争に関する事務総長特別代表との対話にいちおう応じているためのようです(報告書のパラ322も参照)。同特別報告者は最近ロシアを訪問し、政府関係者と話し合いを持っています(2023年5月18~19日;↓の記事参照)。
https://childrenandarmedconflict.un.org/2023/05/un-special-representative-of-secretary-general-for-children-and-armed-conflict-concluded-visit-to-the-russian-federation/

 なお、リストへの掲載には至っていませんが、冒頭の記事でも触れられているように、事務総長はウクライナ軍による子どもの殺害や学校・病院への攻撃についても懸念を表明しています(報告書のパラ341)。ウクライナにおける子どもの被害に関する詳細は、報告書のパラ311~326(pp.37-38)参照。

 あわせて、昨年12月にnoteに投稿した〈ウクライナで依然として続く子どもの権利侵害:国連・独立国際調査委員会などが報告〉などもご参照ください。

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平野裕二
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