見出し画像

国連・子どもの権利委員会とILOが「児童労働反対週間」にあたり共同声明を発表

 ひとつ前の記事でも触れておいたとおり、今年(2021年)は国連が指定する児童労働撤廃国際年です。6月12日の「児童労働反対世界デー」をはさむ6月10~18日が「児童労働反対週間」に位置づけられ、国内外で活発な取り組みが行なわれました。

 同週間の最終日にあたる6月18日、国連・子どもの権利委員会とILO(国際労働機関)が共同声明を発表しましたので、全訳しておきます。

――――――――――――――――――――――――――――――――――
「児童労働反対週間」(2021年6月10-18日)を記念する子どもの権利委員会と国際労働機関の共同声明

 今回の児童労働反対週間にあたり、ILOと子どもの権利委員会は、子どもたちの権利を保護し、かつ、国連・持続可能な開発目標のSDGターゲット8.7にのっとって2025年までに児童労働を撤廃することに向けた進展を加速するための、緊急の行動を呼びかけます。

 ILO-ユニセフによる最新の国際的推定によれば、児童労働に従事する子どもの絶対数は20年ぶりに増加して1億6000万人に達しており、行動の必要性はこれまでになく高まっています――とくに、この4年で児童労働に従事する子どもが1660万人増えたサハラ以南のアフリカにおいては、なおさらです。

 国際的に進展が見られなかった背景にはCOVID-19〔新型コロナウイルス感染症〕パンデミックがあります。緊急の措置がとられなければ、このパンデミックによってさらに数百万人の子どもが児童労働へと追いこまれることになるでしょう。

 この傾向を逆転させるためには、子どもの権利を経済・社会政策の中心に位置づけるという決意を各国が新たにすることが必要になります。良質な教育、保健ケア、社会的保護、十分な生活水準、そして自己に影響を与える決定において意見を聴かせることに対する子どもの権利の実現は、児童労働から自由である権利にとって欠かせません。子どもの権利の尊重は、経済的・社会的発展にとってもきわめて重要です。そうすることにより、子どもたちが将来大人になったときに、生産的かつディーセントな(働きがいのある人間らしい)仕事にアクセスできるようになるからです。

 しっかりした法的保護を効果的に執行することも決定的に重要です。各国は、子どもの権利条約ならびにILO第138号条約(最低年齢)および第182号条約(最悪の形態の児童労働)に基づき、種々の立法上・行政上・社会上・教育上の措置のなかでもとくに就労または雇用に関する最低年齢を設定・執行することなどの手段により、子どもを児童労働から保護する義務を負っています。第182号条約はすべての加盟国による批准を達成した初めてのILO条約であり、また子どもの権利条約は史上もっとも普遍的に受け入れられている人権協定です。

 私たちは、児童労働との闘いにおける重大な局面に立たされています。ILOの児童労働基準、同機関の三者構成的性格および子どもの権利条約は、失われた機運を回復させうる政策対応のための、十分に検証された確固たる基盤を提供するものです。アフリカにおける難局の打開に対して、また村落部の親を対象とする社会的保護およびディーセントワークへのアクセスの拡大に対して特段の注意を向けることが、きわめて重要です。

 今年の「児童労働撤廃国際年」は、各国政府、地域・国際機関、民間セクター、労働組合、市民社会組織、研究・学術機関間の国際的な協力およびパートナーシップを強化する貴重な機会です。根本的原因への対処および子どもの権利の保護にあらためて焦点を当てることにより、児童労働の撤廃につながる軌道に復帰することが可能になります。
――――――――――――――――――――――――――――――――――

 この共同声明でも指摘されているように、「子どもの権利を経済・社会政策の中心に位置づけ」、包括的な取り組みを進めていくことが何よりも重要です。

 なお、共同声明では「子どもたちが将来大人になったときに、生産的かつディーセントな(働きがいのある人間らしい)仕事にアクセスできるようになる」と述べられていますが、不用意な記述だと言わざるを得ません。最低就労年齢に達した青少年には、18歳未満であっても適切な条件下で働く権利があるからです。委員会自身、「思春期における子どもの権利の実施」に関する一般的意見20号(2016年)で次のように強調しています(太字は平野)。

85.年齢にふさわしい形態の労働への導入は、思春期の子どもの生活において重要な発達上の役割を果たすのであって、これによって思春期の子どもはスキルを身につけるとともに、責任を学ぶこと、ならびに、必要なときは、家族の経済的安寧に貢献し、かつ自らの教育へのアクセスを支えることができるようになる。児童労働に反対する行動は、学校から労働への移行、社会的および経済的開発、貧困根絶プログラム、および、良質かつインクルーシブな初等中等教育への普遍的かつ無償のアクセスを含む、包括的措置から構成されるべきである。思春期の子どもには、国内法上の最低就労年齢(これは国際基準および義務教育に整合したものであるべきである)に達した段階で、教育ならびに休息、余暇、遊び、レクリエーション活動、文化的生活および芸術に対する権利を正当に尊重されながら、適切な条件下で軽易労働を行なう権利があることを強調しておかなければならない。
86.委員会は、各国が、思春期の子どもの生活において労働が果たす積極的役割と、義務教育に対する思春期の子どもの権利を差別なく確保することとの間でバランスをとることに向けた経過的アプローチをとるよう勧告する。学校教育およびディーセントワークへの導入は、思春期の子どもの生活において、その年齢にしたがって両方を促進するための調整が図られるべきであり、またそのような労働を規制し、かつ思春期の子どもが搾取の被害を受けた場合に救済措置を与えるための効果的機構が導入されるべきである。18歳未満のすべての子どもを危険な労働から保護する旨を、具体的な有害労働の明確な一覧とともに規定することが求められる。有害な労働および労働条件を防止することに向けた努力が、家事労働に従事している女子およびその他のしばしば「不可視化された」労働者に特段の注意を払いながら、優先課題として行なわれるべきである。

 委員会は、自らが表明したこのような見解をもっと認識したうえで、児童労働に関する見解を表明するべきでしょう(なお、適切な最低就労年齢に達した思春期の子どもが行なえるのは、ILO第138号条約第7条に基づき13~15歳の子どもに対して例外的に認められる「軽易労働」light work だけではない点にも注意が必要です)。

 子どもの保護と、当事者である子どもたちの意見や自律性の尊重とのバランスをどのようにとっていくかについては、「路上の状況にある子ども」に関する一般的意見21号(2017年)も有益な参照文書です。

 なお、児童労働撤廃のための施策を性急に進めることについては、世界の100人以上の専門家から次のような疑義も呈されています。

★ Open Democracy - Open letter: change course on the International Year for the Elimination of Child Labour
https://www.opendemocracy.net/en/beyond-trafficking-and-slavery/open-letter-change-course-international-year-elimination-child-labour/

 この公開書簡は、
「現時点では、科学的エビデンスと働く子どもたち自身の経験ではなく主として観念的・感情的確信に基づいた、善意ではあるが効果がなく、逆効果であるかもしれないCOVID-19以前の規範と実践によって、働く子どもたちの不安定な状況がさらに悪化する大きな危険があります」
 として、当事者である子どもたちの状況に応じた現実的かつ包括的な対応への転換を求めるものです。おおいに傾聴に値する内容だと思います。

 インドでは、子ども労働組合の組織化・活動を支援してきたCWC(The Concerned for Working Children)が今年4月末に主催したイベントで、働く青少年自身による次のような要請がとりまとめられました。「青少年のための安全な職業」(Safe occupations for adolescents)についても多くの要求が出されています。

★ The Concerned for Working Children - Petition by working adolescents demanding attention and child-rights friendly response from the State on the 29th April 2021, the eve of National Child Labour Day, India
https://www.concernedforworkingchildren.org/news/2021/04/petition-by-working-adolescents-demanding-attention-and-child-rights-friendly-response-from-the-state-on-the-29th-april-2021-the-eve-of-national-child-labour-day-india/

画像1

 前述の共同声明でも、「自己に影響を与える決定において意見を聴かせることに対する子どもの権利」の重要性に言及されています。ILOは働く子どもたち自身の意見を聴くことについて一貫して消極的な姿勢を示してきましたが(Facebookへの2017年11月22日付12月17日付の投稿など参照)、子どもの権利委員会としては、そのようなアプローチの修正を働きかけることも検討しなければならないと思います。12月17日付の投稿でも紹介していますが、「意見を聴かれる権利」に関する委員会の一般的意見12号(2009年)の関連パラグラフもあらためて掲載しておきます。

116.法律ならびに国際労働機関第138号条約(1973年)および第182号条約(1999年)が認める年齢未満で働いている子どもたちは、当該状況および自分の最善の利益に関するその意見を理解するため、子どもに配慮した環境で意見を聴かれなければならない。このような子どもたちは、経済的および社会構造的制約ならびにこれらの子どもたちが働く文化的文脈を尊重する解決策の追求に包摂されるべきである。子どもたちはまた、児童労働の根本的原因を解消する目的で政策、とくに教育に関わる政策が立案されるときにも、意見を聴かれるべきである。
117.働く子どもたちは法律によって搾取から保護される権利を有しているのであり、労働法の実施状況を調査する査察官が就業場所および労働条件を検査するときに意見を聴かれるべきである。子どもたち、および存在するのであれば働く子どもたちの団体の代表は、労働法が起草される際または法律の執行状況が検討および評価される際にも意見を聴かれるべきである。

いいなと思ったら応援しよう!

平野裕二
noteやホームページでの翻訳は、ほぼすべてボランティアでやっています。有用だと感じていただけたら、お気持ちで結構ですのでサポートしていただけると、嬉しく思います。